1. トップ
  2. ファッション
  3. 『VOGUE JAPAN』9月号、編集長からの手紙。

『VOGUE JAPAN』9月号、編集長からの手紙。

  • 2017.8.1
  • 699 views

「2017年、私の“パワー”の纏い方。」 ベーシックなアイテムの中に光るクールな遊び心に注目。洗練されたシルエットで表現された個性が際立つ強さとは? Photos: InDigital
【さらに写真を見る】『VOGUE JAPAN』9月号、編集長からの手紙。

実は、パワーという言葉が最近そんなに好きではありません。もちろん日常的に、活力にあふれた人を「あの人パワフルよね」と肯定的に表現したりはしますが、政治的、社会的に一度パワーを手に入れたら、それをかさにきて持論を無理矢理にでも押し通すような感覚が今、世界にあふれているような気がして、その「奢り」の香りが「やっかいだな」と感じるからです。

パワーはそれ自体が目的となってしまったとき、何か大切なものを見失ってしまいがちな気がします。力を手に入れることが最終目的となるならば、その結果は、その力でなんでも動かすことができるという傲慢が訪れるだけではないでしょうか。そんなことを漠然と思いながら、数日前に飛行機に乗りました。南仏で開かれるあるブランドのハイジュエリーのプレゼンテーションに参加するためです。

その機上で、映画『スター・ウォーズ ローグ・ワン』を観ました。スター・ウォーズシリーズには、1作目から「フォース」という言葉がキーワードとして出てきます。今回も、帝国軍と戦う兵士たちが“The Force is with me.”“May the Force be withyou.”と何度も唱えていました。能力を表すPowerに比べてForceは力そのものを表すニュアンスがあるといいます。私なりに解釈してみると、フォースは何かに影響を及ぼす力の波動をも含んだもっと大きなもので、善も悪もあるかもしれませんが、いずれにしろそこには目指す「何か」が大切な要素となる。そんな感覚を映画を観ながら覚えていました。

さて、ここでもう一度パワーの話に戻りましょう。パワードレッシングという言葉が流行した80年代は、服の力を借りて女性たちが社会進出を目指した時代。それは、新しい戦場で身を守り、男性社会の中で彼女たちをより強く見せてくれる鎧のような存在でした。当時の女性たちは、見た目からでも「能力がある」とわかりやすく示す必要があったのです。振り返ってこの現代。より女性の活躍の場が増えた今、パワードレッシングとは、自らの輝きを纏う「自信の証し」に変化したと言えるかもしれません(そんな最先端のパワードレッシングを今号ではたくさん紹介しています/ p.061)。

それは「有能」なパワーだけでなく、内からあふれるフォースをも含んだ強さと表現することができそうです。しかし、女性たちの強さは、相手を威嚇し、征服する方向へは向けられない調和的な何かであることを望みますし、ある種の女性たちは確実にそれを意識して行動しているようです。

今月号のインタビューで、女性たちとの仕事を意識的に多く選ぶと語っているニコール・キッドマンは、人々を思いやり共感する女性のエネルギーを自らも含め高く評価しています(p.056)。大きく肩の張ったジャケットを着なくとも、レッドカーペットを歩く彼女の美しく自信にあふれたドレス姿が自由な選択肢の広がった最新のパワードレッシングと解釈することができるでしょう。

先ほど触れた、私が参加したハイジュエリーのお披露目は、ニースにあるココ・シャネルが建てた別荘で行われました。まだ女性の社会的活躍が珍しかった30年代にすでに十分な名声とパワーを得たココが、生涯で唯一自ら設計したというその別荘は、思いのほかシンプルで簡素とも呼べるようなものでした。建築の元となったのは彼女が子ども時代に過ごした修道院のイメージを模したものだったといいます。

女性たちをコルセットから解放し、活動的で自由な、まさに「パワードレッシング」なスタイルを掲揚したココの、創造性にあふれ、型にはまらない精神にあらためて深い感慨を覚えました。彼女が男性を凌ぐパワーを得て自らに与えた「成功の城」は、これ見よがしな力の象徴とは真逆のものだった。その逆説的かつ複雑で、豊かな揺らぎにこそ不変のForceのあり方が見える気がするのです。

そういえば、最近の『スター・ウォーズ』の主人公はみんな女性ですね。女性たちは皆、一人一人違うライフセイバーを持っているはず。そう信じて、この秋の服を選んでみるのも、大袈裟じゃなく、いい感じです。
参照元:VOGUE JAPAN

の記事をもっとみる