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ジュリアン・ムーアの、NYにあるリノベしたタウンハウス。

  • 2018.2.23
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歴史のあるタウンハウスに住むのが夢だったと語るジュリアンが、古い暖炉の前でポーズ。
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ニューヨークには、19世紀に建てられた建造物を住居に改装したものが、高級タウンハウスとして売却されたり、転売されたり、今もなお投資目的の物件として価値があることはよく知られている。しかし、そんなタウンハウスを〝物件〞から〝住まい〞に転換させるとき、「タウンハウスの多くは、魂ごとリノベーションされてしまうことに、ショックを受けたわ」と嘆くのは、アカデミー賞受賞女優のジュリアン・ムーア。そんな彼女が家族と住まいを構えるマンハッタンにあるその建物に足を踏み入れたときに感じる第一印象は、そこが驚くほど「ノーマル(普通)」だということだ。いや、「ノーマル」という言葉は、ふさわしくないのかもしれない。何か普通のものに対して、少し軽蔑するような意味合いがある。また、「普通」という言葉は、すばらしいデザインがインスパイアすべき魔法や感嘆とは正反対だからだ。

自分好みの空間にできるタウンハウスを夢見て。

とは言うものの、彼女の子どもたちは、その年頃の若者がすること−−−それが何であれ−−−をやって忙しく動き回っているし、甘えたい飼い犬はたっぷりの愛情を込めてしきりに吠えている。部屋にはある種の家庭的な居心地の良さが感じられる。一見、たやすいように見えるが、どの空間も適切な大きさ、バランスをもち、年代物のディテールに細心の注意が払われていることがうかがえる。ここには屋内プールもトルコ式風呂ハマムも、アメリカの現代芸術家ジェームズ・タレルのインスタレーション「スカイスペース」などといった、これ見よがしな贅沢を指し示すものは何もない。まるで自分の家にいるような感じがする−−−気持ちがいいほど、悪びれていない「ノーマル」なのだ。「ウエストヴィレッジのタウンハウスで暮らすことをずっと夢見ていたの」と『アリスのままで』(2014)でアカデミー賞主演女優賞に輝いた女優は話す。ちなみに、公開中のマシュー・ボーン監督の『キングスマン:ゴールデン・サークル』をはじめ、トッド・ヘインズ監督の『ワンダーストラック』(4月公開予定)、ジョージ・クルーニー監督の『Suburbion(原題)』の3作品に出演している。

結婚式を挙げた場所で子どもたちを育てた。

「ここに初めて足を踏み入れたとき、これだってわかったの。一目惚れね」とムーアは振り返る。15年前のことだ。当時、5階建ての家屋はいくつかのアパートに区画分けされていたが、正面と背面の応接間も、階層、よろい戸、暖炉、階段も完全に元のまま残っていた。「この家の個性が十分残っていたから、建物が持つ魂と質感を損なうことなく、本来のギリシャ復興様式に戻すことができたと思う」とムーアは言う。ムーアはリフォームに取りかかる前に、長年のパートナーである脚本家で映画監督のバート・フレインドリッチと中庭で結婚式を挙げた。2人の子どもたち---息子のケイレブ(現在20歳、大学2年生)と娘のリブ(現在15歳、高校生)---も控えめなセレモニーに出席。一家が正式に移り住む前に、事実上、この地に家族という印を刻んだのだ。実際、夫バートの弟で建築家のオリバー・フレインドリッチと当時の仕事のパートナーだったベン・ビショッフにブライアン・パパ、そして熱狂的なデザイン・フリークのムーアもコラボして練り上げたリフォーム自体、“家族の問題”のようなものだった。

1年半続いた改装が完了した後、ムーアは独特の嗜好があることを証明する数多くの魅力的で宝物のようなインテリア・アイテムで自宅をいっぱいにした。オーガニックなフォルム、暖かみのある素材、ジョージ・ナカシマのカクテルテーブル、イサム・ノグチのランプ、フローレンス・ノールの籐の扉付き食器棚といったオシャレなミッドセンチュリー家具、出所は明らかではないけれどシンパシーを感じるヴィンテージの掘り出し物などだ。「本物の個性があって、正真正銘のものが私は好き」だとムーアは言う。「偽物は嫌い」

年月が経つにつれ、ムーアはコレクションを増やし、家族が生活する場所を洗練していった。さらに、『アーキテクチュラル・ダイジェスト(AD)』誌によるトップ企業100社(2012年3月号)に選ばれた「ソーヤーバーソン」のブライアン・ソーヤーに依頼して、庭の大がかりなデザイン変更も行った。それでも、ムーアが理想とする家にはまだ何かしっくりこない感じがあったという。「初め、キッチンは1階にあったの。そこがキッチンのあるべき場所だから。結局いつも家族全員がキッチンに集まっていたわ。2人掛けのソファにぎゅうぎゅう詰めで座ってテレビを観たりして。応接間がある2階のリビングに集まったことは一度もなかったわね」と彼女は回想する。そして、突然ひらめいた。リビングを階下に移して、キッチンを2階に持ってくるというのはどうだろう。そうすれば、静かで落ち着けるちょっとした家族のたまり場として、リビングを機能させることができる。「自然光たっぷりの場所にキッチンを置く。これ、絶対にお勧めよ。すべてが一変したわ。今では、家中を使うことで、家全体を生かすことができている」

生活することとこだわりの両立を図る。

この斬新なキッチンとリビングの空間入れ替え---これも義理の弟であるオリバー・フレインドリッチが手がけている---は、時代的正統性を勝手に変える行為だったかもしれないが、その効果は決して不快なものではなかった。部屋の真ん中の床にはモロッコ絨毯が敷かれていて、その上にパーソンズ・スタイルの細長いテーブル(部屋の大きさに合わせた特注品)が置かれたキッチンは、居心地の良い社交スペースのような感じだ。調理や貯蔵のための場所は部屋の周辺に配置されている。「従来の食器棚もアイランド・キッチンもあまり好きではなくて、すべてが家具みたいに感じられるようにしたかった。レンジフードは、以前目にしたヴィンセント・ヴァン・ドゥイセンのデザインをまねたの。それから間もなくして彼と会って、デザインを盗んだことを認めたわ」とムーアは話す。「うちのキッチンは多分、料理人にとって理想的ではないでしょうけど、でもよく考えてみると、私だって理想的な料理人ではないし」

この空間的な見直し作業の一環として、ムーアは応接間から、上階の静かな部屋へオフィスを移している。なぜなら、歩行者の往来や路上の騒音で気が散ることが多々あったからだ。オフィスのインテリアは、ピエール・ジャンヌレの仕事机と椅子に、照明はパーヴォ・ティネルのハンギング・ライト。ムーアの思い出がきれいに収められた机の横の本棚には、アカデミー賞など数々の栄誉の証となるトロフィー類、お気に入りのデザイナーの作品に関する何冊もの古いインテリア雑誌やモノグラフと一緒に、家族写真が仲良く並んでいる。

「リフォームで魂を奪われてしまったタウンハウスは多く、ショッキングなこと。だけど、結局、そういうリフォームで得られるのは、まったく魅力を失ってしまった家ということよ」とムーアは述べる。「人間らしさが感じられるもの、伝えるべき物語を持っているものが私は好き。私の家に入って、我が家の一部になろうとするものはすべて、意味のあるものでなければ嫌だということなのよ」
参照元:VOGUE JAPAN

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