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ディオール展で知る、後継者たちが紡ぐ美しいテーマ。

  • 2017.10.13
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<パート2>

階段を降りてすぐ下の小さなスペースには25名くらいが座れるミニ・シアターが設けられ(といっても、座り心地はあまり良くないけれど)、広告映像を鑑賞できる。映画館やテレビなどで何度も見ているコマーシャルフィルムもあれば、あまり見かけたことのないものも……。しかし、どれも予算をたっぷりとかけて制作されているだけあり、映像作品としての面白さがぎっしり! ナタリー・ポートマンがさまざまな女性像を演じるミス ディオール、アラン・ドロンやジョニー・デップのソヴァージュ、エディ・スリマンが撮影したディオール オム、シャリーズ・セロンがひたすらゴージャスなジャドール……古いところでは、ルネ・グリュオーのイラストを使ったディオリッシモ、ディオレラの広告スポットも流される。1985年に制作された香水のプワゾンのフィルムは、なんとクロード・シャブロル監督のものだったという発見も。ヴェルサイユ宮殿で撮影されたイネス・ヴァン・ラムスウィールド&ヴィノード・マタディンによるSecret Gardenのシリーズは、とにかく宮殿の中や庭など一般人の目には触れないような場所の美しさも堪能できるし、リアーナが主演の回では夜のヴェルサイユ宮殿がひたすら美しい。マリオン・コティヤールが主演するバッグのレディ ディオールのサスペンスシリーズは、どれも物語があり、長さも5〜6分なのでまるで短編映画のよう。オリヴィエ・ダアン、デヴィッド・リンチ、ジョン・キャメロン・ミッチェルなど監督が豪華極まりない……と、一本ごとに興奮できる。! 全て制覇するには約1時間15分をスクリーンの前で過ごす必要があるので、時間的に余裕がないと楽しめないかも。

リアーナが歩くヴェルサイユ宮殿の夜の庭、懐かしいルネ・グリュオーのイラスト……見始めたら、とまらなくなる。

マリオン・コティヤールにアカデミー賞をもたらした『エディット・ピアフ〜愛の讃歌』(2007年)を監督したオリヴィエ・ダアン。黒いバッグのレディ ディオールを主役に、彼と彼女が再びタッグを組んだのはヒッチコックもどきのダークなサスペンス「the lady noir affair / by lady dior」

ジョン・キャメロン・ミッチェルが監督した「L.A.dy Dior」はロサンジェルスを舞台にマリオン・コティヤールがスターを演じ、「Lady Grey London」(写真)ではショーガールだ。

「パリ」
創業者から後継者たちに受け継がれる代表的なテーマが展開されるのが、下のフロアだ。最初はパリ。パリといったらクチュール、クチュールといったらパリ。17世紀からリュクスとモードの世界の中心地だったパリという街は、クリスチャン・ディオールの限りないインスピレーション源であり、それは後継者にとっても同じである。

クリスチャン・ディオールがパリで暮らし始めたのは5歳のとき。クチュリエとして成功を収めた彼が家を探したとき、子供時代に憧れていた16区の個人邸宅を偶然にも入手するという幸運に恵まれた。また、彼は自分のクチュール・メゾンを設立する際にも、ネオ・クラシックな建物のモンテーニュ大通りの30番地がいい! と願い、タイミングよくその建物を手に入れることができたという幸せ者である。彼が70年前に選んだその建物に、今もクチュールのアトリエがあり、そして世界からのクチュール顧客を迎えている。

階段を降りたら、左手へ。ウインドウを埋めるのは、クリスチャン・ディオールが最もエレガンスな色と讃える黒のドレスばかり。このテーマではクリスチャン・ディオールとイヴ・サンローランによるドレスが主となっている。パリらしく、モダンでシックな展示。今回の展覧会の素敵な会場構成はナタリー・クリニエールによる仕事だ。

「トリアノン」
自分のクチュール・メゾンを構えたクリスチャン・ディオールは、内部を18世紀風内装でまとめた。1900年頃の建築の30番地の建物が気に入ったのも、ネオ・クラシックの外観ゆえである。ヴェルサイユ宮殿のトリアノン・グレーの壁、ネオ・ルイ15世調ソファ、フォンタンジュ・リボンを結んだメダイヨン、シャンデリア……など、友人の建築家であるヴィクトール・グランピエールとともに、大好きな18世紀のエレガンスが感じられるインテリアを作り上げたのだ。さらに、クチュール・メゾンの1階には18世紀のように、アクセサリー類を扱うブティックを設けることにし、こちらには友人でイラストレーターのクリスチャン・ベラールが内装に参加した。

ヴェルサイユ宮殿の豪奢極まりない宮廷着はもちろん、マリー・アントワネットがプチ・トリアノンで装ったシンプルなドレスなど、18世紀からのインスピレーションは、彼がデザインするドレスにも多く見いだせる。ピンクのウインドウ、白のウインドウ、ブルーのウインドウの3つに分かれるが、このテーマはほとんどがクリスチャン・ディオール、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズによるクチュールドレスの展示で構成されている。

壁に18世紀の特徴的な装飾を施したウインドウに集められたブルーのドレス。クリスチャン・ディオール、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズによる贅を尽くしたクチュール・ピースが見る人々にため息をつかせる。

窓の外に広がる景色の中、プチ・トリアノンの愛の神殿が見える、という凝った趣向だ。ミス・ディオールの香水ボトルのディスプレー・キャビネットとして1950年に再現された愛の神殿もこのウインドウの隣に展示されている。

壁の絵画は、マリー・アントワネットに愛された女性画家エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランによる自画像。

≫ 異文化からインスパイアされた、クリエーションの旅へ。

「ディオールで世界一周」「クリエーションの旅」
グランヴィルの海辺の家の窓から、小さなクリスチャン・ディオールは遥かな他所の国へと思いを馳せていたのだろうか。14歳のとき、グランヴィルの慈善バザーで占い師にみてもらった彼は、3つのことを告げられたのだ。文無しになる、女性によって成功する、絶えず旅をすることになる、と。彼女が彼の手相から読み取った3つのことは、すべて当たった。大恐慌で父は破産し、画廊もクローズ。その後、クチュール・コレクションの成功によって、海外に招待され、またロンドンやニューヨークでのビジネスも展開したのだから。

異文化への興味、異郷への好奇心。クリエイティヴィティを多いに刺激するインド、アジア、中南米、ラテン諸国……ここでの展示は、ディオールから現在のアーティスティック ディレクター、マリア・グラツィア・キウリまで、全員のクリエーションを見ることができる。同じ国や文化をテーマにしても、クチュリエによってこれほど表現が異なるものか、と興味深い。会場の大きなスクリーンで流されるクリスチャン・ディオール時代の海外でのショーの光景や旅の映像といった貴重な記録も見逃せない。

スペインや南米などのラテン諸国からインスピレーションを受けたドレスが並ぶ。

会場内、テーマに合わせてエジプトの美術工芸品やシンガー・サージェントによる絵画『ラ・カルメンシータ』(1890)などを展示。この展覧会は2名のキュレーターによるもので、そのうちのひとりは会場である装飾工芸美術館の館長オリヴィエ・ギャベである。彼の参加により、単なるモード展にとどまらず、クリスチャン・ディオールの芸術への造詣の深さがメゾンの基礎となり、素晴らしいヘリテージを後継者に残していることを示す深みのある展覧会となっている。

アジア、日本がテーマ……各クチュリエによる解釈の違いを見るのが興味深い。

「ディオールのガーデン」
花は女性の次に神聖なるクリエーション。自然を愛し、庭を愛し、花を愛したクリスチャン・ディオールの言葉である。最初のバイオグラフィーの部屋でも紹介されているが、彼の子供時代の愛読書(?)のひとつに園芸店のカタログが含まれているほどだ。幼少期から亡くなるまで、彼を優しく取り囲んでいた庭。このテーマはメゾンの後継者の全員がインスパイアされずにはいられず、広いスペースで展開されている。

フレッシュで繊細な春が刺繍されたドレスMay、最も愛した花であるスズランの小花を飾ったドレス……女性と花へのクリスチャン・ディオールの愛がぎっしり詰まっている。メゾンを代表するテーマとして、創業者、そして彼の6名の後継者の全員の仕事を見ることができる。

この展覧会が企画された時点で、現在のアーティスティック ディレクターであるマリア・グラツィア・キウリによるクチュール・コレクションは2017年春夏の1回だけ。それは押し花にインスパイアされたコレクションで、クチュールのアトリエは彼女の思い描く繊細な花々を新しい技術でつくりあげた。これらのドレスももちろん堪能できる。

オルセー美術館が所蔵するクロード・モネの絵画『Le Jardin de l’artiste à Giverny』(1900)を壁に掲げ、印象派絵画を思わせるドレスを展示。右からイヴ・サンローラン、クリスチャン・ディオール、ラフ・シモンズ、ジョン・ガリアーノ、マリア・グラツィア・キウリ、クリスチャン・ディオール……。

花を象徴するピンク、自然を象徴するグリーンなど、展示はグルーピングされている。

ロメイン・ブルックスがロシアン・バレエのダンサー、イダ・ルビンシュタインをモデルに描いた「春」と、色鮮やかなドレス。右からイヴ・サンローラン、マルク・ボアン、ジョン・ガリアーノ、ジョン・ガリアーノ、ジャンフランコ・フェレ。

≫ フレグランスとドレスの競演。

「クチュリエ パフューマーのディオール」
クリスチャン・ディオールのメゾンが画期的だったことのひとつとして、クチュール・コレクションのデビューと同時に、最初の香水ミス ディオールを発表したことが挙げられる。愛する妹カトリーヌ・ディオールが溌剌とフレッシュな花の香りのこの香水の名前の由来で、ニュー ルック発表の会場を、この香りが包んだ。

こちらの館での展示の最後となる小さな円形のスペースは、香水に捧げられている。ミス ディオールのボトルやデッサンを展示し、その中央のガラスケースの中には花咲くように3着のドレスが飾られている。1着はクリスチャン・ディオールが1949年に発表したドレスで、その名もMiss Dior。その左右は、ナタリー・ポートマンが香水ミス ディオールの広告で着用したドレスである。シルクシフォンを点描画のように刺繍したソワレは、ラフ・シモンズによる2012年秋冬コレクションから。そしてラフィアとスワロスキーのクリスタルが飾るドレスは、マリア・グラツィア・キウリによる2017年の春夏コレクションのものだ。繊細さ、ポエジーの美しい競演が見られる。

1949年に発表されたトロンプ・ロイユ・ラインのドレスMiss Dior。オートクチュールのドレスに接近し、職人たちの仕事を間近に見ることができるのも、この展覧会の醍醐味だ。

シフォンの小花でドレスを埋め尽くしたラフ・シモンズのドレスと、ラフィアを素材に花を描いたマリア・グラッツィア・キウリのドレスはナタリー・ポートマンが広告で着用。

モナコ公国のグレース王妃に捧げられたボトルも含め、ミス ディオールの1947年から現在までのボトルを展示。ミス ディオール、ディオリッシモ(写真右端)のバカラ特製のクリスタルボトルはとても優美。

1947年の発表時のミス ディオールのボトルや、ヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌによるジャドールのボトルなど、滅多に見られない逸品が並ぶ。

「Christian Dior, Designer of Dreams」展
会期:開催中~2018年1月7日
Musée des Arts Décoratifs
107, rue de Rivoli
75001 Paris
開)火〜水、金11:00~18:00(チケット販売終了17:15)
木 11:00~21:00(チケット販売終了 20:15)
土日 11:00~19:00(チケット販売終了 18:15)
10月12日より 木 11:00~22:00(チケット販売終了 21:15)
休)月、12月25日、1月1日
料金:11ユーロ
www.lesartsdecoratifs.fr

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