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どこにも載っていない料理家の“しあわせレシピ”。思い出の一皿とは?

  • 2017.9.23
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おいしいってしあわせ。おいしさというしあわせを追求し続ける料理家たちは「しあわせとは?」という難題に、それぞれの答えを持っているはず。そこで今回は、埼玉県にあるカフェsenkiyaでランチを担当する『okatte sun!』こと料理愛好家の小嶋令子さんにお話を聞き、しあわせの正体を探っていきます。

褒められて、調子に乗って、また作るの繰り返し

埼玉県川口市にある人気カフェ・senkiyaで、週2、3回ランチを担当する『okatte sun!』こと料理愛好家の小嶋令子さん。彼女の作る料理は、久々に実家に帰ったような、給食の時間を思い出すような、どこかノスタルジックでホッとする、おいしいしあわせに満ちています。3回連載の1回目にあたる今回は、彼女の「思い出のひと皿」からしあわせになるためのヒントを探っていきます。

「茶の間でテレビを観ているより、台所で鍋を見ている方が好きな子どもでした。生まれ育ったのは、四方八方を海に囲まれた新潟の佐渡島。三人姉妹の末っ子で、両親は共働き。いつも本ばかり読んでいて、家のことを何もしない姉たちに代わって、どうしたら褒められるかを心得ている末っ子の私は、家の仕事をよく手伝いました。母の食事の支度を手伝ったり、兼業農家だったので畑仕事を手伝ったり。母に「姉ちゃんたちは何にもやらんで、ほれ、りょうちゃん見てみぃ(見習いなさい)」と姉たちの前で褒められると、調子に乗って、また手伝う、の繰り返し。
小学生になると、母がお嫁入りする時に持ってきた古いレシピ本を見ながら、冷蔵庫にある食材と畑の収穫物で、家族6人分の夕飯作り。お菓子もよく作りました。「りょうちゃんの作るものは、おいしい」と家族全員から褒められて、調子に乗って、また作るの繰り返し」

「思い出の一皿」は母の大きな手が作るコロッケ

「食べることも大好きでした。よく食べるから、子どもの頃は目がなくなっちゃうくらい顔がパンパンで。でも、大人って子どもがよく食べると褒めるでしょ? 料理を作るのも食べるのも元から好きだったけど、褒められるから更に好きになって、今、私はここにいるのだと思います。
思い出の一皿は母の作るコロッケ。イモが好きな家系で、畑にもいっぱい植えていたから一年中イモ祭り。コロッケを筆頭に、ポテトサラダ、肉じゃが、あとおでんにも。
私の手が大きいのは母譲りなのですが、母の作るコロッケは、それはそれは大きくて。きつね色の巨大コロッケが大皿に山盛りになって、食卓の真ん中にドンと出てくると、食べる前からもうしあわせ。出来立ての熱々を頬張れば、他には何も要らないくらい」

わたしの「おいしい=しあわせ」は湯気立ち上る温かさ

「今日ランチで出す『酒粕汁とコロッケ定食』のコロッケは、佐渡島をイメージした磯のりコロッケ。蒸かしたジャガイモに、味噌汁などに入れる乾燥のりと青のりを混ぜ込んで衣をつけて揚げました。ランチでは毎回30~40食を用意しますが、どんなに忙しくても揚げ物を揚げはじめるのはオーダーが入ってから。
振る舞う立場でも、いただく立場でも、“温かいものは温かいうちに”が私のモットー。揚げ物はもちろん、必ずつける汁物もオーダーが入るたびに大鍋から小鍋に移して、提供する直前に温め直します。食事から湯気が立ち上っていると、それだけでしあわせじゃないですか?お腹を満たしたいのはもちろんだけど、心まで満たしたいと思うから、温かいものは温かいうちに。そう、母の揚げたてコロッケのように」

小嶋さんが「思い出の一皿」から導き出したしあわせは「温かさ」。温かいものを温かいうちに食べさせたいという作る人の思いと、温かいものを温かいうちに食べられるというシンプルでいて最高の贅沢。一方通行にはならない、作る人と食べる人の双方の思いこそが、しあわせの正体なのかもしれません。
さて、次回は小嶋さんの今、みんなに食べてもらいたい「とっておきの一皿」から「しあわせって何だ?」を考えていきます。お話に登場する料理のすぐ真似できるレシピ付きです。どうぞお楽しみに。

writer / 宇佐見明日香 photo / 金田幸三

取材協力

senkiya
埼玉県川口市石神715
料理家:okatte sun!
https://www.instagram.com/okattesun/?hl=ja

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