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【男から見た結婚のリアル】第19回 婚姻届けを出した瞬間の男の気持ちやいかに?~ジャンクションを通過した直後に訪れるあの緊張感~

  • 2018.4.16
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この連載の第1回目から、ぼくは彼女のことをヨメと書いてきましたが、ちょっとここにきて、お詫びというか訂正というか、その両方というか、そういうのをしなくてはならない時期がやってきたので、正直にお詫びして訂正します。

じつは昨日、入籍届を役所に提出してきました。昨日というのは、あなたがこれを読んでいる日の前日ではなくて、2月のものすごく寒くてものすごく天気がよくて、空気中にインフルエンザウイルスがめちゃめちゃ元気に暴れまわっていた日のことです。

ヨメのことを「まだ入籍していないんですが、やがて入籍することがわかっている相手」と書くと、読んでいてまどろっこしいだろうということで、ヨメのことをヨメになる前から端的にヨメと書いてきました。ここにお詫びして訂正いたします(と神妙な面持ちで言って、深々と頭を下げ、はい、なにもなかったかのようにチャラっと話を続けます)。

ヨメと(あと数十分でヨメになることがほぼほぼ確定している彼女と)役所の戸籍課の窓口に行ったのは、平日の朝の8時半すぎでした。暗い表情で女子ひとりで婚姻届を出しに来ている人もいたり、待合室に葬儀代の補助制度を案内しているポスターが貼られてあったり(棺桶のLサイズは追加料金が発生すると、ぼくはこのときはじめて知った。大きい人って死んでもお金かかるんやな、かわいそうやな)、なにかと20%くらいシュールな場所が、ふたり独身最後のひと時を過ごす場所でした。

こんなんでいいのかなと思いましたが、まあ役所ってそういうところなわけで……婚姻届を提出する人も、離婚届を提出する人も、葬式の相談をしたい人も、赤ちゃんが産まれた人もみんなが一堂に会する場所、それが戸籍課の窓口。

なんか人生のジャンクションみたいな場所に(何回通ってもなんか疎外感を覚える首都高3号線の池尻ジャンクションみたいな場所/あるいは初心者が気軽に行くと事故りそうな箱崎ジャンクションみたいな場所に)、おそらく多くの人がそう考えているであろう「精神的な愛の、最高の結実の証」である婚姻届を、あなたも提出することになるわけですよ。やれやれでしょ?

で、提出日までに入念にチェックしたにもかかわらず、入籍届の書き方に不備があり(本籍をどこに置きますかという項目)、窓口のお兄さんにうながされるまま二重線を引いて訂正印を押して、番号札を渡されて、番号を呼ばれて、今度は窓口にちょっと見ただけではどんな人生を歩んできたのかさっぱり想像できないお顔立ちのおばさまが出てきて、書類を受理したと小声で宣言されて(なぜ小声?)、おめでとうございますと言われて、無事入籍しました。

だからあなたも、あなた方おふたりの入籍の事実に最初におめでとうと言ってくれるのは、名前も知らない戸籍課の人です。まちがっても、入籍したらまっさきに愛しのパパとママにおめでとうと言われるはず!なんて思わないことです。やれやれでしょ。

で、窓口をあとにして駅までヨメと歩いていたら、ヨメが「わたし1週間くらい身分を証明するものがない」と言いました。

結婚したこと(苗字が変わったこと)を公的に証明する簡易的な書類はその場でもらえたのですが、運転免許証もパスポートも保険証もぜんぶ、これから彼女自身で手続きをしないと、彼女には自分のことを自分で正式に証明するものがないという事実に直面するのが、入籍直後なわけです。

言うまでもなく、この日本で身分が証明できないというのは、かなりしんどいことです。シリア国籍の人が、パスポートを紛失したままドイツで難民として暮らしているようなものです、たぶん。

社会的弱者を通り越して、もう存在そのものを否定されかねないし、否定されたところで「わたしがわたしです!」と声を大にして意味深にして哲学的なことを言っても無理みたいな、か弱すぎる存在イコール、ヨメ。

当然ぼくは強く思いました。「か弱いヨメのことを守ってあげないといけない」と。婚姻届を提出した(ほぼ)直後の気持ちって、こんなんでした。(ひとみしょう/文筆家)

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