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「I am. 」~私は存在する。~|12星座連載小説#126~牡羊座 最終話~

  • 2017.7.26
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「I am. 」~私は存在する。~|12星座連載小説#126~牡羊座 最終話~

12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。
文・脇田尚揮

【12星座 女たちの人生】第126話 ~牡羊座-最終話~

―――2ヶ月後……。
私は自分が手がけた番組を会社で観ていた。完璧な出来ではないが、精一杯やったという自負はある。
如月、木田さんをはじめチーフプロデューサーの吉岡さん、今回の企画に異を唱えた飯田達もいる。
2時間番組という枠の中で、自分が表現したかったことを全て詰め込んだ。この作品が、私の中でずっと消化不良だった“夏希”への想いを昇華させるものになったことは確かだ。
「貧困女子の本質は、女性であるが故の“寂しさ”にあるのかもしれない―――」
ナレーターが、締めのコメントを告げ、番組は終わった。
「終わりましたね」
如月が涙目で微笑んでいる。
『お疲れ様。助かったわ……ありがとう』
彼女にとっても、ADとして初めてのドキュメンタリー番組の完成だ。感無量だろう。
私もAD時代に初めて番組作りに携わらせてもらったときは、感動したもの。こうして電波に乗って、全国の人たちに視聴されていると思うと、何とも言えない気持ちになる。
後ろから肩をポンと叩かれる。
「タイトなスケジュールの中、よくやったな。ま、及第点ってところか」
木田さんだ。
『ありがとうございます!』
「ただ……マイクが少しこもっているのと、カメラの回し方はもう少し勉強しておいたほうがいいぞ」
チクリとアドバイスを受ける。
『はい……気をつけます』
メンタルがボロボロの中での番組作り、注意が足りなかったところも多々ある。
流石に“あれ”は堪えた―――。
取材を終え、帰宅したあの日、祐也が女を連れ込んでいて……。だけど、その時私は意外と冷静だった。
電気をつけると、祐也も女も最初は何が起きたのか分からないようで、“目が点”になっていたわ……
そして祐也の弁明。
「劇団仲間と打ち上げをしていたんだよ」
女は急いで服を着ながら、
「飲み過ぎちゃって……ゴメンなさい」
……そんな言い訳、通るわけがない。
『裸の男と女が同じ布団で寝ているのって、普通じゃないこと、分かるよね?』

祐也と女を正座させて、明け方まで説教をした。その後、祐也とは別れて、すぐに引越すなどバタバタだった……。
今回の番組作りでは、私も女として学ぶことが沢山あった。
私は寂しさゆえに、祐也のような“ダメ男”を作り出してしまった。
だけど、男女の不健全な状況の悲しさを、番組作りを通して、私はまざまざと見せつけられたの。
“美智子さん”と“さゆりさん”から教わったと言ってもおかしくないだろう。
彼女たちが特別なわけじゃない……。
誰しも彼女たちと同じ状況になる可能性は秘めているんだから。でも、それは女であることの性(さが)でもあって、何かひとつボタンをかけ間違っただけ。
祐也との別れは辛かった。
頭では理解していても、心が追いついていかない……。
きっとこの感覚は、取材させてもらった“あの二人”も、もっているものだと思う。
でも、そんな“割り切れなさ”をいつまでも見て見ぬフリしていちゃダメなのよ―――。
夏希にも、それを気づいて欲しかったな……。
後ろ髪引かれる思いを残しながら、どこか清々しく社内のラウンジを歩く。何かの終わりは、同時にまた何かの始まりでもある。
今、私が担当しているのはバラエティー番組。タレントに気を遣いながら、何が“ウケるのか”を考えながら、毎日を過ごしている。
『正解はないのかも……』
独り言を呟いて、自販機にコインを入れようとした時。
「奢ってやるよ」
木田さんが先に硬貨を入れた。
『そんな、悪いですよ』
「なんで俺があの時お前を推したか、分かるか?」
『え……?』
突然の言葉に、戸惑う。
「お前の“負けん気”こそが、モノ作りをする上では欠かせないからだよ」
『……』
「反骨精神っていうのは、既存のモノに満足しきっている奴らをぶち壊してくれる。俺は見ていて、気持ちよかったよ」
『そういうものですか……』
「だけど、リスクもあることを覚悟しておかなきゃならないんだがな」
そう言って、木田さんはコーヒーのボタンを押した。
『あ……!』
「ん?」
『いえ、私、お茶が飲みたかったんですけど……』
「え……まぁ、お前、あれだ。カフェインで目を覚ませって話さ」
『プッ……アッハハ!』
私は、今の自分に満足している。いつも自分が正しいと思うことをやってきた。
間違っていることもあるのかもしれないけど、自分が“間違いだと思わなければ、それは正しいことになる”。
―――『ありがたく頂きますね』

牡羊座の女の人生は、
“I am.” ~私は存在する。~
自分が感じること、どうしたいか。それを突き詰めた先にある、“何か”を知ること。
結局は自己満足なんだけど、でもそれでいいの。人生はそもそもが“自己満”で成り立っているんだから。
私はこれからも未知のモノに挑んでいくだろう。その過程で傷ついたり、落ち込んだりすることもあるかもしれない。
でも……。
それこそが学びであり、自分が生きているってことの証明なの。
今、私は充実感でいっぱいです―――。
牡羊座の女の人生 ~Fin~

【今回の主役】
竹内美恵 牡羊座32歳 駆け出しディレクター
熊本県から状況し、都内でADとして下積みの後、最近ディレクターに。年下の男(吉井祐也・劇団員)と3年近く同棲をしている。
性格は姐御肌で面倒見がよく、思いついたらすぐ行動するタイプ。反面、深く物事を考えることが苦手でその場の勢いで物事を決めてしまうきらいがある。かなりワガママだが、テレビ局内での信頼はあつい。

(C) fizkes / Shutterstock
(C) Bogdan Sonjachnyj / Shutterstock

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