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日本の食パンはここから始まった!元町『ウチキパン』へ|by PARISmag

  • 2017.9.5

毎日の暮らしのなかで少しだけ心が弾むような豊かさをお届けするWEBマガジンPARISmag(パリマグ)から、元町で129年続く、老舗のパン屋さん『ウキチパン』をご紹介します。

横浜駅から、みなとみらい線で約8分。元町・中華街駅にやってきました。建物や町並みからは、少し外国のような雰囲気が感じられます。

今回訪れたのは元町にある『ウチキパン』。なんと129年続く、老舗のパン屋さんです。お店の歴史やこだわりを工場長の打木豊さんにお話を伺ってきました。

日本のパン屋さんのはじまりの地

横浜といえば、1859年の開港以来、日本の文明開化を支えた貿易の要の地でもあります。

「横浜が開港してすぐ、今の山下公園のあたりに外国人の居留地があったんです。そこでイギリス人のロバート・クラークさんという方が、船員向けの『ヨコハマベーカリー』というパン屋さんをやっていました。

そのお店で、初代である打木彦太郎がパン作りを1から教わったんです。10年ほど修行をして、1888年(明治21年)に今のこの場所に『ヨコハマベーカリー宇千喜商店』という名前でお店を出したのが始まりです」と打木さん。

当時の日本では、パンはあまり一般的なものではなかったので、物珍しさに買うという感じだったのだそう。

打木さんが見せてくれた過去の資料の中には、明治30年頃の広告も。そこには「ゴールデン食麪」という文字がありました。

クラークさんから学んだイギリスパンを「ゴールデン食麪」という名前で販売したのが、日本の「食パン」の始まりなのです。

あまり見慣れない「麪」という文字は、パンを意味する漢字。「麪(現在の「麺」)」は音読みで「メン」、訓読みで「むぎこ」と読み、小麦粉のことを意味するということも、今回初めて知りました。

こちらは70周年記念の配送トラック。当時は学校給食として配達もしていたのだそうです。

128年受け継がれてきた食パン「イングランド」

お店の1番人気は、やっぱり「ゴールデン食麪」。今は、「イングランド」と名前を変えて販売されています。しかし、製法は開業当初から変えずに作り続けているというから驚きです!

「当時はイーストもなく、パン屋は自分たちで酵母を作ってパンを作っていたんです。横浜はもともと国産ビールの発祥の地ということもあり、ホップが手に入りやすかったので、それで酵母を作ってパン作りをしていました。

酵母を発酵させて培養させると雑菌が入りやすいのが難点ですが、ホップ自体に殺菌力があるため雑菌は繁殖しないけれど、酵母は繁殖するというちょうどいい具合だったみたいです」と打木さん。

現在お店にあるパンでホップ種を使って作っているのは「イングランド」だけ。それは酵母を作るために4日かかり、さらにパン自体も長時間の発酵が必要なため作るのに約1日かかるから。昔ながらの製法だからこそ時間はかかるものの、ずっと変わらない作り方でその味を届け続けているのです。

その場で自分の好きな厚さに切ってもらえるというのもうれしいところ。普段あまり見かけない、4枚切りをオーダーするお客様もいるのだとか!

今回は、打木さんのおすすめの5枚切りでスライスしてもらいました。「食べ方は人それぞれなのでお好みで」とのことでしたが、打木さんの食べ方を真似して、トーストして半分はそのまま、そのあとバターを塗っていただきました。

外側がサクッとしていて中はもちっと、しっとり。歯切れのいい軽い食感で、パクパクと食べられちゃいます。いつもの食パンより甘みが少なく、とても食べやすい!

イギリスパンということで角食よりボリューム感があるように思ったのですが、食感とおいしさにすっかりハマり、ついついもう1枚焼いて食べちゃいました。

また食べたくなるパンを目指して

お店に入ると、甘いパンから食事系のパンまでその種類の多さに驚きます。なんと60〜70種類ものパンが並んでいるんです。

そのなかでも人気なのがアップルパイや桜あんパン。山下公園や港の見える丘公園など、まわりには公園も多いので、公園で食べてもらうことを想定してなるべく食べやすい形のパンにしているそう。

今、お店に並んでいるパンは長年残ってきた精鋭たち。それに打ち勝つ新メニューを考えるのはなかなか難しいのだとか。

「従業員全員で、『こんなのどう?』って考えたパンをみんなで試食してみるんです。新メニューも長年あるメニューもお客さんにとってはたくさんあるパンの中の1つになるわけなので、新メニュー作りは厳しく検討しています」と打木さん。

そんな中、新メニューとして登場して以来、人気だというのが「ライブレッド」。

ナッツがゴロゴロと入っていて香ばしく、ライ麦パンとクリームチーズ、フルーツの相性も抜群。人気というのも納得です。

「どのメニューも毎日食べても飽きないような、また食べたくなるようなパンを目指して作っています。変えちゃいけない味はずっと変えずにやりながら、でも新しい味も出していくという。難しいところですけど、そのバランスがよくなるように気をつけています」と打木さん。

つなぐ伝統、元町という場所

また、お客さまの声も大切にしている『ウチキパン』。

「お客さんから『あれ、なんでやめちゃったの?』『あのパン復活してほしい!』というありがたい声をいただくことも多くて」と話す打木さん。お客さまの声から復活したというのが写真の「無花果クリーム」です。

元町には、100年以上続いているお店が多いとのことで、おばあちゃんやおじいちゃんの代からのお知り合いや、地元のお客さまもいるのだとか。

「幼稚園時代から一緒の同級生が洋食器店や酒屋さんをやっていて、どちらも100年以上続く老舗なんです。みんなおじいちゃんの代から続いているので、色んなつながりがありますね」と打木さん。

もう1度行こうと思った時に、そのお店がなくなっていた!なんてこともよくある昨今。お店を何代にも渡って受け継ぎ、そして町の歴史を重ねていくというのは、難しいことなのだと思いますが素敵ですよね。

128年の歴史や想いが詰まったパン、食べてみたいと思いませんか?

お天気のいい日には、買ってきたパンを公園で頬張るのも、至福のときなのではないでしょうか。ぜひ訪れてみてください。

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