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年齢を重ねたら「オワコン」? 若手歌姫の登場にスズ子(趣里)はどう立ち向かったのか

  • 2024.3.23

年齢は呪いだ。キャリアは時に足枷になる。若い頃は「若い」だけで持て囃され、さらにセンスや才能が加われば、まさに鬼に金棒な存在として蝶よ花よと扱われる。ブギの女王として舞台に立ち続けたスズ子(趣里)も例外ではなく、若手の新人歌姫・水城アユミ(吉柳咲良)の存在に怖気付いていたが……。

「負けたほうがええねん」娘・愛子を諭した意図

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(C)NHK

アユミの登場に心をモヤつかせるスズ子と、足の速い転校生の登場に悔しがる一人娘・愛子(このか)の姿が重なる。

スズ子は歌と踊りで、愛子はかけっこの速さで、いわば自身のアイデンティティを保ってきた。生まれてきた意味、これから生きていく理由とも同義で語られる「大事なもの」「やりがい」が、ちょっとした変化やきっかけで奪われる怖さ

しっかりと足場を固めて立っていたはずなのに、世間からは勝手に天秤で価値をはかられ、気づいたら危うい立場に追いやられている。

少し年齢を重ねているというだけで、少しキャリアが長いというだけで、現代の言葉で言うなら「オワコン」という簡単な4文字に落とし込まれてしまう。

新人歌姫・アユミのフレッシュさ、世間に与える新鮮な印象は、本来ならスズ子と比べられるものではない。それぞれの良さがあり、優劣で語られるものではないはずだ。

しかし、世間は辛辣な目線を持っているもの。若ければ若いほど、新しければ新しいほど、自然とそちらに耳目が集まってしまう習性を感じざるを得ない

アユミから直々に、オールスター男女歌合戦にて「ラッパと娘」を歌わせてほしい、とお願いされたスズ子は、悩んだ。同じ舞台で歌えば、自ら「どうぞ比べてください」と言っているのと同じだ。

それでもスズ子は、熟考した末に、アユミが「ラッパと娘」を歌うのを許可した。

比べられてもいい、負けたっていい。堂々と立ち向かって悔しがるほうがいい、とスズ子らしい決断を下したあと、その思いは娘の愛子にも自然と伝わる。

足の速い転校生に負けてしまい、悔しがって泣く愛子は、負けるのを怖がって逃げた場合よりも多くの成長の糧を得ただろう。

「ラッパと娘」と「ヘイヘイブギー」

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(C)NHK

3月22日に放送された第25週「ズキズキするわ」121回、ついに訪れたオールスター男女歌合戦にて、アユミの歌う「ラッパと娘」が、そしてスズ子の歌う「ヘイヘイブギー」が披露された。

相変わらず、いや、これまで以上に魅せるステージに、この物語が終焉に向かって進んでいることの実感がわく。

はつらつと歌いあげるアユミの「ラッパと娘」は、往年のスズ子の迫力と躍動感を彷彿とさせた。対してスズ子の「ヘイヘイブギー」は熟練した技術と、目の前の聴衆の心を掴んで離さない、不思議な求心力に満ちている

3月25日の最終週「世紀のうた 心のうた」に向けて、スズ子の覚悟が受け取れるようなステージだった。



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_