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カンヌ国際映画祭受賞から21年!河瀨直美監督が今『映画』を通して伝えたいことは?

  • 2018.6.14

27歳のときに史上最年少でカンヌ映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞した河瀨直美さん。新作映画『Vision』は奈良・吉野の美しい自然を舞台にした「いのち」の物語。18歳で8ミリカメラを手にしたときに「豊かな人生を歩める可能性を感じた」という河瀨監督にとって、映画とは? 河瀨監督の映画監督という仕事への向き合い方について、取材させていただきました。

 

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ーー18歳のときに8ミリカメラを手にしてから映画を撮るようになったそうですが、どうして映画を撮りたいと思われたんでしょうか?

「当時は何かこの世界に残せるもの、自分が生きて何か残せるものはないかと思っていました。それは音楽でも、小説やデザインでも良かったんだけれども、なぜ映画だったかというと、映画の神様のほうが私のところに降りてきたとしか言えません(笑)。それくらい映画とは縁遠い生活で、高校生まではほとんど映画も観ませんでした。

だから私のところにやってきたのは、何かわけがあるのかなと今でも思うんですが……映像というものは、おそらく時間を閉じ込められるメディアなんですよね。8ミリカメラを手にしたときに、タイムマシンを手に入れたと思ったことを覚えています」

ーー時間を閉じ込められるメディアとは?

「映像を通してならもう一度過去にも行けるし、フィクションであれば未来にも行ける……そういうものすごく可能性のあるメディアだと思います。人間が生きている時間は『今』でしかない。もちろん記憶の中でなら過去も未来も頭には思い浮かべられるけど、リアルな映像として過去にも未来にも行ける、それが映画なんです。

だから活用次第では、良いことにも悪いことにも使えてしまう。なんていうんだろうな……かじったらヤバイことになる林檎のようなものだと思います(笑)」

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ーーカンヌ国際映画祭で新人賞をとってから21年。映画を撮り続けてきた日々は河瀨さんの人生の中で、どんな位置を占めているんでしょうか?

「8ミリフィルムカメラに出会ったのは、自分が『どうして生まれて来たんだろう』、『この先どういうふうに生きていくんだろう』と迷っていた時期でした。そんな時期にタイムマシンのようなものを手に入れたことにより、自分がより豊かな人生を歩める可能性を感じたし、カメラがそこへ導いてくれると思ったんですね。

一つの作品を作るたびに知り合う人や、一緒に作ってくれる人たちと出会います。その人々が私を成長させてくれるんです。その出会いがまた次の作品を作ることに繋がる……そんな相乗効果があるから続けていける。続けていくことが『力』です。その力がまた次の力を呼ぶ。

映画を作る私たちだけではなく、そこに観てくだる方の力も加わることによって、『次』がもたらされるので、こんなに楽しいことはないと今は思っています」

ーー撮り続けている間に、大きな壁にぶつかって、挫折しそうになった経験はありますか?

「結局は評価が自分を押しつぶしてしまうんだと思います。例えば国際的な映画祭に行って賞を獲るとか、そういうことで作家が潰されてしまう可能性はありますね。『評価』は諸刃の剣。評価されたらされたで、その期待に応えなければならないと肩に力が入って、撮れなくなることもあるでしょう。もちろん、それはまた次の作品への力にもなるんですけどね。

とにかく賞を獲るために映画を撮っているんじゃないということに、ちゃんと立ち返らなければならない。評価に惑わされないことはすごく大事」

ーー評価に惑わされたり、押しつぶされそうなときは、それを乗り越えたり、覆す力が必要だと思います。

「これは私自身の対処法だと思うんですが、いっぱい情報を入れてしまうと惑わされるので、『私が何であるか』ということを見つめることが大事かな。だから私はテレビの情報番組やバラエティー番組はほとんど観ません。そうすることで余計な情報を入れないようにする、というのが対処法の一つなんです。

だから情報の多い東京には絶対に出て行かない(河瀨監督は奈良市在住)というのもあります(笑)」

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ーー新作『Vision』は吉野の森と美しい音楽がとても印象的でした。ストーリーを理解しようと思うと難しい部分がありましたが、映画全体を通して、河瀨監督が伝えたかったことを教えていただけますか?

「人生って『これ』ってなかなか具体的には言えないできことがいっぱいあると思います。私の人生どうなの?って聞かれても一言で語れないのと同じように、この映画の中で、私はひとつの答えや『Vision』って何なの?という答えを提示していません。それでもこの映画を観てくださったそれぞれの人の中に、答えを見つける“きっかけ”みたいなものを渡せるかもしれないと思っています。

例えば今日見てそのまま理解できるかといえば、そうではなく、おそらく何かの局面で思い出されるような映画になるのかな、と。それは約20年前に撮った『萌の朱雀』(第50回カンヌ国際映画祭カメラ・ドール受賞作)もそうで、公開時は『ストーリーや登場人物の関係性がわかりづらいんだよね』と言われました。でも何かが残る。公開時に観てくださった世界中の方が10年、20年経ってもう一度見てくださるような作品になりました。

そう思うと、『Vision』は『萌の朱雀』から21年経った、48歳の自分が撮るべくして撮った作品なのかなと思います」

ーー撮影中は出演者の方々と、どんな関係を作っていくのですか?

「例えば、ベテランの永瀬正敏さんでもあることですが、力が入りすぎていたり、セリフを読んでいるようになるときはNGなんですね。私はNGとは言わないけど、「もう1回いこうか」と声をかけます。もうちょっと出演者の表情を見て、何かにじみ出てくるようなものを自然に出そうと思うから。

そういうふうに時間を積み重ねていって、共演者というよりは一緒に生きている人たちとの関係を深めていく。それをカメラで記録します」

ーー河瀨監督にとっては、映画を撮るということは、一緒に生きるということなのかなと感じました。

「私たちスタッフはその場を用意する。だからそこでみんなで生きていこう。そして、生きていくその場所に、カメラが介在するよっていうようなことです。だから可能であれば、撮影前に1週間か2週間、撮影場所に先に入って映画の時間を生きてもらうようにするんです。

私の映画はある種、ドキュメンタリーのようなもの。みんなが共犯者でドキュメンタリーを作っているような感覚かもしれません」

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▶映画『Vision』公式サイト

Movie Director:Yohei Takahashi (f-me)
Writing:Yuko Sakuma
Coordinate:Makiko Yanagi
Edit:Natsuko Hashimoto(TRILL編集部)

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