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【冨永愛、モデルへの道 Vol.9】ファッションの魔法。

  • 2018.5.17

去年の運動会にて。これが私のままファッションだ。

017年10月にモデルとして再起動をする前のこと。息子との母子奮闘が始まり2年とちょっとが経とうとしていた頃のことだ。ひょんなことから私は小学校のPTA役員になった。小学校の6年間のうちの2年間は何かしらの役割に携わらなければならないというPTAの決まりがあり、私にはあと1年の任期が残っていたのだ。

どちらかというと「仕方なく」という思いが大きかったのだけれど、人数が足りなくて困っているという係に参加した。PTA役員になると忙しくなることは予想していたもの、私の期待を裏切らず、それはそれは大変だった。

というのも私が参加したのは卒業対策委員会、卒業アルバムや先生への謝恩会などを企画担当する委員である。毎日仕事をしながら家事をするだけでも手一杯なお母さん達が、企画立案、イベント主催までするのだ。

謝恩会間近になると、週3日は学校へ通っていた気がする。こんなことを毎年やっているのかと考えると、本当に先輩たちに頭が下がる思いだった。

さて、そこで私が一番困ったのは、そのPTAの集まりに着ていく服だった。

仕事柄、派手というか、ちょっとクセのある服しか持ち合わせておらず、私は学校のTPOに合う服を持っていなかったのだ。少し前の私なら、そんなことは気にせず堂々と派手な服を着て行ったのだろうけれど、そうはいかない。

少し仕事をセーブし始めた頃、授業参加に行こうと身支度をしていたら、息子が私の服装を見るなり、「もしかして、その格好で学校に来るつもり?」と言ったことがあった。

膝上15センチくらいのタイトなスカートを履いていた私は、「え? これじゃダメ?」 と聞いてみたのだが、「それは短すぎだろう!恥ずかしいじゃないか」とのこと。

なるほど、私には普通に感じるこの丈も、子供がお母さんを見る視線は全然違うものなのだと知った。そんなことが初めて理解できた自分も恥ずかしいのだが、いわゆるお母さん的な服装で来て欲しいという息子の思いに応えようと、私はクローゼットをひっくり返し、私が唯一持っていた無難な黒のパンツに、白いハイネックセーターという格好で学校に行くことにしたのだった。

それからというもの、私が買った服というのは、黒のワイドフレアのパンツ、緩めなシルエットのセーター、優しいピンク色のトップス、等々、学校に着て行けるような服ばかり。

華やかなファッションが好きな人はつまらない服だと思うかもしれないが、そんなことはない。
かっこよくクールにキメていた今までの私服から、ガラッと変わって、少し緩めのシルエットで優しい色使いの服を着ると、どこか穏やかな気持ちになれるものだし、あまり着ることのなかったジャンルのコディネートを楽しむことで、新しい自分の発見にもなった。

これこそが、ファッションの持つ力。

着る服によって気分を変えられたり、なりたい自分になれる。
それがファッションの魔法なのだ。

仕事が忙しすぎて、それまであまりかまってあげられなかった息子のために、母親をすることができる最後のチャンスだと思って選んだ道。残り少なくなった彼の子供時代の時間をこのままの忙しさで通り過ぎるわけにはいかないという思いだった。
息子目線の服を着るということで、それが少しずつ、少しずつ自分に馴染んでいき、現実味を帯びて行ったのかもしれない。今ではすっかり馴染んだお母さんルックを、息子は安心して見ていてくれていることだろう。

悩むこともしょっちゅうあるし、母親としてまだまだな私。でも、この約3年間の息子との濃密な時間が、これからの私たちの人生の下支えになってくれることを願っている。
参照元:VOGUE JAPAN

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