ありのままの自分とごみ袋【彼氏の顔が覚えられません 第10話】

初夢は、うちの母とマッチョの叔父さんが義理の姉弟同士で再婚するという、わけのわからないものだった。四十路でウェディングドレスに身を包まれた母が、片手を叔父さんに支えられ、もう片手に持った杖をぶんぶん振り回すさまは、なんだか本当にとっても幸せそうだった。

「こっちはこっちで元気にやってるから、イズミちゃんもそっちでお幸せにね」

叔父さんの方は、ポカンとしてる私に向かってそう言った。ちょうど年末に電話したとき、私に言ったのと同じ声で。

目が覚めて夢だとわかり、なんだか安心したような気もしたけど、同時に少しガッカリもしたような妙な気分だった。まだ寝足りないのもあり、頭の中がふわふわしていた。それで、いま自分がどこにいるのかもわからなくなりかけた。

ゴミ処理場? いや、ちがう。見慣れた天井、床に転がる、気に入った服やらファッション雑誌やらの数々。明らかに自分の部屋だ。ベッドの下で寝ちゃってたらしい。毛布だけは、ちゃっかり身にまとって。ぜんぜん片付いてない。今日こそカズヤを家に呼ぶ予定なのに。ベッドの上、なぜか主人の代わりに横になっているケータイを見る。画面に表示された時刻は、もう午前10時だ。

どうしよう。いっそこのまま、どうもしないとか。これが「ありのままの自分です」とか言って。カズヤ、案外大丈夫かもしれない。わりとテキトーな性格してるし…。

いや、ダメだ。カズヤが許しても、私自身が許せない。キッチンから大きめのゴミ袋を持ってきて、目に付くもの、手当たり次第にがーっと入れる。荒々しいやり方だけど、もう時間がないんだからしょうがない。パンパンに膨らんだ袋の口をきゅっとしめたら、押入の中にぶち込む。

明らかにいらないものだけは、2秒で判断して、ゴミ箱へ。こういうときに役立つ手だ。2秒考えて「捨てよう」と決められるものは、あとで思い出したとしても、「しょうがないか」とすぐあきらめられる。3秒後には「捨てたら後悔する」なんて無駄な恐れが湧くので、できるだけその前に行動へうつす。

そうやって作業を繰り返していくと、意外に部屋は片付いていく。しばらく見なかったフローリングの床とも、再会を果たせた。やればできんじゃん、断捨離。

…いや、押入にたまった袋の数見たら、前言撤回。どうせカズヤが帰って、またこの中身ぶちまけたら元のもくあみだろうなとは思うけど。とりあえずは忘れよう。しばらく私は、ありのままの自分であることを捨てる。片づけ上手なファッション大好き乙女の皮をかぶって、彼を迎え入れよう。

最後の仕上げの雑巾がけを終えた時刻は、午後2時ごろ。お腹が空くのも気づかず掃除してしまった。頑張り屋さんじゃん、私。「本来は年末にすべきことなんだけどね」って、ユイなら言いそうだけど。

すっかり片付いた部屋を見る。私の心もすっかり片付いたような気がする。ん、ハッタリでもいい。私は一歩新しい自分にシフトしなきゃいけないって思う。私とカズヤの関係を、シフトさせるために。

さあ行かなきゃ、カズヤに会いに。

(つづく)

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(平原 学)

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