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【冨永愛、モデルへの道 Vol.11】心と体の食事(前編)

  • 2018.5.31
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ここ数年、オーガニックだったりスーパーフードだったり、ビーガンやマクロビのレストラン、カフェを多く見かけるようになった。
健康思考の現代、より手軽に自分の体調管理がしやすくなったのは嬉しいことである。

しかし、どんなに体調を気遣っていても、忙しさにはかなわないものだ。
たとえばコレクションサーキットで世界中の街を駆けずり回っている時には、正直なところ食事のことまでは気が回らなかった。
キャスティングやフィッティングの合間に食べるのは、その国その土地の簡易的な食事となる場合が多く、パリではパン屋で買うバゲットがほとんどだった。
米を主食とする日本人がバゲットばかりを食べているとどうなるか、長期的に見れば体型の変化はもちろんあるのだろうが、まず最初に現れる変化、それは口の中の上顎の皮が剥けること!
そう文字通り、ズルんと剥けてしまうのだ。口の中の不調は一日中不快なものである。

朝方のパリ、まず最初にお店を開けるのはパン屋さんなのではないだろうか。バゲットの香ばしい香りが、色素の抜けたようなパリの朝を彩る。
ほどよく塩気があり、外側がカリカリに焼けて中はしっとり、この焼きたてのバゲットがたまらなく美味しい。
40センチほどあるバゲットを買って、家に帰るまでに半分食べてしまっていることもよくあった。

カリカリに焼き上げたバゲットは、非常にかたい。それがまた美味しいポイントではあるのだが、とにかくかたい。
このバゲットを5センチほどにカットしたものを赤ちゃんに持たせておくと、おしゃぶりのようにしゃぶっているので、いいあんばいにふやけていく。
赤ちゃんのお腹を満たすし、その間はとても静かなので、フランス人のお母さんは日本のおしゃぶりのような感覚でバゲットを持たせている人が多い。
私も息子とパリに住んでいた時には同じようにしたものだった。

当たり前だが大人はそんな食べ方はしない。
バリバリと食べ続けていると、大体3、4日で皮が剥けてしまう。
そこまで固いものを日本ではあまり食べないからこその、私たちのヤワな上顎である。

そんなこんなで、毎日バゲットばかりを食べるわけにもいかないし、疲れた体が日本食以外を受け付けないことも多かった。
レストランに行く気力もない時のために、私は母親が漬けた梅干しを瓶に詰めて渡航の荷物に忍ばせ、そして海外の日本食スーパーで納豆(冷凍しか売ってないのが残念だったけれど)とレトルトの味噌汁、電子レンジで炊けるお米だけは調達しておくことにしていた。

それは決して “健康的”な食事ではなかったが、日々の戦いの中で少しだけ癒しを与えてくれる故郷の味、それがその時の私にとって “体に美味しい”食事だったのだ。

“体に美味しい”というのは、私がよく使う言葉。その時その時の、自分の体調や心に合ったものを食べられた時に使う言葉である。

(次週、後編へ続く)
参照元:VOGUE JAPAN

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