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怖いけれどユーモラス、ベルギーの幻想美術の奇想系譜を辿る。

  • 2017.8.2
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精神の「闇」に深く降りていく、幻想美術の伝統と現在。『ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで』

ヒエロニムス・ボス工房『トゥヌグダルスの幻視』1490-1500年頃。油彩・板。ラサロ・ガルディアーノ財団蔵。© Fundación Lázaro Galdiano 夢想に現れた地獄図。

ジャン・デルヴィル『レテ河の水を飲むダンテ』1919年。油彩・キャンバス。姫路市立美術館蔵。

中世の時代から、さまざまな国の支配を受け、19世紀の独立以降も多様な文化的土壌を形成してきたベルギー。3つの言語を公用語とする社会では、言葉の意味を互いに探りあうことが、いまも普通に行われているという。その複雑な歴史のなかで、奇抜な発想による幻想美術の伝統が培われた。15〜16世紀には、ボス派が人間の欲望と贖罪をグロテスクかつユーモラスな地獄幻想の絵画に描きだす。その系譜に連なるブリューゲルは、鋭い洞察で当時の世俗的生活のリアリティを捉えた。

18世紀、自然科学の発達と啓蒙思想が、中世まで教会や君主により覆い隠されてきた真実を解明したかのように見えた。だが工業化と都市化が進む19世紀末、象徴派の画家デルヴィルやクノップフ、アンソールらは、科学の時代に背を向け、現実逃避願望や神秘主義といった、精神の闇のさらに奥深くへと降りていこうとする。

20世紀になると、デルヴォーやマグリットは非現実の領域に奇想を求めた。彼らシュルレアリストが提示した不条理に満ちた世界観は、いまなお固定観念に囚われた人間の潜在意識を撹乱し続けている。そして現代の美術作家ヤン・ファーブルは、ボスらの絵画からイメージを抽出し、妖しく輝く甲虫の鞘翅(さやばね)を素材に、それらを無数に集積したモザイクの絵画や彫刻、舞台作品を発表し、500年にわたるベルギー幻想美術の系譜に置かれているといえる。

数多くの戦地となってきたベルギーの芸術には髑髏など死の表象が常に寄り添い、最後の闇である死生観を問う姿勢が受け継がれてきた。しかも厳粛なテーマを絡めとる暗いユーモアもまた、歴史上独自の位置を示してきたベルギー芸術特有である。

『ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで』
会期:開催中~9/24
Bunkamura ザ・ミュージアム(東京・渋谷)
営)10時~18時(金、土は~21時)
休)8/22
一般¥1,500ほか

●問い合わせ先:
tel:03-5777-8600(ハローダイヤル)
www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_belgium/

*「フィガロジャポン」2017年9月号より抜粋

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