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精神科医・名越康文が解説する、ビッグな発想の身につけ方。

  • 2018.5.30
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Photo: Getty Images
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ビッグな発想とは。

ビッグに考える方法ってどんな発想法でしょうか。たとえば、思考を展開させる方向性に着目すると、縦に積み上げたり掘り下げたりする方向と、水平に自由に広げていく方向の2種類がありますね。このふたつとも大切なのですが、よりビッグな考えにつながるのは横に広げていくほうですね。思考の柔軟性は、この横向きのサイドステップがどのくらいできるかによります。

ところが、日本は「縦社会」と言われるように、やわらかい発想で考えを横に広げることが求められるシーンはとくに組織においてはほとんどないかもしれませんね。上司や取引先の担当者が理解できる範囲にとどめて、想定内のアイデアを提案しておけばもめないし、面倒くさくない。有能さを煙たがられ叩かれる危険もないとみんなどこかでわきまえている。

よく同調圧力と言われますが、この場合、圧力そのものが存在するというよりは、社会からの無言の要請を勝手に忖度して自らを縛っているんです。そんななかではビッグな発想なんて邪魔なだけですよね?

既存のレールから降りてみる、という勇気。

人生のルートにしても同じです。恵まれた環境に育ち、高学歴でコネもあり、大企業に職を得たエリートであればあるほど、軌道から脱落することに恐怖を感じている人が多い。世間から見て安定した職業やポジションにいる人のほうが、「やめたい」と言った途端に周囲からアホちゃうか、このままでええやんと止められます。

たとえば銀行勤めを途中でやめると言ったら、「やめないで勤め続ければ給料は上がるし最後にはかなり退職金が出る。その軌道から脱落したら、安定した収入は得られないし、3カ月後どうなるかわからないでしょう?」というわけです。個人で事業をしている人たちには当たり前のことなのですが、エリートコースにいる人には未知なる世界だから恐怖を感じる。脱落することは相対的にリスキーな生き方に見えるのです。

僕の講座に来られた方から、「故郷を捨てて東京で自由に暮らしてきたが、そろそろ故郷に帰って安定的な仕事について落ち着いたほうがいいのではないか」などと相談されることがあります。ちなみに、僕のお弟子さんの二人に一人は組織に所属するのをやめ、単独者としての生き方を模索している方たちなんですね。そういう方たちにも同じような悩みがあるのです。

ルートから逸れて脱落し、組織に所属しない生き方を続けていてもいいのだろうかと相談されたなら、僕の個人的意見だけど、と断ってからこう言うでしょう。「何の間違いかわからないけれど、あなたは滅多に脱落できないルートからせっかく脱落できたのに、なぜ元に戻るの?」そう問いかけなければならないほどサイドステップや決まった道からの逸脱を不安に思い、確信を持てない人が多いようなのです。

今、単独者と言いましたが、それは集団に所属せずに生きる人という意味です。僕の周りにはフリーランスで仕事をされる方が多いせいか、みなさんびっくりするような発想をします。

才能とは関係なく、「なんでいつもそんなに面白い動きができの?」と思わされることもしばしばで。それで、自由に発想し動ける方の共通項を探すと、子どもの頃から自分を否定された経験が少なかった方が多いことは、臨床的にはかなりはっきりしていると思うのです。

本当に自分が解放されているときに、それを否定しない大人がいたかどうか。どんなに自分が暴れても、自分に関心を持ちながらも黙って肯定してくれる人がいる、というのは子どもにとって大切なことです。暴れているときも、頭ごなしに暴れるなと叱るのではなく、かといってただ甘やかすのでもなく、その乱暴な行為の奥に発散したい何かがあることを見抜いてくれる。成長する過程でそういう人が身近に一人でもいたら、子どもの自由な発想力の芽は伸びていくでしょう。

全面的に肯定することと甘やかすことは根本的に大きく違うのですが、その違いは体験してみないとわからないところもあります。飼い犬を例に取るとわかりやすいのですが、犬がめちゃくちゃやったときに、「何をやってもかわいいわね、この子は」というのはただ甘やかしているだけです。犬が暴れるのはストレスを発散したいからなので。ただ、犬は貢献し協働することで無上の喜びを得る動物です。飼い主の出した課題に応えて満足したり、何かを一緒に達成できたときに初めて、彼らは大きな、より高いレベルの喜びを感じるんですね。

ただやりたい放題で暴れさせてもらってストレスを発散できただけではその喜びは得られない。発散することを認められるだけでなく、その先に人とコミュニケーションできて、誰かの役に立てるということがなければ、それはただの「甘やかし」や放任に過ぎません。犬だって人だって、それだけでは満足できないのです。

もしもあなたが過去を振り返って「自分を肯定して見守ってくれる人なんていなかった」というのならば、今から、自分を肯定してくれるメンターや環境を求めていけばいいのです。書道を習うなら、「キミの字の、そのはみ出ているような勢いがいいんだよ」と褒めてくれる先生や教室を探してください。そのように声をかけられた瞬間に、ちぢこまっていた精神が広がりますから。

日本の刷り込み教育の弊害。

最近、エンターテインメントの世界ではより毒のある、過激な作品がウケるようになってきたと聞きます。なかには、主人公が常人には考えつかないほど劇的なサイドステップをするストーリーもありますよね。それは、「これをやりなさい」と決まったことをやらされていると、人間はサイドステップしたくなるものだからというバランスをとる意味もないとは言えません。閉塞感の時代には人々は過剰な刺激を求めるものです。

しかし、自分の生身の人生においては、完全にプログラムされたものだけを選ぶように刷り込まれているわけです。この精神への条件付けは容易には解けないもので、たまにそれを解こうとする者が周りに現れると、まるで自分のことのように心配したりして、その人の独立心まで削ごうとしてしまいます。そこまで刷り込みは強力なわけですね。

日本人が海外の人に比べてビッグに考えられないのだとすれば、その理由のひとつは教育システムにあるのではないでしょうか。現在、海外の多くの国では、教育というのは子どもが答えを出すために大人や環境がサポートしたりコーディネートしたりするものだと考えられています。子どもたちは自らの意志と発想で、知識というブロックを積み上げたり壊したりしながら自由に組み直して答えを模索していく。

ところが日本では、先生や大人が答えを知っていて、子どもたちにそれを教えるのが教育だと考えられています。答えを知っているのは先生、親、大人、先輩である。そして子どもである自分には、「自分の外にある答え」を正しく出すことが求められ、答えの正しい出し方は大人に教わらなければわからないのだと。

いちばん頭がやわらかい小・中・高校時代に、自由に発想する力をほとんど抑え込まれている。それが生き方の元型になっているから、社会人になっても自分で答えを探すのではなく、上司や取引先など自分ではない他者が知る「正解」を出すことしか考えられなくなってしまうのです。平たく言えばこれが、「空気を読む」ということの由来かもしれません。

占い頼みよりもまず、 自分のなかに答えを探して。

今は空前の占いブームと言われますが、占い師に依存してしまう人たちにも同じように「正解を外に求める」傾向を感じますね。「自分はなぜ生まれてきたのか」「なぜこんなに苦しい人生を生きていかなければいけないのか」という悩みを抱く人間は、もともと不完全な存在です。昔からそういう人間の悩みに応え、支えてくれたのが宗教なのですが、現代はそれがあまりリアリティを持たなくなってきた。

占いもまた古代からあるものですが、救いとしての宗教の効力が薄れてきた今、占いのほうのニーズが高まってきているのかもしれません。僕も占いそのものには真剣に興味があるのですが、当然、占いに依存するのはどうかと思います。これはカウンセリングに依存するのと同じですね。雑誌やネット上の占いを読んで、何座生まれは今週こうなのかな、と考えるのではなく、○○先生に私だけの占いをしてほしいと思うタイプの二人に一人は、ちょっと依存的かもしれませんね。

占い師もカウンセラーも四六時中つきそって「私、どうしたらいいの?」という問いに答えを出してくれる存在ではないんです。先ほど説明したように「答えは他者=自分の外にある」と考えていても、答えは得られないでしょう。

何より、大富豪でもない限りお抱え占い師を近くに侍らすわけにはいかないのですから、占い師がそばにいない時間は余計に不安で仕方ないはずです。占いや心理学で今の状況を前向きに把握するきっかけを得て、それを自分で読解していくことの楽しさを経験しなければ、答えが欲しいという不安からは解放されないでしょう。

正解はあなたのなかにしかないからです。答えを見つけるには、ときには逸脱を怖れずにサイドステップして、速度を落とし、思考を伸びやかに広げていくことが必要です。

【CHECK LIST】 考え方を広げるために、今できること。

・横方向の思考、サイドステップをしてみる勇気を持とう。
・敷かれたレールから外れることを怖れてはいけない。
・上記2つが無理と感じたら、まずメンターを探して自分が肯定されることに慣れてみる。
・答えは自分のなかにある。そう信じられるためには、他人からの勇気づけも必要。

名越康文
精神科医。臨床に携わる一方、メディアや一般向けの各種講座も人気。『驚く力 矛盾に満ちた世界を生き抜くための心の技法』『Solo Time 「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』など著書多数。

参照元:VOGUE JAPAN