東京2020オリンピック公式映画監督!「河瀨直美」の自分らしい生き方とは

映画監督でありながら、母として生きる河瀨直美さんに、自分らしい生き方について語っていただきました。「情報を入れすぎない。自分の見たこと、聞いたことで判断することが大事」「人間やってできないことはない。自分を知り、自分らしくいるということが大事」。河瀨直美さんの「人生観」について取材しました。

自然は自分を見つめ直す時間をもたらしてくれる

――27歳でカンヌ国際映画祭カメラドールを受賞した「萌の朱雀」、最新作「Vision」など、奈良県の吉野の森を映画の題材にされることが多いのはなぜでしょうか?

「奈良は海がない。山しかないんです。そうすると山の中に身近な遊び場があるんです。大樹や木々、そこからこぼれ落ちる光……そういうものが身の周りに当たり前のようにあって、ふと多感な時期に悩んで森に迷い込むと、感動するというか、何か心がザワザワさせられることがありました。それは何だろうと考えてみると、おそらく自分を見つめる時間を持たせてもらっていたんだろうなって思うんですね。だから私は森に迷い込むというのは、自分を見つける旅でもあると思っています。でも今はテーマパークのアトラクションで気晴らしできるし、エステやマッサージに行って癒やしも得られますよね。でも迷いや疲れが取れる体験というのは、自分が自分にもたらさないと、結局は何も始まらないと思うんです。吉野の森のような自然は、そういう場を人にもたらしてくれると思います」

できないことを悩むより、どうしたら自分ができるかを考えて1個1個今日できたことを喜ぶほうがいい

基準は自分。自分の心に心地いいかどうかを聞くのが大事

――あまり多くの情報を取り入れないようにするのが、評価に惑わされないための対処法だと前回のインタビューでおっしゃっていました。現在も奈良県に住んでいらっしゃるのはそのためもあるんでしょうか?

「東京は本当に疲れますね(笑)。情報がいっぱいあるから、奈良と同じテンションで東京にいるとすぐ潰れます。奈良では常に心を開いた状態でいますが、東京だとそこにいろんなものが入って来て処理するだけでも時間を費やしてしまうから。それって必要なの? って思うことが多いんです」

――確かに東京はいろんなものであふれていますね。

「何か買いたいと思ってもいろんなお店やいろんなものがあって、どこに行って買えばいいんだろうって(笑)。例えば洗剤ってたくさんの商品があるじゃないですか。でも『これ』と決めてしまえば、それを買えばいい」

――何か判断する基準があれば悩まないで済むのかもしれないですね。

「基準は『自分』ですね。自分の心に心地いいかどうかちゃんと聞く。その判断は自分でできるはずで、心地よくないと思えばやめてしまってもかまわないんですよね、きっと」

――自分が楽しくいられるか、心地よくいられるかが大事。

「絶対そうだと思います。人との関係性でも自分が笑えば相手は笑いますよ。子供を見ていると本当にそうです。私が笑えば、息子も笑っていますからね。子供だけじゃなく人間は絶対そうだと思います。できなくても『まあ、いいじゃん。楽しいからやってるんだよね』くらいの気持ちでいればいいと思う」

――そう言われたら気持ちが楽になります。

「できないからって悩むより、どうしたら自分が自分の役割を果たせるかを考えて、1個1個今日できたことを喜ぶほうが元気でいられると思います」

――河瀨監督が今いちばん楽しい時間は?

「畑で過ごすときですかね。あとは家に咲くお花がきれいになることをする時間がすごく楽しいです。やればやるほど実るから。例えば人間関係ってやってもやってもどうにもならないことがあるじゃないですか。でも野菜や花は手をかけたらかけただけきれいになってくれる。そして自分で作ったものを料理するのもすごく楽しいです」]

正義と正義がぶつかりあっても、どちらが悪でもなく、見方によってはどちらも正義なんです

子育てで学んだのは、自分がいくら頑張っても変わらないこともあるということ

――河瀨さんの人生の中で分岐点だと思われるのはいつですか?

「子供を産んだときと自分を育ててくれた義母が亡くなったとき。だから『家族』……私がどこから来て、どこに行くのかということにとても近い出来事がターニングポイントです。それは作品にも人との関係性にも影響したと思います」

――お子さんが生まれて変わったと実感していることはありますか?

「自分だけではどうしようもないということがわかった。若い時期は自分が頑張れば世界は変わると思っているけど、母親になると自分がいくら頑張っても変わらないことがあるんだってわかります。なぜなら他者である子供が、私がいくら泣くなって言っても泣いているから(笑)。それを理解することによって、自分とは違う価値観を持った人との関係性も同じだと思うようになりました。この人はこれが正義だと思っている、でも私はその人とは違うものを正義だと思っている。そうすると正義と正義がぶつかりあって、結果的にはどちらかが正義ではなくなる。だけど見方によっては、どちらも正義なんです。そこを融合させて次のステップに進むことが大事だと思えるようになりました。子育てをして、自分が成長したのは何かを認める心を持てたことだと思います」

――それは寛容さみたいなものでしょうか?

「よく器が大きくなった、何かを受け止める自分になるという言い方をしますけど、自分以外のものが存在しているということを理解することなのかなって、私は思います」

自分らしくいることが何でもできることに繋がる

たくさんの情報に惑わされないこと。自分で見て、聞いたことの中から判断することが大事

――では河瀨監督が思う自分らしさとはどんなものでしょうか?

「自分というものを見失わないこと、ブレないということだと思うんですが、そのためにどんな時間を過ごすかが重要だと思います」

――そうするためにアドバイスしていただくなら?

「繰り返しになってしまいますが、たくさんの情報に惑わされないこと。自分で見て、聞いたことの中から判断すること。そうしたほうが何事もシンプルに考えられて、輝いていられると思います。その土で、自分と誰かを比べない」

――情報を取り入れすぎないようにするにはどうすればいいんでしょうか。簡単なのは「逃げろ」ってことかと思ったり(笑)。

「本当はね(笑)。でもなかなかそういうわけにもいかないから、自分の心地いい時間をできるだけ多く持つことかな。草いじりやお花を育ててみて、たったひとつのプランターでいいんです。この子が成長するのを見るのが、すごく楽しいと思うとかね。お料理すること、お酒を飲むこと……とにかく楽しい時間を持つことを増やせばいいんじゃないかと思います」

――最後に座右の銘があったら教えてください。

「人間やってできないことはない、というのが亡くなった養父がよく言っていた言葉でした。それは何をやってもいいという話ではなく、やろうと思えば自分次第だよということ。ここで一貫して話して来たことに繋がると思うんですけど、自分を知ること、そして自分らしくいるということが何でもできるということに繋がるんだと思っています」

Information 映画『Vision』Blu-ray&DVD2018年12月5日発売

河瀨直美さんの他のインタビュー記事を読む

〉〉カンヌ国際映画祭受賞から21年!河瀨直美監督が今『映画』を通して伝えたいことは?

Movie Director:Yohei Takahashi (f-me)
Writing:Yuko Sakuma
Edit:TRILL編集部

提供元: TRILLの記事一覧はこちら
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