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クリスチャン・ディオールの芸術性と色彩感覚に浸る。

  • 2017.10.13
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パリの装飾芸術美術館で開催中の『クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ』展。入り口での所持品チェックに時間がかかっていることもひと役買っているが、大好評ゆえ、連日、美術館前には長い行列ができている。入場を待つ人の数の多さにめげてしまうかもしれないし、そもそも誰もが開催が終了する来年の1月7日までにパリに行くというわけでもなし。でも、見逃してはあまりにも惜しい展覧会。実際に会場を巡っているような気になれるよう、ビジュアルを中心に徹底紹介しよう。“ネタバレ”的紹介なので、この展覧会は絶対に自分の目で見る! と決めているのであれば、ここで読み終えて。

1947年に発表した初のクチュール・コレクションから「バー」スーツ。70年前のクリエーションとは思えない、普遍の美しさを湛えた名作だ。クリスチャン・ディオールのコレクションはシーズンごとにラインのテーマがあり、この時のテーマは“コロール(花冠)・ライン”と8ラインといって、どちらもウエストがしぼられフェミニティが強調されている。。

クリスチャン・ディオールが自分のメゾンを持ち、初コレクションを発表したのは、1947年。布をふんだんに使ったフェミニンなシルエットは、当時世界中を覆っていた戦後の暗い雰囲気を吹き飛ばすセンセーショナルなものだった。そのショーを見たジャーナリストから“ニュールック”と評価され、大成功を収めた彼のデビューコレクションの70周年を祝うべく企画されたのが、この展覧会である。タイトルが示しているように、この展覧会はプレタポルテは対象外で、ディオールのオートクチュールを巡る展覧会である。装飾芸術を愛したクチュリエの人生と仕事、彼が残した遺産を受け継ぎメゾンを支えている後継者たちの仕事を300点近いクチュール・ピースに加えて、家具、絵画なども加えての展示は、見応え十分 !

<パート1>

美術館内、左右の棟を使っての展覧会である。第一部は通りに面したエントランスを背にした左側の建物。階段を上がる時、正面にディオールのメゾンの建物がネオンで描かれ、そこにクチュールドレスを着て歩くモデルの姿が時代順にプロジェクションされるのが見える。会場に入る=ディオールのメゾンへと迎えられる、という仕掛けに早くも心を奪われる。

「導入部」
クリスチャン・ディオールの年譜と、仕事中の彼の写真、1947年に発表した“ニュールック”の赤いドレスから始まる。たっぷりのプリーツスカートで、ウエストにはグリーンのベルト。その右側に、彼が使っていた竹の指示棒が展示されている。展示の写真からわかるように、試着のときなどに修正箇所をこの棒の先で示すためのものだ。

1947年のドレス。この指示棒でフィッティング時に訂正箇所を示しているディオールの姿を収めた写真が、右隣に展示されている。

≫ クリスチャン・ディオールの生涯をたどる、貴重な展示物。

「クリスチャン・ディオールの1905〜1957年」
幼い時代を過ごしたグランヴィル、ボヘミアンな時間を過ごしたパリ、初仕事となった画廊時代、自分のクチュール・メゾンを構えたモンテーニュ大通り30番地、ソルボンヌ大学での講義、多いに愉しんだ数々の仮装舞踏会、晩年をここで過ごしたいと夢見たが叶わなかった南仏コル・ノワール城、1957年の彼の葬儀……左から右へと、会場を歩くことで彼の52年の短い生涯を知ることができる。写真、手紙、映像など、さまざまな素材が用いられ、彼がお守りにしていた、路上で拾ったメタルの星などの展示物も興味深い。

写真、絵画、手紙、デッサンなど細かい資料を網羅して、クリスチャン・ディオールの生涯を左から右へと。彼の葬儀の時の写真(1957)が締めくくる。左に見えるポートレートは23歳のディオール、右のポートレートは49歳のディオールだ。

クリスチャン・ディオールの父はグランヴィルで肥料製造の会社を経営していた。「Diorの肥料、それはゴールド(de l’or)なり」と言葉遊びをした広告が家族の系譜の脇に展示されている。庭を愛する彼が子供時代に愛読していた園芸屋Villemorin-Andrieuxのカタログも展示。

リュシアン・ルロンのアトリエで仕事をしていたときの1942年頃のディオールによるデッサン。ローラン・チュアル監督による映画『le lit à colonnes』の衣装もこのころに手掛けている。

独立するか、どうしようかと迷っていた1946年に路上で拾った星は彼のお守りとなった。

1949年に開催された「王様と王妃の舞踏会」で、当時ディオールのアトリエで働いていたピエール・カルダンが作った “動物の王様”のコスチュームを着たディオールの写真など、さまざまな舞踏会の写真を展示。壁のボタンを押すと、クリスチャン・ディオールが関わった舞踏会の写真を見ることができる。

「クリスチャン・ディオール、画廊経営者」
建築家か作曲家になりたい。若いクリスチャン・ディオールはこんな夢を持っていた。もっとも友達となった同世代の音楽家アンリ・ソーゲの才能を知るや、作曲は彼に任せよう! と思ったらしいが。息子が外交官になることを希望した両親を満足させるべく、彼はパリの政治学院(シアンス・ポ)で学んだ。勉強もする彼だが、アートへの興味は尽きず。芸術家たちが集まる場所に出かけ、夜遊びも盛んだったようだ。23歳のとき、友人のジャック・ボンジャンと共に画廊経営に乗り出すことを決めた彼。肥料会社の経営で財産を築いた父が、出資をしてくれた。ただし、ディオール家の名前を表には出さないという条件で。生産せずに、物を売買するという商行為は、たとえそれが芸術作品でも、ディオール家の家名にかかわるから、というのが理由である。そんな時代だった。

クリスチャン・ディオールは友人と開いた画廊で、サルヴァドール・ダリ、マン・レイ、レオノール・フィニといったシュルレアリストたちの仕事をいち早く紹介する企画展を1933年に開催した。

ボンジャンと1928年にボエシー通り34番地に画廊をオープンし、その後はピエール・コールと共に1931年、カンバセール通り29番地に画廊を開いた。どちらもピカソ、マチス、ミロといった当時すでに名をなしていた画家たちの作品を扱うと同時に、マン・レイやダリといった自分と同世代の若い才能の紹介にも力を注ぐ画廊だった。

会場には画廊で開催された『シュルレアリスム』展の展示光景の写真などで壁を覆って、画廊の雰囲気を再現。さらにダリ、マン・レイ、レオノール・フィニ、イヴ・タンギー、パヴェル・アルベール・ジャコメッティ、クリスチャン・ベラール……画商としてクリスチャン・ディオールが扱った作家の作品を展示している。アートに対する彼のモダンな視線が感じ取れる構成だ。

1933年のジャック・ボンジャン画廊での「建築」展、1933年のピエール・コル画廊での「シュルレアリスム」展などで展示された作家たちの作品を再集合させている。

「クリスチャン・ディオールと写真」
アヴェドン、ヘンリー・クラーク、リリアン・バスマンなど1940〜50年代に活躍したモード写真家たち。クリスチャン・ディオールによるクチュール・ピースを彼らが雑誌などのために撮影した写真を壁に展示している。メインはアヴェドンが1955年に撮影したイヴニング・ドレスSoirée de Parisを着たドヴィマと象の有名な写真(この写真は撮影禁止!)壁一面を使用している。その向かい側には、写真が映写されるスクリーン。そのスクリーンの後方にはゴージャスなソワレを7点並べたスペースが隠されていて、照明によってスクリーンに写真がみえたり、スクリーン越しにドレスがみえたり、という仕掛けだ。中央はドヴィマが着たYラインのSoirée de Paris。右は1951年に英国のマーガレット王女のために作られ、セシル・ビートンが撮影したことで知られるソワレである。展示されている7点はどれも有名な写真家が撮影した名作ばかり。後方に並んでいるドレスは照明の関係で少々見にくいので、じっくりと目を凝らして!

会場に入ってすぐの壁には、クリスチャン・ディオールのデイドレスやスーツの写真が集められている。

お向かいの壁には、ルイーズ・ダール=ウォルフ、ヘンリー・クラークたちが捉えたクリスチャン・ディオールのソワレのドレスの美しさ、優美さ、華やかさ……。

≫ 芸術との絆を感じる、数々のドレス。そして圧巻の色彩。

「芸術との絆」
大勢の芸術家たちと親しく交わった青春時代のボヘミアン生活。彼らとの親交は1947年に開いたクチュール・メゾンを舞台に続き、ピカソ、ブラックといった画家たちにオマージュを捧げるドレスをクリスチャン・ディオールはデザインした。彼の芸術への関心は後継者たちにも受け継がれている。マルク・ボアンはジャクソン・ポロックのドリップ・ペインティングに、ジョン・ガリアーノはロシアン・バレエやシュルレアリスムに、ラフ・シモンズはスターリング・ルビーに、とインスピレーション源を求めたクチュール・ピースを発表している。

ラフ・シモンズ(在2012〜2015)によるクチュール・ドレス。アニエス・マーチンの作品からはフォルムのインスピレーションを得ている。スターリング・ルビーのスプレー絵画『SP198』をシルクに織り込んだドレスも。

ロシアン・バレエでレオン・バクストが衣装デザインでみせたオリエンタリスムや社交界の肖像画家ボルディーニの仕事など、ジョン・ガリアーノ(在1997〜2011)は華やかなりし時代の芸術をインスピレーションの源としていた。

マルク・ボアン(在1961〜1981)の1986年秋冬のコレクションでは、ジャクソン・ポロックの絵画の影響がみられた。アンドレ・ドランが描くようにアルルカンの衣装のひし形モチーフはクリエーターたちをいつの時代も刺激する。ジャンフランコ・フェレ(在1989〜1996)もジョン・ガリアーノも……。

「コロラマ」
ピンク、赤、黄色、ベージュ……白、グレー、グリーン、ブルー、パープル、黒と色が溢れる展示が続く2つのスペースからなる。ピンクは幸せとフェミニティの色であり、赤は生命の色、というように色の力を信じ、そして頭の先からつま先まで女性の全身をクリスチャン・ディオールで装わせるのが夢だったクチュリエの世界が、ここに広がる。ドレス、帽子、靴、アクセサリー、バッグ、ビューティ・プロダクト、広告ビジュアルなどさまざまなアイテムが色ごとにまとめらたウインドーの連続は圧巻! なお展示されているミニチュア・ドレスはオートクチュールのアトリエが、実物大を作るのと同様の繊細な手仕事でつくりあげたものだ。膨大な展示点数なので、ひとつずつ解説を読みながら鑑賞するとなったら、ここだけで半日がかりかも……。

色彩の世界に身を任せる部屋。携帯片手にウインドウに張り付く人が多いせいか、コロラマの会場の人の流れは渋滞気味だ。

コロラマの最後の一角では、歴代のビューティ部門のクリエイティブ・ディレクターの仕事を紹介。セルジュ・ルタンス、ティエン、ピーター・フィリップスの仕事を映像とともに紹介している。この後、展覧会は階下へと続く。

メイクがテーマであるゆえ、文字を読むのが面倒なら、ピーター・フィリップスのメーキャップ技や、セルジュ・ルタンスによるフィルム『Les Stars』(1973)の抜粋 “Blauer Rauch-Allemagne”など映像に集中しよう。La Fondation Serge Lutensが修復作業をしたこの映像は音楽にクルト・ヴァイルの「アラバマソング」が使われていて、繰り返し見ているとこの歌のメロディーが耳から離れなくなるほど印象的だ。

階段の踊り場には、ディオールのポートレートや作品が表紙を飾った世界各地の雑誌を今日に至るまでずらりと紹介。圧巻!!

「Christian Dior, Designer of Dreams」展
会期:開催中~2018年1月7日
Musée des Arts Décoratifs
107, rue de Rivoli
75001 Paris
開)火〜水、金11:00~18:00(チケット販売終了17:15)
木 11:00~21:00(チケット販売終了 20:15)
土日 11:00~19:00(チケット販売終了 18:15)
10月12日より 木 11:00~22:00(チケット販売終了 21:15)
休)月、12月25日、1月1日
料金:11ユーロ
www.lesartsdecoratifs.fr

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