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【冨永愛、モデルへの道 Vol.5】忘れられない、撮影の思い出。(前編)

  • 2018.4.19
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インタビューを受けると、よくこんなことを聞かれる。
「今までで一番印象に残っている撮影はなんですか?」
一つとして似たような撮影がないファッション・シューティングは、どれを思い返しても特別なものばかりで、何が一番と言われてもなかなか難しいのである。
しかし、まだ海外の仕事を始めたばかりの頃の “あの撮影” は、やはり私のモデル人生を語る上では欠かせないものだ。

それはアメリカのハーパース・バザー誌の撮影で、撮影は有名フォトグラファーのカーター・スミスというビッグチャンスだった。
それまで仕事でベトナムにいた私は、日程的な問題でそのまま撮影地であるラスベガスへ飛ばなければならなかった。ベトナムからラスベガスに行くには、ホーチミン→ソウル→ロサンゼルス→ラスベガスと、何度も乗り継ぎをしなければならなかった。この旅程を一人で行くのはさすがに不安だったけれど、この世界はそんなに甘くない。モデルが一人で行動するなんてことは当たり前なのだ。
ホーチミンからソウルに着きトランジットを無事に終えて、ロサンゼルス行きの飛行機の中で、私はもはや今日が何日で、何時なのかよく分からなくなっていた。日付変更線を超えたら、1日進むんたっけ? 戻るんだっけ? 日本の航空会社ではないし、英語にまだ自信のない私はそんな疑問をCAに尋ねることもできないでいた。
しかし、この区間のフライトは長いみたいだ、とにかく寝よう。寝てしまえば気にすることもない。そうしてようやくロサンゼルス空港に到着してみると、次のラスベガス行きの飛行機の時間まで40分ほどしかないことがわかった。急いで税関を抜けていこうとしら、強面のおじさんが私を指差して、その指をクイクイと、何かの映画で見たようなジェスチャーで私を呼びつけた。「なんだろう?」

目の前で自分の手荷物がひっくり返され、隅から隅までチェックされている。グチャグチャじゃん……。立て続けに質問されたのだけれど、この人のしゃべる英語が全く理解できない。しかもすごく冷たい感じだし、怖い。もごもごと口ごもっていたら、こっちへ来い、と連れて行かれたのは、机と椅子だけ置いてある簡素な部屋。警察の取調べ室のような部屋……。しばらく一人で待たされた後、紙とペンを持ったさっきのおじさんがさらに怖い顔をして入ってきた。これはかなりマズイ状況なのかもしれない、知らない間に何か悪いことをしてしまったのだろうか、いや、何も悪いことなんてしてない!
ものすごい緊張感に襲われながら、たどたどしくベトナムから乗り継いできたことを説明しても、おじさんの態度は一向に変わらず、言ってることもさっぱり分からない。これじゃあ次の飛行機に間に合わない……このまま警察に連れて行かれちゃうのかな……どうしたらいいのかわからず、私は不意に涙を流してしまった。
いつも強気な私も今回ばかりは素の19歳。すると強面のおじさんも困ってしまったのか、急に外に出たかと思うと、大柄の女性スタッフを連れて戻ってきた。その女性は涙を流している私を見て、どこから来てどこに何をしに行くのかということを流暢な日本語で優しく聞いて、あっさり開放してくれた。
怖かった……とにかく怖かった。

気持ちを落ち着かせる間もなく、急いで次の搭乗口へ向かったのだが、探しても探してもゲートが見つからない。フライト情報の画面を見ても何も出ていない。そばにいた人にこのゲートはどこなのかと聞いてみたら、なんとターミナルが違うって!
私がいたのは国際線のターミナルで、行かなければならないのは国内線のターミナル。血の気が引いてきた。ターミナルの連絡バスはどこから乗るのか?お金は必要なのか?と、不安と焦りが押し寄せる。必死に道行く人に尋ね歩きながら、やっとのことでバスに乗り目的のターミナルに着いた。
ボーディングの時間はもうとっくに過ぎている。搭乗口まで一目散に走って行くと、まだゲートの前に人がたくさん待っていた。どうやらフライトが遅れているらしい。なんという奇跡! いや、本当に助かった……。

どっと疲労感が押し寄せてきて、ベンチに倒れるように座り込む。時計を見ると夜の10時過ぎ。
はあ……と、大きなため息をつくと、急にお腹がすいてきた。(こういったところは10代ならではなのかも)

お店はほとんど閉まっていたけれど、ひとつだけ空いてたお店を見つけて中身も分からないサンドイッチを買った。どうやって作ったらこんなに不味く作れるんだというくらいひどい味だけれど、空腹を満たすことができれば何でもよかった。
ああ、日本のコンビニのサンドイッチってめっちゃ美味しいんだな……きっと日本にいたらそんなありがたみも分からないでいただろう。

ちょうど座っている場所から外を見ると、小さいジェット機が見えた。あとは真っ暗で何も見えない。ロサンゼルスってどんな街なんだろう……。
やっと飛行機の準備が整ったらしく、ゲートが開いた。あと1時間ちょっとのフライトで目的地に着く。
日本は今何時なのだろう……? 飛行機に乗り自分の座席に着くと、そのまま自然と眠りに落ちた。

(次週、Vol.6 につづく)
参照元:VOGUE JAPAN

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