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正社員だけズルい? 非正規で働く人が少子化対策に求めているものとは

  • 2017.8.16
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こんにちは。エッセイストで経済思想史家の鈴木かつよしです。

2016年の2月に『保育園落ちた日本死ね!!!』と題した匿名のブログが大きな話題を呼んだことは、パピマミ読者のみなさんにとっても記憶に新しいことと思います。

政府による少子化対策が始まってから四半世紀がたとうとしていますが、一向に成果が上がらないわが国の現実は、「何か根本的な部分で勘違いをしているんじゃないか?」と思ってしまうほど深刻です。

助産婦さん向けの医療専門誌である『助産雑誌』では、2014年に「あなたが有効だと思う少子化対策とは?」という質問に対する回答の調査結果を誌面で発表しましたが、それによるとひと口に「少子化対策」といっても、正社員のママ・パパと非正社員のママ・パパとでは必ずしも同じ少子化対策を求めているわけではない ことが明らかになっています。

筆者は、“非正規で働くママ・パパが本当に求めているもの”に目を向けない限り今後も大きな成果は期待できないであろうという理由から、今回は彼女(彼)たちの少子化対策への本音にスポットをあてて考えてみたいと思います。

●本音その1……働く女性の多くが非正規なのに正社員しか産休育休の恩恵を受けられない

月刊『助産雑誌』2014年3月号・4月号では、“少子化対策に対する声”のひとつとして、次のような“子どものいない既婚女性”の本音を紹介しています。

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『働く女性の多くが派遣・パートなどの非正規雇用にもかかわらず、正規雇用者のみしか産休育休の恩恵を受けられない。共働きしなければ子どもを育てるだけの十分な資金も得られないのに、妊娠したら辞めさせられてしまう』(女性/既婚、子どもなし/31~35歳/非正規雇用=派遣・契約社員)

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たしかに2017年6月27日に厚生労働省が発表した、平成28(2016)年版の『国民生活基礎調査の概況』によると、わが国の“働く女性”の57.8%は「非正規雇用」であることがわかっています。

働いている女性の6割は正社員・正職員ではない のです。

にもかかわらず、ほとんどの企業で産休や育休の制度は正社員ないしそれに準ずる人にしか適用されていないというのが現実です。

これでは“片手落ち”どころか、政策・制度そのものが一部の働く女性しか視野に入れていないということになってしまいます。

継続的に働く意思があり勤務態度にも問題ない人であれば、非正社員であっても有給休暇と同じように働く人の権利として産休や育休の制度が適用されるようにするべきです。

それすらもできないというのであれば、そのような行政は「本気で子どもたちを育てようとする気や少子化を脱しようとする気がない」と言われても仕方がないのではありませんでしょうか。

●本音その2……低すぎる非正社員の賃金で“子どもを大学に行かせられるのか”が不安!

『助産雑誌』同号では次のような“子どもがいる非正規雇用のママ・パパ”の本音についても掲載しています。2つご紹介させていただきます。

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『子どもをもつか、もつ場合何人産むかを考えるとき、いちばんネックになるのは「大学に行かせられるか?」だと思うし、共働きする子もち夫婦の多くが「進学の費用を蓄えるため」に働いている気がする』(既婚/子どもあり/非正規雇用=パート・アルバイト)

『教育費がいちばんきつい10代の子育てに金銭的支援が少ない。子育てして、自分の財布がさみしくなれば、老後が不安。今のシステムだと次世代が年金を支えるのだから、子育てしない人が得をする。不公平感がある』(女性/既婚、子どもあり/36~40歳/非正規雇用=派遣・契約社員)

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最初の方は性別非公開ですのでパパかもしれません。

パパであるにせよママであるにせよ、非正規で働く人に支払われているわが国の企業・団体からの賃金が低すぎることは間違いなく、西欧諸国などで見られる“生活可能賃金”的な概念が完全に欠如している と筆者も思います。

正社員のパパやママが必要と考える少子化対策と決定的に違う点は、「少なすぎる収入の問題をどうにかしてほしい」という点でしょう。

フランスなどでは「非正社員は経営側の都合でいつでも解雇されるリスクを負っている」という理由から、非正社員の方が正社員よりも時給換算では高くなる賃金を受け取っています。

わが国でそこまでの先進的な考え方を求めるのは難しいにしても、フルに働いても月収が10万円台半ばという非正社員に対する賃金の現実は、「非正規は子どもを持つな」と言っているのに等しいと思います。

非正規雇用の人の最低時給を生活可能水準に引き上げるとか、給付型奨学金の制度や10代の子どもを持つ非・高収入世帯への現金給付の制度を拡充するといった抜本的な少子化対策を実行していかないことには、わが国の少子化傾向に歯止めをかけることはできないでしょう。

●正規雇用の人たちの意見も聞いてみましょう

同誌同号に掲載された数多くのママ・パパの“本音”のうち、終わりに正規雇用の人たちの意見もご紹介しておきましょう。

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『まずは待機児童をなんとかしてもらいたいです。私は都内在住で、子どもが1歳で仕事に復帰する際は、近所の保育園は公立・民間とも全滅で、5駅先の保育園まで半年かけて通っていました』(女性/既婚、子どもあり/41~45歳/正規雇用)

『子どもは社会全体で育てると言う観念がない国である。「なぜ自分たちが払った税金から助成するのか納得できない」とよく言われる。社会全体がそういう空気であり、支援うんぬんではなくて、そこがいちばんネックであると感じている。義務教育の時点でそういうことを教育する必要性を感じる』(女性/既婚、子どもあり/31~35歳/正規雇用)

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いかがでしょう。何かお気づきになりませんでしょうか。

少子化対策として待機児童問題の解消を切望しているのはむしろ正規雇用層の人たち であり、非正規雇用の人たちにとってはそれ以前に「絶対的に収入が少なすぎること」「子どもを持ちたくてもまっとうに育てていけるだけの賃金が得られていないこと」「今後もその希望がないこと」こそが何よりも問題なのだということが、正規雇用の人たちのお話を聞くことによって逆に浮き彫りになったのではないでしょうか。

その意味では、二番目の女性のご意見も貴重です。

「努力が足りないから非正規雇用から脱することができないのだ。自業自得である」的な見解がネット上などで一定の支持を得るわが国は、少なからず病んでいると筆者も思います。

筆者の年齢になってくると、どんなに元気だった人にも等しく“老い”が訪れることが実感として感じられるようになってきます。

そのときに世の中が極端な少子化傾向にあったのでは、自分たちが暮らす社会の将来に希望が見えません。

しかるべき立場にある人が率先して「子どもは社会全体で育てるもの」という考え方を示すべきです。

二番目の正規雇用の女性がおっしゃるように、それこそが根本的な少子化対策であるような気がします。

【参考文献】
・『助産雑誌(2014年3月号・4月号)』

●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)
●モデル/KUMI(陸人くん、花音ちゃん)

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