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「アジアのベストレストラン50」2018に見る、ガストロノミーのトレンドとは?

  • 2018.5.10
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ベスト10の中に日本から4軒がランクイン!

フーディーズを自認するなら、ベストレストラン50のランキングは押さえておきたい。世界各国の食の識者が最も感動したレストランに投票して順位を決めるこのアワードは、16年前にロンドンの出版社が始めたものだ。今や、ミシュランと並び、世界のガストロノミーの潮流を決めるほどの力を持っている。

そのアジア部門が、去る3月27日にマカオで開催された。6回目となる今年、50位の中に11軒の日本のレストランがランクインし、過去最高の結果を残した。これは、タイと香港の各9軒を押さえて堂々のトップ。1位こそ、3年連続のタイの「ガガン」だったが、2位「傳」、3位「フロリレージュ」、6位「NARISAWA」、9位「日本料理 龍吟」と、10位の中の4店を日本が占めるとは、改めて食の大国であることを世界へアピールできたアワードとなった。

ランキングはどうやって決まる?

今年のアジアのベストレストラン50は、食の識者54人×6リージョン(1/3がシェフ、1/3がジャーナリスト、1/3がフーディーズ)が過去1年半に訪れたレストランの中で最も感動した店を順に選定。合計324名がそれぞれ10票をもっているので、3,240票がそのままランキングとなった。

評議員を任命するのは各国のチェアマン。票の偏りを避けるために、毎年評議員の1/4は入れ替えなければならない。しかし、投票の条件が、1年半以内に訪れた店に限られるため、どうしてもアワードの開催地が有利になる。

また、感動したレストラン、印象に残ったレストランというと、クラシックでトラディショナルな店よりも、驚きのあるモダンな料理を得意とする店が上位にランクインしやすい傾向にある。また、SNSによるシェフやフーディーズからの発信や、シェフ同士のコラボレーションによる波及効果も大きい。だからこそ、毎年の順位が大きく入れ替わり、そのライブ感やダイナミズムがベストレストランの魅力の源泉でもある。

ノミネートされたシェフたちがアワードの会場で固唾を飲んで、順位が読み上げられるのを待つ様子は、あたかもアカデミー賞のよう。またアワードの会場から美食のトレンドが発信されていく様は、ファッションのコレクションのようでもあるのだ。

シェフズチョイスとサステナブル賞

さてほかにも、ベストレストラン50には、各スポンサーによる部門賞が設けられている。「ハイエストニューエントリー」、「ハイエストクライマー」、「功労賞」、「シェフズチョイス」、「ベストパティシエ」……。そうした中で、「NARISAWA」はシェフズチョイス賞という、シェフが選ぶ、最も優れたレストランという、料理人であれば最も嬉しい賞を受賞した。

これは、実力、人望ともに、シェフたちの間で認められているということの証である。また「ハイエストニューエントリー」を大阪の「ラシーム」が受賞した。日本チームとしては実に嬉しい、ビッグなニューカマーだ。今年最も行きたいレストランの一つに「ラシーム」が上がってくることは間違いない。

また、「レフェルヴェソンス」はサステナブル賞を受賞。食のサステナビリティは、今、世界のトップシェフが最も注力している、人類にとって最重要課題の一つだ。よい食材なくしては、いくら技術があっても美味しい料理は作れないのだから。

受賞直後に生江史伸シェフにインタビューしたところ「毎日ゴミの量を量っているのです。生ゴミはできる限りたい肥にしていますから」と。トップシェフがみな、環境問題に積極的に取り組んでいるなかで、その象徴的存在として選ばれたということは、日本の姿勢が世界へ向けて発信されたこととなり、誇らしい。

ガガン帝国はいつまで続く?

また、何より印象的だったのはアジア圏におけるガガンの圧倒的な強さだ。4年連続の1位は、世界ベストのトップが「noma」なきあと目まぐるしく入れ替わっているのに対し、アジアではガガン帝国安泰の色が一層濃くなった感があった。

バンコクでの開催が2年続いたことで、評議員の票を集めやすかったことも事実だが(アワードの開催地を訪れる各国評議員の多くがガガンを訪ね、ガガンに投票したことは想像にかたくない)、それ以上の影響力を感じたのも事実。というのは、ガガンは積極的に各国のシェフとコラボレートするポップアップレストランを行っているが、その中でも、日本のレストランが大好き。

2位の「傳」、3位の「フロリレージュ」とは両国で盛んにポップアップを開催している。そのコラボレーションディナーの楽しさや自由さは群を抜いている。

また、福岡の「ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ」の福山 剛シェフとも「Go-Gan」と銘打ったコラボレーションを定期的に行っている。そして、同店は今年、見事にベスト50に返り咲いた。さらにタイではガガンがプロデュースした店はどこも大人気だとか。

今の時代、シェフにもそうしたパフォーマンス力が求められていることは間違いない。2022年には九州に進出するとも言われており、これからも、ガガンの動向からは目が離せない。

日本からの発信と今後の期待。

毎年アワードに参加して、とても残念に感じていたことが、日本の企業がまったくスポンサードしていないことだった。サンペレグリノ&アクアパンナ、ダイナース、ミーレ、ヴァローナといった、錚々たる食の企業の存在がアワードの会場のいたるところでアピールされているなかで、日本企業は影も形も見えないのだから、日本のシェフたちの力量が妥当に評価されなくてもいたしかたない、そう思わざるを得なかった。

ところが今年、日本酒の蔵元11社が集まって初めて協賛したのだ。世界中が日本酒に注目しているなかでの協賛はとても喜ばしいことである。が、惜しむらくは、11の蔵元の参加名が「東條」であったこと。東條のロゴでは誰も日本酒が協賛していると気付かない。日本人である我々がわからないのだから、国外の人に伝わるわけがない。今後はわかりやすく「酒」の文字を大きく謳ってほしい。

もう一つ、特筆すべきは、前日のシェフズトークイベントで、初めて日本人の女性シェフが登壇したということ。日本はまだまだ女性の料理人が育ちにくい環境にあるが、その中で、志摩観光ホテルのダイニングを切り盛りし、伊勢志摩サミットの料理を成功させた樋口宏江料理長の功績は光る。そうした樋口シェフの登壇は、明日のトップシェフを目指す、若き女性料理の大きな力になったに違いない。
参照元:VOGUE JAPAN

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