1. トップ
  2. 恋愛
  3. 知らないと損するかも?「こども保険」って何?

知らないと損するかも?「こども保険」って何?

  • 2017.11.7

こんにちは。コラムニストで経済思想史家の鈴木かつよしです。

筆者のもとにも「最近ニュースなどで時々聞く“こども保険”って何なのですか?」というご質問がしばしば寄せられます。

パパ友の一人の40代男性などは「保険料を払っておけば子どもにお金がかかるときに助かるって話ですか?」とLINEで聞いてきました。

彼がそう思うのも無理はなく、“保険”という以上は何か困った事態に遭遇したときに日ごろ払っていた保険料から給付を受けるといったものをイメージするのは当然です。

ところが今話題になっている政府与党の小泉進次郎議員らが提唱している“こども保険”とは全然そういったものとは違いますので、分かりやすく説明する者がいないと変な誤解が蔓延してしまう怖れがあるかもしれませんね。

そんなわけで今回は、経済学士の端くれである筆者から“こども保険”とは何かについて、お話しさせていただこうかと思います。

●こども保険は社会保険料アップで児童手当を増額し幼児教育の実質的無償化を図る政策案

2017年3月29日付の朝日新聞デジタルやNHKニュースなどによる報道を要約しますと、政府与党の若手議員グループによってその日提言された“こども保険”とは、

『幼児教育無償化の財源を確保するために現在の社会保険料をアップして資金を集め、所得制限なしで現行の児童手当に一律月額5,000円~25,000円を上乗せして支給することにより実質的な幼児教育無償化を図ろうという主旨の政策案』

です。

政府与党内にある“教育国債”の案が今以上に国の財政規律を乱すおそれがあることを危惧したうえでの対案でもあります。

子育て真っ最中のパパやママにとっては児童手当の支給額が増えることはありがたい話であることに間違いありませんが、しかしこの制度を”保険”と呼ぶにはちょっと違和感がありはしませんでしょうか?

そうなんです、”保険”というのは“負担者”が将来的なリスクに備えて保険料を支払いつづけることによりリスクに直面したときに“受益者”となれる 。

“負担”と“受益”の関係性がはっきりしている性格のものなのですね。

国民健康保険料も国民年金保険料も失業保険料も保険料を払いつづけていれば給付が必要な事態となったときに受益する権利が発生します。

ですから冒頭でご紹介したような筆者のパパ友にとっては”保険”と言えなくもない面もあるけれど、子育て中でない人や子どものいない人・子どもをもつ予定のない人たちにとってみれば”保険”とはいえません。

この点にこそ、“こども保険”という概念が私たち一般の庶民にとって「分かりにくい」最大の理由があるのではないかと思います。

●そもそも一般庶民は「幼児教育無償化」より「乳幼児と児童の保育の充実」を欲している

次に、“こども保険”という概念を分かりにくくしている原因の一つとして、そもそも政府与党が少子化対策・子育て支援対策の柱として位置づけている政策案が一般の庶民の感覚とズレてしまっているという問題があろうかと思います。

政府与党はこれらの政策における最重要課題は『幼児教育の無償化』であると折にふれて言いますが、果たしてそうでしょうか?

私たち普通の庶民は子どもに年端もいかないうちから無料で外国語の英才教育を受けさせたいとか天才棋士が受けてきたような海外発の思考法を学ばせたいとか。そういったことはあまり考えておりません。

私たちは、夫婦ともに外に働きに出なければとてもじゃないが子どもを育てるなんて無理な現実があるわが国で、安心して子どもを預けられる先を得るために半永久的に待機しなければならないという先進国というにはあまりに遅れた現状 を”当たり前”の状態に改善して欲しいだけなのです。

●その他にもこれだけある“こども保険”の分かりにくさ

もっとも、少子化対策や子育て支援に社会全体でもっともっと予算を充てなければならないという根底的な部分では、小泉議員らの主張はまったく正しいと思います。

そのための財源も財政規律を乱す国債の増発に頼らずにという点でも賛同できます。ただ、それはそうなのだけれど的な分かりにくさが“こども保険”には多く、列挙するなら下記の通りです。

1.保険と呼ぶ以上は何らかのリスクに備えてのセーフティーネットでなければならないが、給付の対象として想定している「幼児教育の費用負担」はリスクではない。広く一般国民が求めているものでもない。

2.幼児教育にかかる費用よりもはるかに負担の大きい「高等教育(大学)」の無償化の問題に手をつけずに就学前教育の無償化を優先するのは順番が間違っている。

3.負担者と受益者が一致していない。社会全体で少子化や子育ての問題に向き合わなければならないというのであれば、「保険」ではなく「税」で賄うべきである。

4.所得制限なしで給付が受けられるため、そもそも幼児教育にかかるお金になど困っていない富裕層までが受給することになる。

5.子どものいない人や子どもを持つ予定のない人にとっては不公平さを感じざるをえない部分がある。

では“こども保険”ではなく私たちはどんな方法で少子化と子育て支援に向き合うべきか?

いかがでしたでしょうか。“こども保険”というものについて、少しイメージしていただけたでしょうか?

こうして考えてみますと、“こども保険”という政策案にはまだまだ熟議を要する点が多く、少子化対策・子育て支援政策の対案としてもっと筋の良いものを政府与党に対して示す必要を筆者は感じます。

ちなみに筆者が考える対案はおおむね次のようなものです。

一 少子化対策・子育て支援政策の軸足を幼児教育の無償化ではなく待機児童の完全解消と高等教育の無償化に置く。

二 そのための財源は“こども保険”ではなく税金の徴収方針の転換で賄う。具体的にはやはり相続税の強化が急務かと思います。わが国の現行の相続税制は控除額が多く、そこそこのお金や資産がある家に生まれた人がそうでない人に比べて恵まれすぎています。「社会全体で子育てを」というのであれば、相続税の控除額を削減して、先ずは生まれながらにして経済的に恵まれている人たちに協力をお願いするべきです。

三 二と同じ意味で、高額所得者の所得税の強化に理解を得る努力をすべきだと思います。「そんなに税金を取られるなら日本から出て行ってやる」といった言葉をあえて怖れず、そういった方々の内面にある公共心の高さに訴えてみるべきです。

“こども保険”は現時点では少子化対策・子育て支援政策の一つのアイデアにすぎません。

大切なことは、“もっと一般庶民が必要としている子育て支援政策”のアイデアを私たちの方からどんどん出していって政府与党に迫ることだと思います。子どもたちのより良い未来は上から与えられるものではありません。

●参考リンク 「“こども保険”子育て財源 誰が負担するのか?」(時論公論)| NHK
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/269968.html

●ライター/鈴木かつよし
●モデル/福永桃子

の記事をもっとみる