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【冨永愛、モデルへの道 Vol.8】モデルのキャリアマネジメント。

  • 2018.5.10

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あれは東京に4年ぶりの豪雪があり、最強寒波が日本列島を襲い低温注意報が発令されているという異例の事態が起こっていた頃だった。
私は友人と連れ立ってドリス・ヴァン・ノッテンの映画を観に行った。

ドリス・ヴァン・ノッテンは、実は私がまだ出たことのないコレクション。
ショーのキャスティングにはシーズンごとに毎回と言っていいほど行っていたのだが、どうしても出ることの叶わなかったランウェイ。キャスティングがあった日はこの日のように、雪で凍てつくような寒さだったこともあった。

もちろんデザイナーによって好みがあるのは当然で、ビッグブランドのショーの全部に出ることなんて誰にもできやしない。それはわかっている。でも、どこかで納得がいかなかった。
映画を見ることで、明確な答えが欲しかったのかもしれない。私の10年に及んだ海外コレクションのキャリアにおいて、なぜ彼のコレクションにだけは出ることができなかったのか……。

映画『Dries(邦題:ドリス・ヴァン・ノッテン〜ファブリックと花を愛する男)』は彼のクリエイティビティの根源がが何であるのか、また、花を愛し、ファブリックを愛する彼がなぜ大手の傘下に入らず30年を越える長い間、自身のブランドとして第一線でやってこれたのかに迫るドキュメンタリー。

映画の中には彼自身の最初のコレクションから現在に至るまでのコレクションが流れ、時代の流れも感じさせた。私がコレクションに出るようになった頃の映像もあり、よく見知ったモデルの面々がランウェイを歩いていた。

「あの子達は今どこで何をしているのだろう?」

(もちろん、はたから見れば私自身もそう思われているのかもしれないのだが……)

世界を舞台に活躍するモデルは、年に2回の春と秋に、NYコレクション、続いてロンドンコレクション、ミラノ、パリ、と約1ヶ月半の間この主要4都市のコレクションを回って行く。
これはコレクションサーキットと呼ばれているのだが、バイヤーや編集者、今やインスタグラマーやブロガーなども含め、ファション業界の主要な人たちが、サーカス団さながら地球を西から東へ、東へ西へと大移動して行くのがコレクションシーズンなのだ。

トップモデルの仲間入りを果たし毎シーズンこの巡業をこなして行くようになると、一緒に回って行くのも同じ顔ぶれなので大体知り合いになってくるもの。
私が26歳くらいの頃だったろうか。出産をして、子供を抱えながらこのコレクションサーキットをこなして行く事にそろそろ無理があると感じ始めていた頃、同じように長い間コレクションに出ているモデルとは、よく今後について話し合ったものだった。

北欧出身のあるモデルは、自分の国に帰ってもモデルの仕事はほとんどなく、主要な都市に残って、先細りになったとしてもモデルとしての仕事を続けて行くのか、結婚して子供を産むか、もしくは国に帰り別の仕事をするかを悩んでいた。
南米出身のモデルは、とにかく今稼げるだけ稼いで、自分の国のお金に換金すれば一生食べていけるはずだからやれるところまでやる、と言っていたり。

「Aiはいいよね。だって日本は先進国だしいくらでも仕事はあるでしょう。私は国に帰ったからって何もないのよ」と言われ、自分が恵まれた国に生まれたのだということ、そして国によってこんなにも境遇の違いがあるのだという事実を突きつけられ、そんな友人になんて言ったらいいのかわからなくなったこともあった。

モデルは全世界から集まるのだから、多様な境遇の人たちがいる。途上国から来る10代そこそこのモデルもたくさんいた。
ロシアで家族を養うために学校に行かず工場で働いていた時にスカウトされ一躍トップモデルとなり、そして大富豪と結婚し今や世界でも指折りの大金持ち……なんて話も夢物語ではなく、実際にある話なのだ。
もちろん、みんながそれを目指しているわけではないのだが、飽きたら捨てられる商品のように消費されていくことに、誰しもが不安を感じていたのは確かだ。第一線で活躍してきたトップモデルも、20代後半になると徐々に仕事が減ってくるというのは、周知の事実だった。
ナオミ・キャンベルやケイト・モスのように、往年になっても活躍し続けるモデルは一握りどころではなく、爪の先ほどの人数なのだ。

なぜ自分がドリス・ヴァン・ノッテンのコレクションに出れなかったのかの理由は映画を見ても結局見出せなかったのだけれど、あのときの旧友たちに想いを馳せながら、私は自分がこの先どのようにしてキャリアを積んでいくべきか考えていた。 

(次週へつづく)

【From Ai】
キャリアマネジメントについての悩みは、きっとどの業種にも当てはまると思う。結婚や出産という選択肢もあるからこそ、女性モデルはキャリアについて思い悩んでしまうもの。モデルも多様化、メディアも多様化している今、もしかすると今まで以上にモデルの悩みは大きくなっているのかもしれない。とはいえ、モデルを取り巻く環境は年々改善されているのも確か。より長くモデルたちがキャリアを続けられるような、そして皆が気持ちよくモデルの仕事を楽しめる世の中になるよう、私もその環境づくりのための努力を続けていきたいと思っています。
参照元:VOGUE JAPAN

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