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受け継ぐ者と、受け継がれる者。スズ子(趣里)が娘に時計を託した理由

  • 2024.3.11

大切な人を、ずっと連れ添った身内を、看取る。亡くなった故人を思いながら、葬儀を執り行い、残った写真で静かに弔う。『ブギウギ』第23週「マミーのマミーや」で、スズ子(趣里)は父・梅吉(柳葉敏郎)を看取った。香川で写真館を繁盛させていたという梅吉が撮った写真には、どれも笑顔が満ちていた。

梅吉を看取ったスズ子の思い

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(C)NHK

弟・六郎(黒崎煌代)や夫・愛助(水上恒司)を直接看取ることができなかったスズ子。大切な人を送ることができなかった後悔は、生きている限り残る。

しかし、彼女は香川まで出向き、梅吉の最期に付き添うことができた。それはスズ子にとって、かけがえのない身内と別れるつらさや悲しさを、完璧に補うことにはならない。

それでも、去ろうとしている父に、孫である愛子(小野美音)を引き合わせることができた意味は、大きい。この世を去っても繋がる命があると思えることは、残る者と去る者、双方にとって救いになると信じたい。

スズ子の歌や踊りは、見聞きする人に力を与える。それは、彼女自身が人との縁を重んじ、かつ儚さまでも痛感しているからだろう。

出会いも別れも一瞬のことで、どちらかが諦めてしまえば、離れた糸は二度と繋がらない。それを心のどこかでわかっているからこそ、彼女の歌には熱がこもるのだ。

スズ子が愛子に託した時計に込められた意味

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(C)NHK

梅吉の葬儀の場で、久々に母・キヌ(中越典子)と再会したスズ子。急激に距離感が縮まることはなく、血の繋がった親子であるのにどこかよそよそしい空気は、彼女たちの過去を思えば仕方のないこと。

しかし、愛子から「あの人は誰?マミーのお友達?」と訊ねられたスズ子は、言い淀みながらも「マミーの、マミーや」と答える。キヌのことを、母である、と初めて認め、言葉にした瞬間。迫り上がる感情をこらえるキヌの表情に、もらい泣きする朝となった。

スズ子はかつて、キヌから時計をもらっていた。黄色の布に包み、長らく棚の奥底にしまわれていたが、彼女はそれを愛子に託す。

「愛子が持っているのが一番良い」と言った心理の裏には、受け継ぐ者、そして受け継がれる者それぞれの、言葉にし得ない思いが込められているように思える。

残る者と、去る者。受け継ぐ者と、受け継がれる者。まだ本人は知る由もないけれど、スズ子の娘・愛子の存在そのものに、多くの命や思いが連綿と注がれている。彼女に託された「かわいらしい時計」の意味を知るのは、いつ頃になるだろう。



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_