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『海のはじまり』に何度も登場する絵本に込められた意味 『くまとやまねこ』が象徴するもの

  • 2024.9.17
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(C)SANKEI

月9ドラマ『海のはじまり』に、水季(古川琴音)と海(泉谷星奈)を繋ぐアイテムとしてたびたび登場する『くまとやまねこ』という絵本。一方で、津野が愛おしそうに手にしていることも多く、津野(池松壮亮)と水季や海との過去のあたたかな関係性を思わせる。

『くまとやまねこ』のあらすじは?

『くまとやまねこ』は、2008年に河出書房新社から出版された絵本。第40回講談社出版文化賞絵本賞、第1回 MOE絵本屋さん大賞第1位など数々の賞に輝いており、アメリカやフランス、ドイツなど日本以外の国でも愛されている。

この絵本は、くまと仲良しのことりが死んでしまった場面からはじまる。ことりを亡くした悲しみから立ち直れずにいたくまだが、ある日やまねこに出会い、新たな一歩を歩き出す物語だ。

大切な人の死をゆっくりと受容し、悲しみを乗り越えて生きていくグリーフケアの名作として名高い作品の一つだ。

ことりは水季として、くまは津野?

『くまとやまねこ』が、『海のはじまり』にたびたび登場するということは、『くまとやまねこ』が、本作のストーリーに何らかの関係があると考えられるだろう。

作中で亡くなっている人物は、水季ただ一人。水季=ことりと考えるのが自然だろう。そう考えると、水季の両親、海、夏、津野など水季とつながりがあった人物の全てが、くまであるとも考えられる。そして、水季の両親や夏には海が、海には夏や水季の両親など、家族という繋がりのなかで水季の死に対する悲しみや思い出を共有できる人、いわゆるやまねこがいる。

では、津野はどうだろう。水季の死後、津野は何度ももう会えないよと海に告げており、第3話では、津野から弥生(有村架純)に対して「疎外感すごいですよね」と話しかけている。津野は海や水季との間に一線を引き、あくまで他人として関わっていることが分かる。番外編『恋のおしまい』で描かれたように、水季と津野の間にはさまざまな葛藤があってのことだが、津野は水季の両親とともに水季の死の悲しみを乗り越える立場にないと感じているのだろう。

水季の両親や夏は互いがやまねこであるのに対して、津野にはやまねこがいないのだ。

津野にとってのやまねことは?

ストーリーが進むにつれて、水季の両親や夏、海が水季の死を受容していくなか、津野はまだ水季の死を受け入れられていないように見える。津野の性格上、ただ単純に悲しみに暮れるわけではなく、怒りに近い感情を夏にぶつけることで表現していることも何とも悲しい。

そんな津野が取り繕うことなく、同じ外野の立場として会話をできているのが弥生だ。第7話で津野は、軽口も混ぜながら、弥生に水季との時間を語っていた。弥生は、水季とは会ったことのない他人であり夏を介してのみつながっている。

水季と他人の弥生だからこそ、津野は水季との思い出を滔々と語れるのかもしれない。くまが、ことりとは無関係のやまねこのおかげで立ち直れたように。

『くまとやまねこ』が何度も登場することを考えると、『海のはじまり』は家族を軸に描きながらも、大切な人の死を乗り越えるまでの過程も丁寧に描こうとしているのかもしれない。津野と弥生は、水季や夏、海がいなければ出会うことはなかった。そんな無関係な人間同士だからこそ、与えあえる影響が確実にあるのだ。



フジテレビ系 月9ドラマ『海のはじまり』毎週月曜よる9時

ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202