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朝ドラ『ブギウギ』「ハハキトク」家族か舞台か、瀬戸際でスズ子(趣里)が選んだのは

  • 2023.11.22

「あんたは、死なん」ーー甲種に合格した六郎(黒崎煌代)の元へ、ついに赤紙が届いた。出発前に、大阪にいるスズ子(趣里)の元へ訪れた六郎。死の恐怖に震える六郎に、スズ子が目に涙をためながら告げる強い言葉が、視聴者の心に触れる。

死の恐怖を自覚していた六郎

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(C)NHK

甲種に合格し、赤紙を手にした六郎は、純粋に喜んでいるように見えた。自分の力を認めてもらえたことに対し、無邪気にはしゃいでいるのだと思えた。それでも、やはり六郎だって「死んでしまうかもしれない可能性」を前にして恐怖し、耐えられなくなっていたのだ。

両親の前では怖さや弱音を出さなかった六郎が、大阪にいるスズ子の元を訪れる。そして、胸の内に秘めた怖さを、弱音を、不安を、スズ子にだけ打ち明ける。

布団にくるまりながら「死ぬときに、一人はイヤや」とこぼす六郎に、スズ子は強くしっかりと「あんたは、死なん」と伝える。たまらず、スズ子にすがりつく六郎の心を思うと、いかに徴兵というものが酷だったのかを思い知らされる。

いざ出発のとき、六郎はスズ子を振り返らなかった。六郎を演じる役者・黒崎煌代は、この『ブギウギ』がデビュー作だという。初演技とは思えない表現力も相まって、六郎というキャラクターが忘れられなくなりそうだ。

家族か舞台か、瀬戸際でスズ子が選んだのは

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(C)NHK

六郎が徴兵され、間もなく「ハハキトク」の電報がスズ子の元へ届く。弟がいなくなり、続いて母・ツヤ(水川あさみ)まで、スズ子の手の届かないところへ行ってしまうのか。すぐに大阪へ帰るべきか、それとも自分の歌を待っている観客のために舞台へ残るか。

きっと引き裂かれるような思いで、スズ子は東京へ残り、いつものように舞台へ立った。魂で歌った「センチメンタル・ダイナ」は、観客はもちろん、指揮をしながら聴く羽鳥(草彅剛)の感情も揺らす。

家族か舞台か。この二択を迫られたとき、スズ子は舞台を選んだ。歌手として、もっともっと大きくなるために、観客の元へ急いだ。

それは、家族に背を向けたわけではない。舞台に立つことが、観客を通り越して家族のため、そしてまわりまわって自分のためになると本能で感じ取ったからではないか。自分の足で舞台に立つ、心を律した女性を演じるのに、趣里ほどの適任はいないと思わされる。

 

※記事内の情報は執筆時点の情報です



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_