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時を経て現れた“元カノ”という最強のゴースト。あなたなら本当に立ち向かえますか?

  • 2017.7.6
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【うるおい女子の映画鑑賞】 第43回『さざなみ』(2015年・英)

「女性」の視点で映画をみることは、たとえ生物学的に女性じゃなくても日常では出会わない感情が起動して、肌ツヤも心の健康状態もよくなるというもの! そんな視点から今回は良質なアート系映画が集結するベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞したイギリス映画『さざなみ』(2015年・英)を紹介します。

ストーリー

この作品の原題は『45 years』。このタイトルからもわかる通り、結婚45周年を迎えるある夫婦の物語です。仲睦まじい老夫婦は、結婚記念パーティの計画を立てながら、ふたりで歩んできた日々、穏やかな愛情を噛みしめる平凡ながら幸福な日常を生きていました。

ところがある日、夫のもとに一通の手紙が届き、事態は一変! 結婚前に夫が付き合っていた女性の遺体が、雪山の氷のなかに発見されたという知らせだったのです。若く美しい姿のままで氷のなかにいる元カノ。そしてそれが象徴するように、夫のこころと記憶に強烈に深く色あせずに残る彼女の存在。やがて妻(シャーロット・ランプリング)の嫉妬はむくむくと膨らみ、45年間を共に生きてきた夫婦の絆がぐらぐらと揺らぎはじめます。

ちょっと理解できるからこそ“怖い”のです

郊外の一軒家でのどかな生活を送る夫婦はすでに仕事もリタイアしているので、犬の散歩をして、食事をとり、ときには街まで出かけ、夕飯後は読書をして、一緒にベットに入るという均整のとれた生活です。

ところが、例の手紙を受け取ってからの夫の動揺はすさまじく、ノスタルジーの世界へ一直線。残酷なほどに、彼にはもう元カノの幻影しか見えていません。「もし彼女が生きていたら結婚していたか」という、妻の祈るような質問にも、迷いなく「していた」と答える始末。夜な夜な屋根裏にこっそり上がっては、元カノの写真を映写機で見ていたりと、「老い」や「死」が免罪符にでもなるかと思っているのか、夫の行動はエスカレートしていきます。

「熟年夫婦なのに嫉妬?」と笑い飛ばしたいところではあるのですが、これがどうして、同じ女性故か妻の気持ちを理解できてしまうのが怖い。というか、これは嫉妬なんて可愛いものではなく「これまでの45年という年月が全否定されてしまう」ようなクライシスなのです。

あなたはパートナーをいつまで蹴飛ばせる?

この事件が20〜30年前に起こっていたとしたら、妻は夫を突き放して蹴り飛ばして、謝らせるか、別れてしまうという選択肢もあると思います。

ですが、45年間連れ添った相手に対して、その時どんな選択肢があるのでしょうか? 年をとることも、再会して夫をがっかりさせることもない死んでしまった元カノ。

それに立ち向かう術も気力も時間もないとわかっている妻の表情はなんとも、年齢を思慮深く重ねた女にだけ滲み出る諦めと、人生というものへの許容が感じられて圧巻なのです。

ぜひ、結婚前の夫の心に“冷凍保存された元カノ”がいないかどうか徹底調査をしたいと感じずにはいられない一本です。静かに、だけど確実に心に生じた”さざなみ”を表現す、映画界の至宝シャーロット・ランプリングの芝居も秀逸。女の生き様をぜひ感じ取ってみてください。

text:kanacasper(カナキャスパ)
映画・カルチャー・美容ライター/編集者。編集を手がけた韓国のカリスマオルチャン、パク・ヘミン(PONY)のベストセラー メイクBOOK待望の第2弾『わたし史上いちばん”盛れる”♥ 秘密のオルチャンメイクⅡ』(Sweet Thick Omelet/DVD付/¥1,500・税別)が好評発売中

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