深い演技が魅力の尾野真千子さん。今回の映画『影踏み』でも、犯罪者になってしまった恋人を20年も愛し続ける女性という、難しい役を演じていらっしゃいます。
尾野さんの演技は何かが違う。そう感じる源はなんなのか? 尾野さんにとっての、女優という仕事の意味について聞きました。
他人に相談しても結局決めるのは自分。久子のセリフはいろんな人を代弁していると思う
ーー映画「影踏み」は窃盗犯の男性を20年愛し続ける女性を演じていらっしゃいましたが、そのあたりはどう感じられましたか?
「どうなんでしょうね?(笑) 犯罪は良くないけど、“待てる”というのは素敵なことだと思います」
ーー修一という男性の魅力はどんなところだと思いました?
「わからない。ぶっちゃけ私はなんで待っていたんだろうと思いました。それなりの魅力はあったんだろうと思うんです。でも演じる上で、そういう漠然とした言葉しか自分の中には材料がなくて。ずっとなんでだろうと思っていました」
ーー映画の中で、「好きな男に流されているようで、私は全部自分で選んできた」というセリフが印象的でした。そんな久子の生き方についてはどう思われましたか?
「うーん……良いと思う。みんなそうだと思う。よく他人に相談する人っているじゃないですか。でも結局はみんな自分で決めているんですよね。『もう別れたい』『つき合おうかな』って、みんないろんなことを他人に相談するけれど、自分の中で答えがすでに固まっている前提で相談している気がするんですね。だからあのセリフの意味が私にはよくわかる気がしました。多くの人の生き方や行動を代弁している気がすると思いました」
生きていることが自分にとっての芝居。だからいろんな経験をしなきゃと思う
ーーTRILLは「自分らしさ」がテーマの一つです。お仕事をしているときの尾野さんは「自分らしい」と感じていらっしゃいますか。
「自分らしくいようとしています。つくるときもありますけどね。でも結局は自分が出てきてしまう気がします」
ーー演じていてもどこかに自分はいる、と。
「自分はいますね。アドリブするときなんて、大概自分です(笑)」
ーー現場で出るものを大事にしているそうですが、準備しすぎて固めないということでしょうか。
「そう、準備しない。準備って自分にとってマイナスが気がするんです。準備をしていっても、なんかうまくいかないんですよね。だからその場の空気に乗っかってやるようにしています」
ーーやはり一緒にお芝居する相手の方、監督やスタッフのみなさんから引き出されるものをその場で出すといったことでしょうか。
「その通り(笑)。でもそのほうがうまくいくし、引き出されることもあれば、相手を見て今楽しいんだと思えば、楽しいことが自然と出てきます。それは表情にも出てくるし。作っていくと出て来ない。自分で考えたことを出そうとするから、どうしてもズレてしまうんですよね。だからその場その場の空気や感じたニュアンスでやるようにしています」
ーーそうなると、今まで生きてきたこと、経験したことの中にヒントがたくさんありそうですね。
「そうですね。生きているということが自分にとってお芝居の一つになっているので、とりあえずいろんな経験をしなきゃと思います」
ーー今までお仕事をしてきて、ここが分岐点だったのではと思ったことはありましたか?
「それぞれ転機でした。もちろんNHKの朝ドラに出演したことで、私のことを知ってくださる方が少しは増えたと思いますし、生活も変わりました。それでも全ての映画やドラマによって、『あの役をやっていた尾野真千子』と、一人ずつ認識してくださる方が増えたと思います。全てにおいて、一歩ずつ進化しているなって感覚があったので、すべてが転機でした」
悲惨なこと、楽しいこと……芝居をするのはいろんな人に伝えたいことがあるから
ーーでは女優というお仕事や演じるということは、尾野さんの人生にとってどんな意味合いがありますか?
「なんだろうな……。どういう意味合いなんだろう」
ーーあまりにも普通にあることですか。
「いえ、お芝居って普通にあることではないと思います。ここまでくるのに、いっぱい努力したもの。だから当たり前ではないし、お芝居を通していろんな人にいろんなことを訴えられたし、意味のあることだと思います。自分の趣味のような、特技のような感覚ではありますけど……私たちがお芝居で投げかけたことによって、一人の人間の人生が変わってしまったり、『ああ、そういう考え方もあるんだ』と思ってもらえることもあるから」
ーー確かに人生観が変わるくらいの作品やお芝居に出合えることもあります。
「例えば、『私もそれを真似したい』と感じてもらえたなら、何かお手伝いをしているようなことでもあるのかなと。そう考えられるようになったのは最近なのかも知れないけど、芝居をする意味って、いろんな人に伝えたいからなのかなって。例えば歴史だったり、実際にあったことを物語にするのって、そのことを忘れないで欲しいからで。悲惨なこと、楽しいこと、家族のこと……そういう伝わって欲しいことを伝える手段がお芝居で、私はそれを伝える人。そう思います」
ーー尾野さんにとって、今感じる自分らしさとはどんなものですか。
「なんだろう……。『自分らしさ』って人によると思います。自分らしくいられるのって、その相手が自分らしくいさせてくれる人であるかどうか、なのではないでしょうか。私でいえば、自分らしくいさせてくれる事務所であるかどうか。恋人が自分らしくいさせてくれる相手であるかどうかーーそう思います。ときには、自分らしくいられない現場や人と対峙しないといけないときもありますが、私は自分らしくいたいと思う。正直に言うと、自分らしいってどういうものか、私にはわからない。ただ自然体でいることが自分らしいとは思います」
ーーでは自然体でいるために大切にしていることは?
「特にないんですけど、気持ちに嘘はつかないということですかね。良くも悪くも本音をいつも言っている気がします。腹が立つときは腹を立てるし、楽しいときは楽しい。甘えるときは甘えます。自分に素直に自然体でいることを心がけてますね」
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Movie & Photography:Yohei Takahashi(f-me)
Movie edit & Design:dely
Writing:Yuko Sakuma
Edit:Natsuko Hashimoto(TRILL編集部)