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アカデミー賞受賞監督が語る、映画『MIFUNE: THE LAST SAMURAI』。 世界が愛した三船敏郎がどのようにアジア人男性のイメージを変えたか。

  • 2018.5.10
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(C) "MIFUNE: THE LAST SAMURAI" Film Partners
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アジア人男性像を変えた三船敏郎。

――監督が初めて三船敏郎の存在を知ったのはいつだったのでしょうか? 

12歳のときに『七人の侍』を観ました。しかも、映画館ではなくて、私が育ったカリフォルニア州ヴェニスにあるジャパニーズ・コミュニティーセンターで。騒々しい音を立てる16mmのプロジェクターがあって、スクリーンにはキングサイズのベッドシーツを代用していました。誰かがドアを開けるたびに風でシーツがめくれ上がるので、「ドアを閉めろ!」ってみんな叫んでましたよ(笑)。 

それからは、ビバリーヒルズのラブレア東宝で上映される三船の映画に両親が自分と4人の姉妹を連れて行ってくれました。そこで上映された三船映画はほぼすべて観ましたよ。一番好きだったのは『宮本武蔵』三部作。野性味のある若者から立派な侍まで、三船の魅力をフルに味わえる作品です。 

アメリカのテレビや映画では、アジア人男性が演じるのはいつも哀れな召使い役か邪悪な悪役でした。三船は冷静で破壊的だったし、誰からもバカにされなかった。子どもだった私にとって、スクリーンの中で威厳を漂わせ、相手をやっつけることができるアジア人男性を目にすることは、人生を変えるような出来事でした。

――日本人の中でも『スター・ウォーズ』シリーズがどれほど三船敏郎主演の黒澤映画に影響を受けているかを知らない人が多いと思うのですが、監督はどの時点で知りましたか? 

ジョージ・ルーカス監督は『スター・ウォーズ』のプロットを黒澤明監督の『隠し砦の三悪人』からリフトしました。それに、ルークやダース・ベイダーは明らかに“サムライ”ですよね。でも、実は私、『スター・ウォーズ』の大ファンというわけではないんです。黒澤監督の影響が見て取れるのは、コミカルな脇役で使われているR2-D2とC-3POだと思っています。 

このドキュメンタリーには日本人以外の意見もいくつか必要でした。というのも、日本人は互いを褒め合うのがあまりうまくないですからね。褒める場合はもっと控えめなやり方で褒めるでしょ? 三船がいかに偉大だったか、そして、世界中の映画にどのくらい影響を与えたのかを、誰かに本音で話して欲しかったんです。

世界の映画人たちにも影響を与えた。

そこで、(マーティン・)スコセッシや(スティーブン・)スピルバーグなら、知識や経験からくるこの上ない説得力を持って話せるだろうって思って。彼らは映画を何度も観てきたおかげで、二人とも作品のことをよく知っていますしね。

あと、クリント・イーストウッドにもインタビューできたらよかったんだけど。彼は『用心棒』の三船を真似してなければ、おそらく俳優としてのキャリアはなかったと認めていますから。俳優としての三船について、ジェフ・ブリッジスにインタビューしたかったのですが、撮影スケジュールの都合でダメでした。ハリウッドの業界人の時間が空くのを待つのは大変です。

――昔、俳優のベニチオ・デル・トロをインタビューしたとき、インタビューのほとんどの時間を、いかに三船敏郎が素晴らしい俳優かを私に話してくれたことがありました。三船敏郎に魅了される映画人はみな、独特な男らしさと言うべきか、マスキュリンなリアリズムを追求しているような印象を受けるのですが、監督はどう思いますか? 

スクリーンの中の三船にはとてつもない存在感があります。そのような才能を持つ俳優は彼の他に思いつくことができません。 

ジョン・ウェイン、ジェームズ・ステュアート、ヘンリー・フォンダのように、三船は非常に男らしい俳優ですが、とても人間臭くもあります。スクリーンに登場すると、見入ってしまいますよね。彼らは、靴の紐を結ぶとか、タバコに火をつけるとか——そういう仕草が、その大小にかかわらず、とてもうまい。観客は俳優が演じる役柄とその人が経験する出来事に自分自身を重ねます。 

三船は、むず痒い様子とか、引っ掻いたり、ガクッとうなだれたりなど、ちょっとした仕草を役柄に付け加えました。どの役柄にも三船が完全に宿っています。『羅生門』ではどれほど恐ろしく、何をしでかすか予測できない三船だったのに対し、『或る剣豪の生涯』ではいかに穏やかで優しい三船だったか、考えてみてください。 

 ――映画作りや演技において、三船敏郎が活躍した時代と今とでは、何が一番違っていると感じますか? 

最近の大手ハリウッド映画は、ほぼ無限とも思える資金があるようです。法外な予算があり、CG効果に大きく依存しています。その他のほとんどの国では、映画が国外であまり上映されないため予算は少ないです。それでも、映画製作者たちはいつも自分たちが持っているもので仕事をしてきました。戦後、ほぼ何もない日本での暮らしは、信じ難いほど大変なものだったと思いますが、そんな状況にもかかわらず、映画製作者たちは映画を作っていました。当時、映画を作るにはとてつもない創意工夫と献身が必要でした。なかでも黒澤明監督は一番意欲的だったと思います。彼の映画のビジョンは、予算、撮影スタッフ、俳優、何もかもすべてを最大限までプッシュしました。それに、彼にはこのビジョンを素晴らしい映画にする意地と強さがありました。最終的には全ての映画は根本的に同じだと思います。つまり、名作と呼ばれる映画を作るには、今でも偉大な創造的エネルギーが必要なのだと思います。

映画必見!共演女優たちが語る三船敏郎の魅力とは。

――今回のドキュメンタリーの中で特に感動をしたのは、素晴らしい女性たちが出演していることです。観ていてとても興味深かったのは、男性たちはみんな三船敏郎のカリスマ性に感情的に魅了されていて、女性たちはとても論理的に彼の魅力を的確に分析していたところでした。特に、黒澤監督のスクリプターとして活躍された野上照代さんの発言などはとても面白かったです。

香川京子、司葉子、野上照代、八千草薫、二木てるみ——取材した女性たちはみんな素晴らしい人たちです。彼女たちが若かった頃、日本の映画産業、特に東宝スタジオや黒澤は、ほぼ男性に焦点を合わせていました。女性がこの業界で働くには、本当に才能があり、頭が切れて強くなければなりませんでした。 

私は野上さんの自信とユーモアが大好きです。彼女は私のヒーローです。タフだけど、親切で憎めない。香川京子は映画スターのシンボル。彼女のキャリアは信じられないほど素晴らしい。黒澤明、小津安二郎、溝口健二、成瀬巳喜男の作品に出ていました。ドキュメンタリーの中で司さんが、良い女性の役を演じたいなら、松竹に行くしかなかった、と話している部分をとても気に入っています。 

ええ、おっしゃるとおりです。女性は思慮深く賢明。そして男はどこまでいっても少年のままですね(笑)。 

――このドキュメンタリーを作るために、三船敏郎作品をたくさんご覧になったと思うのですが、共演者として三船敏郎と最もいいケミストリーを持っていたのは誰でしょうか? 

それは難しい質問ですね。『悪い奴ほどよく眠る』の三船と香川京子はすごくいいです。彼女への愛情を示すほど、三船が感情をさらけ出す男だなんて、普通思わないですよね。でも、彼はそうするんです。感動ものですよ。 

『或る剣豪の生涯』の三船と司葉子。彼女はとても美しい。二人の間に報われない性的緊張があるのを感じます。映画をご覧になったことは? 監督は稲垣浩で、私のお気に入りの1本です。三船はシラノ・ド・ベルジュラックの侍バージョンを演じています。ハンサムなヒーローではなく、大きな鼻の醜男の役を演じるのを、三船がいかに楽しんでいるかが分かります。 

若い頃は『宮本武蔵』三部作がお気に入りの作品でした。八千草薫は完璧で優しくて貞節な日本女性だと思っていましたし、三船をおとなしくさせることができる唯一の女性だと。とはいえ、三船にとって最高の共演者といえば、もちろん志村喬でしょう。かけがえのない人でした。

映画の知られざるエピソードが満載。

――このドキュメンタリーには日本映画の歴史や、チャンバラ映画にまつわるユーモア、そして日本人男優がなぜ、恋愛感情をあまり表現しないのかなど、私自身知らなかったことがたくさん描かれていて、とても楽しく拝見させていただくと同時に、勉強になりました。監督は、この映画を通じて新たな発見などありましたでしょうか? 

このドキュメンタリー映画を作ること自体が素晴らしい経験でした。なかでも、昔のチャンバラ映画を観ることが大好きな作業の一つでした。東京の国立近代美術館フィルムセンターの上映室で、伊丹万作などのサイレント映画を一日中観ていました。ご存知の通り、伊丹万作は伊丹十三の父です。十三と同様の非常に洗練されたユーモアのセンスがあることを知りました。 

また、1926年に作られた、伊藤大輔監督の驚くべき作品『長恨』は、おそらく、サイレント映画時代に作られたチャンバラ映画の最高傑作かもしれません。もっとも、実に多くの映画が失われたり損なわれたりして、もう観ることができないので、確実にそうだとは言えないのですが。『長恨』を特徴づけているものの一つは、侍がたった一人で何百もの敵を相手に戦うという、最も凶暴かつ美しいシーンです。刀についた血を舐め取って体力を回復させながら、精根尽き果てるまで戦い続けるのです。第二次世界大戦前の古い映画では、反抗的な侍はラストシーンで必ず死ぬのが常で、大抵、親友や愛する女性が彼の死を悼み嘆くというのがお決まりのストーリーでした。黒澤監督と三船はそれを『用心棒』で変えたんです。新たな発見というわけではないのですが、いくつか事実の発見はありました。 

若い世代にも観てほしい、“世界のミフネ”作品。

しかし、この映画のテーマは、三船敏朗の俳優仲間や撮影現場を共にした人たちや友人たちが記憶にとどめる、この特別な瞬間。つまり、俳優、監督、撮影スタッフ、構成者など、みんな同じぐらいの年齢の人たちが、記憶に残る傑作を生み出すために一丸となって取り組んでいた日本映画の黄金時代に焦点を当てました。

――今回のドキュメンタリーは日本で初めて公開されますが、観客にはどのように観てほしいと思いますか? 

既に世界中で公開されましたが、反応は意外と同じです。つまり、どこであろうと映画好きの人は三船が大好きなのです。日本の観客の方々には、三船敏郎という素晴らしい人間が存在し、彼はたまたま映画スターだったということを楽しみながら理解してもらえればと思います。 

いつでも映画を観ることができるこの時代においては、大衆は少しもペースを落とすことなく、こういった素晴らしい古い映画を楽しんでいます。古い映画は才能あるアーティストたちによって作られた、パワーと感動に満ち溢れる芸術作品なのです。年配の方々にも足を運んでいただいて、こういった素晴らしい作品のことを思い出して、また観ようと思ってもらえれば。

そして若い人たちは初めてこうした素晴らしい作品を観るきっかけになればいいなと思っています。

――最後に、今取りかかっているこれからの作品について何か教えていただけますか? 

 現段階では、何か違うことを探しているところです。例えば、コメディとか、興味深いロケーションとか、やりがいのあるコラボとか。リアルな俳優をフィーチャーした何か楽しい映画を作りたいですね。 

私が映画を作っているのは、人生経験をもたらしてくれるからです。『MIFUNE : THE LAST SAMURAI』の作業を進める中で、大勢の素晴らしい人たち、名優や映画関係者の人たちと会うことができました。それに、東京で仕事をすることもできました。東京は私にとって、仕事をしたり、遊んだり、食べたりするのにお気に入りの場所ですから。 

今、いくつか取り組んでいることがありますが、何が起きるか予測できない業界ですからね。最後の最後でプロジェクトが白紙になってしまったかと思えば、何か別のプロジェクトが立ち上がることも。この映画もそうでした。プロデューサーの白石統一郎氏と別のプロジェクトについて話していたときでした。「三船敏郎のドキュメンタリーを作りたがっている有名なプロデューサーがいるんです」と彼が言ったんです。それを聞いた私は「えっ? それ、私の夢ですよ。三船敏郎の大ファンで、彼の映画を観て育ったようなものですから! この件は他の誰とも話さずに、とにかく私にやらせてください」と。そこからすべてが始まりました。映画『MIFUNE : THE LAST SAMURAI』 
日本を代表する名俳優三船敏郎の半生を描いたドキュメンタリー。第72回ベネチア国際映画祭ほか全世界28の海外映画祭に出品。海外公開版ナレーションは、キアヌ・リーヴスが務め、日本語版ナレーションはEXILE AKIRA。 
http://mifune-samurai.com  


スティーヴン・オカザキ Steven Okazaki
1952年、アメリカ生まれの日系3世の映画監督。米アカデミー賞ドキュメンタリー賞部門でこれまで4回ノミネートされ、『収容所の長い日々/日系人と結婚した白人女性』で最優秀短編ドキュメンタリー賞を受賞。HBO作品「ヒロシマ・ナガサキ」でエミー賞を受賞。

参照元:VOGUE JAPAN