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アレクサンドル・リアブコが語る、バレエと表現の関係とは。

  • 2018.5.15

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アレクサンドル・リアブコ 役が憑依し、舞台に引き込む、現代のニジンスキー。

20世紀初頭のパリを席巻し、ピカソ、シャネル、ストラヴィンスキーら多くの芸術家を魅了しコラボレーションしたバレエ団バレエ・リュス。中でも、天才ダンサー、ニジンスキーは数々の伝説を残し熱狂を引き起こすも、30歳の若さで狂気に沈み後半生は精神病院で過ごした。

そのニジンスキー役が憑依したかのような、神のような跳躍、壊れゆく精神を体現したダンサーが、ハンブルク・バレエのアレクサンドル・リアブコ。リアブコは、ゆるぎないバレエの技術と、芸術監督ジョン・ノイマイヤーが全幅の信頼を寄せる芸術性で観る者を虜にし、同バレエ団の2月の来日公演でその「ニジンスキー」を演じた。

ノイマイヤーは、2015年には京都賞を受賞するなど現代バレエ界を代表する振付家。深遠な精神性とドラマティックな演出力を持つ巨匠だ。「ハンブルクでジョン・ノイマイヤーと仕事をするようになって初めて、踊りとはバレエの一部に過ぎないことに気がつきました。ジョンの作品ではどんな小さな役でも、役名があり自分なりの役づくりをしなければなりません。最初から役柄についてよく考えていたことが、その後『椿姫』のアルマンやニジンスキーなど大きな役を演じる時に役に立ちました。自分自身を役に合わせて変えるのではなくて、どうやって役にアプローチすればいいのか学びました」

ニジンスキー役は舞台上で2時間以上踊る、ハードな役。リアブコは、狂気に陥るこの役柄を自分のものとし、繊細に役を生きていた。「ジョンは私に“ニジンスキーとは何者だったのか”と考える時間と自由と可能性を与えてくれました。私自身を彼へと変容させ、彼が人生のそれぞれの瞬間や段階において何を感じたのか体験できるように」

一方「椿姫」では、情熱的な青年アルマンと、彼の分身である「マノン」のデ・グリューも演じている。「子ども時代からフランス文学に魅せられ、フランス人になりたいと夢見ていたほどです。アルマンを演じて昔からの夢が叶いました」。ハンブルク・バレエ学校時代に、学校公演のためにオペラ座で踊り、パリ・オペラ座バレエの公演も天井桟敷で観た。「ここの舞台に立ったことで、『椿姫』を踊るうえでパリの雰囲気を感じることができました。どんな作品を踊る場合でも、その役の中に自分と何らかの関係を見つけ、考えることが大事なのです」

澄んだ青い瞳には、バレエに身を捧げている求道者の雰囲気がある。「ダンスは人生の一部というより、踊ることで生きていることを実感します。毎朝、どんな気分であろうと、スタジオに入りバーレッスンを始めると“体が目覚めていく”と感じます。舞台の上に立つことで、驚くほどさまざまな感情を味わい、多様な人物として生きることができます」

"バレエは人々を一つにする力を持った芸術。 ダンスを通じて愛を伝えたい。"

ハンブルク・バレエでのキャリアも22年となったが、今も踊ることを楽しんでいるそう。「将来は、若いダンサーを指導したいとも考えていますが、踊ることと教えることを両立することは私にはできません。そして、まだまだ踊り続けたいと思っています」

ニジンスキーのような役柄では特に、何回も踊っているからといって踊りやすくなることはない。若い頃は、レッスンやリハーサルだけやれば十分だと思っていた。「年齢を重ねてきて、今まで毎日やってきたことも、初めてのことのように取り組まなければならないことに気がつきました」

妻シルヴィア・アッツォーニもまた、バレエ界を代表する芸術性の高いバレリーナで、二人のゆるぎないパートナーシップも、多くの者の心をとらえて離さない。「シルヴィアとは結婚する前からも長いこと一緒に踊ってきて、初めて一緒に踊った時から特別なものを感じました」

彼女もまた完璧主義者だ。「一緒に踊る時は、ほかのダンサーと踊る時よりも入念にリハーサルを行います。お互いに対して厳しい要求をするので、リハーサルは緊張感にあふれます。シルヴィアと一緒に踊る時は、自然発生的に音楽に合わせて踊ることができるので、相手に合わせる必要がありません。それによって特別な関係性が生まれます。お互い、目を閉じていてもどう動けばいいのかわかります」

二人の間には、一人娘がいて、まだ幼い彼女もスタジオをよく訪れて両親の姿を見ているそう。

「ニジンスキー」はとても人間的な内容で、戦争の狂気を描いており、今の世界で起きている諸問題とも関連がある作品だと語るリアブコ。「バレエは、人々を一つにしてくれる力を持った芸術だと思います。ハンブルク・バレエには世界中から来たダンサーがいますが、ダンスを通して一つの言語を話しています。世界中をツアーして作品を踊ることで人々に、私たちは皆同じ人間であり、誰もが愛と幸せを探し求めていることを伝えたい」

彼の踊りを求めて、世界中からハンブルクへと向かうファンが引きも切らない理由がわかった思いがする。Alexandre Riabko(アレクサンドル・リアブコ)
ウクライナ生まれ。キエフ・バレエ学校、ハンブルク・バレエ学校を卒業し1996年にハンブルク・バレエ団に入団し、2001年にプリンシパルに昇進。ローザンヌ国際バレエコンクールのファイナリスト。正統派のクラシック技術に加え、優れた演技力を持ち、役柄を憑依させたかのように演じることで知られている。今夏の世界バレエフェスティバルにも出演する予定。

参照元:VOGUE JAPAN

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