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ピカソもウォホールも。アーティストのジュエリー展。

  • 2018.5.21
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パリの装飾美術館で『カルダーからクーンズまで、アーティストのジュエリー』と題したジュエリー展を開催中だ。タイトルが示すように、カルティエやヴァン クリーフ&アーペルといった宝石商のジュエリーではなく、ここではパブロ・ピカソ、マン・レイ、ニキ・ドゥ・サン・ファールなど150名のアーティストたちがデザインしたジュエリーをテーマ別、時代順に展示している。

マックス・エルンストによるジュエリーの数々。彼に限らず、ジュエリーを製作したシューレアリストたちは少なくない。

ピルをつなげたブレスレットはダミアン・ハーストの「Pill Charm Bracelet」(2004)。©Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved Adagp, Parsi, 2018

展示のメインは、ディアーヌ・ヴェネが30年がかりで集めた個人コレクションからのジュエリーだ。夫の彫刻家ベルナール・ヴェネが、彼女の左手の薬指に シルバーの棒をごく自然な動作でくるりと巻きつけてエンゲージ・リングにしたことから、彼女はアーティストによるジュエリーに興味をもつことになる。ヴェネの作品と彼女の小さな指輪が、この展覧会の導入部となっているのはそれゆえである。ちなみにアーティストによるジュエリーというのは、愛する人へのギフトとして作られることが多いのだとか。

ベルナール・ヴェネによる指輪「Bague Ligne indéterminé」(1998年)。photo:Greg Favre, Parris ©Adagp, Paris, 2018

アーティストによるジュエリーの収集家ディアナ・ヴェネ。彼女のコレクションから230点が展示されている。

美術館3階のチュイルリー公園側とリヴォリ通り側に会場は別れていて、チュイルリー公園側がパブロ・ピカソやジョルジュ・ブラックなど20世紀の初頭の作品から、そして20世紀後半のソニア・ドローネーやニキ・ド・サン・ファールまで。アヴァンギャルド、夢とファンタジー、自然のメタモルフォーズ……といったテーマで続く。

サルヴァドール・ダリのスプーンのブローチ(1957年)。photo:Philippe Servent, Paris©Fundacio Gala-Salvador Dali, Adagp, Paris 2018

エリザ・スキャパレリのジャケット。ジャコメッティによるボタンだ。

展覧会のタイトルにも名前がうたわれているアレクサンダー・カルダーの作品。

ルイーズ・ネヴェルソンのジュエリーは自作。一点ものなので、今回は見ることができる貴重な機会だ。黒く塗った木とゴールドを組み合わせたイヤリング(1966年)と、メタルと木のネックレス(1985〜86年)。

ニキ・ド・サン・ファール。女性をテーマにした複数のジュエリーに加え、作品も展示されている。

カルダーやネヴェルソンは例外的に自分自身で製造をしたが、アーティストたち自身が実際にジュエリーを製作するのは珍しいことだ。チュイルリー公園側の展示の途中、フランスのフランソワ・ユーゴーとイタリアのジャンカルロ・モンテベッロのアトリエを紹介するコーナーがある。どちらもアーティストたちの意向を理解し、ジュエリーを製作、生産していたアトリエだ。

ピカソのチャーミングなジュエリーも多数展示されている。写真はピカソを含め、マックス・エルンスト、ジャン・コクトー、ジャン・アルプなど同時代のアーティストたちがデザインしたジュエリーを製作していたフランソワ・ユーゴーのアトリエ。フランソワは作家ヴィクトール・ユーゴーの孫である。

マン・レイによるゴールドの眼鏡「Optic Topic」(1974年)。ジェム・モンテベッロのアトリエは100点製造し、ディアナ・ヴェネの所蔵品は79/100。©MAN RAY TRUST, Adagp,Paris 2018

モンテベッロのアトリエではマン・レイ、メレット・オッペンハイム、セザールなどのジュエリーを製造。会場ではデッサンや写真などを展示し、アトリエの仕事を紹介。上の仮面のプロトタイプを試すジュリエットを撮影したマン・レイの写真も見られる。

リヴォリ通り側は、1950年代の抽象からスタートし現代作家のジュエリーまで。チュイルリー公園側はジュエリーという言葉から連想する装身具の概念からさほど離れていないが、こちら側の展示はコンセプチュアルなジュエリーが多い。ダミアン・ハースト、ルイーズ・ブルジョワ、アニッシュ・カプール、杉本博司……ええっ!と意外なアーティストたちのジュエリーを次々と発見できる楽しみが待っている。なおこの展覧会では、美術館が所蔵する絵画、陶器、彫刻、タペストリーといった作品も併せて展示。アーティストたちにとってジュエリーも、他のアート作品同様の価値があるものであることを示している。

ルチオ・フォンタナによる指輪「Elisse Concetto Spaziale」(1967年)。これもジェム・モンテベッロによる製造で、ディアナの所蔵するのは5/150。photo:Philippe Contier, Paris ©Fondation Lucio Fontana, Milano/ by SLAE, Adapt, Paris, 2018

蜘蛛といったら、もちろんルイーズ・ブルジョワ。

ロイ・リキテンシュタインのブローチ「Modern Head」(1968年)。photo:Courtesy Didier Antiques Ltd. London©Adagp, paris 2018

アンディ・ウォホールの時計やロバート・ラウシェンバーグによるブローチなど、アメリカのアーティストのジュエリーも豊富に展示。

アニッシュ・カプールの指輪「Two sided ring」(2005)やペンダントも。

レイモンド・ヘインズ(写真)やロイ・リキテンシュタインなど、ジュエリーの向かい側の壁にはアーティストの作品も展示している。

「De Calder à Koons, bijoux d’artistes」展
会期:開催中〜2018年7月8日
Musée des Arts Décoratifs(MAD)
107, rue de Rivoli
75001 Paris
開)11:00〜18:00(木〜21:00)
休)月
料金:11ユーロ

装飾美術館では1,200点のジュエリー常設展も忘れずに。

企画展を見たあとは、反対側の建物の3階にあるギャルリー・デ・ビジューを見に行こう。ここでは、中世から今日に至るまでの1200点のジュエリーを常設している場だ。ひとつめの部屋は中世からアール・デコまでを扱い、さらに、1壁を費やしてジュエリーの素材やテクニックを説明。中世やルネッサンスの代表的な装飾品、18世紀以降の著名ジュエラーの作品が展示ルームに輝いている。とりわけ、アール・ヌーヴォーのジュエリーが豊富で、ルネ・ラリック、ジョルジュ・フーケなどのコウモリやツバメをモチーフにした幻想的な世界はとても魅惑的。

ギャルリー・デ・ビジューは時代順にジュエリーを展示しているので、変遷がわかりやすい。写真に写っているのは、素材とテクニックを紹介する壁だ。会場の中央では、中国、インド、日本のジュエリーを展示。photo:Luc Boegly

二羽の雄鶏がサファイアを囲むルネ・ラリックのペンダント(1901〜02年)。アール・ヌーヴォーのジュエリーは、中でもルネ・ラリックのジュエリーが豊富だ。

2つめの部屋の展示の始まりは、1940年代のフランスのクリエイターによるジュエリー、アーティストによるジュエリーだ。企画展「カルダーからクーンズまで」を見損なっても、ここでもピカソやジャコメッティなどのジュエリーを見ることができると覚えておこう。もちろん、カルティエ、ブシュロンといったヴァンドーム広場の宝石商のクリエイションも展示されている。新しいところでは、指輪が1点だけだが今後の活躍が期待できるハルミ・クロソウスキー・ドゥ・ローラの仕事も紹介しているので、見逃さないように。

ブロンズの詩人と呼ばれたリン・ヴォートランのブローチ「L'Eclipse」(1955年頃)。©MAD/photo Jean Tholance

ハルミ・クロソフスキー・ドゥ・ローラの指輪「イーグル」(2015年)。素材は木とダイヤモンド。2017年、アーティストから美術館に寄贈された。©MAD/photo Jean Tholance

装飾美術館では2016年に花、2017年に動物をテーマにしたジュエリー本を出版した。そして最近、三部作の締めくくりとして顔をテーマにした1冊が発表された。ギャルリー・デ・ビジューで見たジュエリーを、別の角度から楽しみながら眺めるのも悪くないだろう。また、本の中には展示されていない美術館の所蔵ジュエリーも含まれている。

美術館が所有するジュエリーをテーマ別に美しい写真を満載して紹介する三部作は、「Flore(花)」「Faune(動物)」「Figure s(顔)」。各19.50ユーロと手頃な価格だ。美術館のブティック107RIVOLIで販売中。

Galerie des Bijoux
Musée des arts décoratifs
107, rue de Rivoli
75001 Paris
開)11:00〜18:00(木 〜21:00)
休)月

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