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トーマス・マイヤー、ボッテガ・ヴェネタを復活に導いた17年間の軌跡。

  • 2018.6.19
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Photo: Shutterstock/AFLO
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2001年、トーマス・マイヤーがクリエイティブ・ディレクターに就任した時、ボッテガ・ヴェネタ(1966年にイタリアのヴェネト州で創設された)はPPR社(現在のケリング社)に買収されたばかり。マイヤーには、当時、倒産寸前だったブランドの業績を回復させるという大きな任務が課せられていた。彼は、ブランドの財産である卓越したクラフトマンシップと、彼が得意とする機能美を軸に、改革に着手。すぐさま成功の道を歩み始めたボッテガ・ヴェネタは、2012年までに10億ドルを上回る売上を叩き出し、その時点で、ケリング社が保有するブランドの中で最も成長力の高いブランドとなった。

先日、ケリングの会長兼CEOであるフランソワーズ=アンリ・ピノーは、マイヤーの退任について次のようなコメントを発表した。

「ボッテガ・ヴェネタが素晴らしいブランドに成長したことは、トーマスの非常に高いクリエイティビティが大きく影響してる。ラグジュアリーなポジションへと復活させ、誰もが魅了されるブランドへと成長させたのだから」

永遠のイットバッグ「カバ」はブランドに復活をもたらした。

マイヤーは、21年前に自身の名前を冠したブランド「トーマス・マイヤー」を設立。「Time Off」をテーマに、心や時間からの解放に重点を置き、得意分野でもあるホリデーウェアを数多く打ち出してきた。その彼の特徴を存分に発揮し、就任後初の大ヒットとなったのが、トートバッグ「カバ(Cabat)」だ。インスピレーションは、彼の母親が持っていたイントレチャート(手編みの)バッグ。この繊細に織り上げられた上質なレザーバッグは、マイヤー流の洗練されたカジュアルさと、強い日差しを浴びたようなカラーリング、そして、ロゴに頼ることのない控えめなデザインが特徴で、その後のクリエーションに、多大な影響を与える存在となった。

勢いにのったブランドは、プレタポルテをはじめ、アクセサリーやフレグランスまで幅広く展開し、ミラノやNY、LAなどに次々と新店舗をオープン。それらの店舗は、建築家の父親の元で育ったマイヤーのディレクションによって、それぞれの地域文化に敬意を表しながら、上品でユニークなデザインに仕上がった。シックさと謙虚さの融合が好まれるファッション業界において、ボッテガ・ヴェネタほどそれを自然にこなすブランドはないだろう。

世界的アーティストたちとの知的なコラボ。

2018年5月、「トーマス・マイヤー」はユニクロとのコラボで美しいリゾートコレクションを発表した。このコラボを意外に思う人がいるかもしれないが、ユニクロのブラックスウェットシャツを愛用する彼は次のように語った。

「とてもやりがいのある挑戦だった。それは価格帯のことではなく、さまざまな体型や年齢、ありとあらゆる人々に向けて服を作る必要があったからだ。『この服は誰にでも似合うだろうか?』いつもそう考えていたよ」

マイヤーは、アーティストとのコラボも度々行なってきた。シーズン毎のキャンペーンでは、あえてファッションフォトグラファーは起用せず、代わりに、ロバート・ロンゴやナン・ゴールディン、モナ・クーン、ラリー・サルタンといったアート界で高く評価されている写真家たちをキャスティングし、意識の高い消費者に向けて、ブランドのインテリジェンスを表現した。2018年春夏では、著名なアートディレクター、ファビアン・バロンと組んで、デジタル主体の映像キャンペーンにも挑んだ。

「セレブリティたちが服を借りるという行為が好きではないんだ」

その一方で、彼は自身が表に出ることを極力避けてきた。現代において、多くのデザイナーがSNSを通じて自身のライフスタイルを披露し、ブランドアンバサダーを務めるモデルや女優たちとレッドカーペットを歩く。しかし彼は、そういったことに全く興味を示さなかった。2013年、『ウォール・ストリート・ジャーナル』の取材に対して次のように答えている。

「セレブリティたちが服を借りるという行為が好きではないんだ。服を買うことと借りることは、全く異なる行為。服を買うということは、決断するということ。『私にぴったり』と言って借りるのとでは、意味が違う」

彼に言わせれば、地位や名声に一切関係なく、服を借りることはその人の決断力の欠如を露悪することなのだ。

それでもなお、マイヤーの代名詞である「目に見えないラグジュアリー」を具体化したミニマルなスタイル、特にイブニングドレスは多くのセレブを魅了した。最近では、女優のアン・ハサウェイやモデルのリウ・ウェンなどが彼のドレスを纏い、レッドカーペットを歩いている。

そんな中、最も印象的だったのは、2017年春夏のランウェイに登場した当時72歳のローレン・ハットンだろう。このシーズンは、彼の就任15年の節目にあたり、初めて社屋以外の、古典的な彫刻や芸術作品が並ぶブレラ国立美術学院の廊下で開催された。カレン・エルソンや、エヴァ・ハーツィゴヴァジジ・ハディッドなどの人気モデルに引けを取らない存在感を見せつけた彼女の起用は、シニア顧客層への敬意を表し、非常に関心の高いショーとなった。

今後のブランドの舵取りは32歳のダニエル・リーへ委ねられる。

彼はミレニアル世代にもアピールをすべきだった、と指摘するビジネスアナリストがいるのは確かだ。2015年に売上が減速しはじめると、2016年には売上高が9%も下落(14億ドル)、2017年も横ばいに留まった。今やデザイナーがインスタグラムで自ら発信し、若くフレッシュな才能とのコラボを求め、有名人による着用を優先させる時代だ。

現在、ケリング社で最も売り上げが好調なグッチは、アレッサンドロ・ミケーレというスターデザイナーを抱えている。同社がマイヤーの後任に指名した32歳のイギリス人デザイナー、ダニエル・リーに期待することとは、マイヤーのような、クラシックで堅実なビジョンだろうか。それとも、グッチ同様のスター性だろうか。大きな転換期を迎えたボッテガ・ヴェネタが向かう先に、注目が集まる。
参照元:VOGUE JAPAN

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