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パイロットや自衛官など「色覚異常」の人が就けない職業とは?

  • 2014.12.24
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【ママからのご相談】

2型の色覚異常をもつ小学生の男の子の母です。将来の職業選択について助言を求められたときのために調べていたら、米国では色覚異常のある人が就けない職業は1級パイロット(旅客を乗せるパイロット)だけで、それ以外のどんな仕事にでも就けることを知りました。

これに対し、日本ではパイロットや航空管制官を含む航空会社の全職種が採用を制限しているほか、電車の運転士(動力車操縦者)は省令で禁止されています。他にも電気工事や毒劇物を取り扱う職業が採用を制限。消防士はかなりの自治体で色覚正常であることが採用の要件。警察官は“職務遂行に支障がなければ可”ですが、実際にはかなり難しいようです。息子は電車の運転士さんにも刑事さんにも憧れています。日常生活に何の不自由もないのに就けない職業がこんなにあるって、おかしくないでしょうか?

●A. ご指摘の通りです。その仕事に就きたいと相談されたときに対応しましょう。

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。ご相談ありがとうございます。

ご指摘の通りで、色覚異常を持つ人に対してこれほどまでに事細かな就職制限のある国は、国連加盟国中で日本だけです。欧米先進諸国の方が色覚異常の人の割合が日本よりずっと多い(欧米の白人男性では8~10%いるのに対して日本人男性では約4.5%)という事情もあるでしょうが、日常生活に支障がないのにこれほど多くの職業制限があるという事実は、それを知ったとき色覚の異常をもつ子どもや若い人たちに精神的なショックを引き起こすため、こういったわが国の現状を問題視する眼科医師や研究者は少なくありません。

色覚異常を持つ子どもに、聞かれもしないのに、「あれにもなれない、これにもなれない」という話をすることはデリカシーのない行為であり、姿勢としては、「採用制限がある職業に就きたい」と本人から相談されたときに、対応するようにしたいものです。

以下の記述は、東京の西部で眼科医院を開業し、色覚異常者に対する制度的バリアの問題と長年に渡って取り組んできている眼科医師から伺った話しを参考に、すすめさせていただきます。

●欧米先進諸国に比べて色覚異常者に対するバリアがわが国に多い理由

『欧米先進諸国に比べて色覚異常者に対するバリアがわが国に多い理由の中で最も重要なものとして、学校で一般的に使われてきた“石原式色覚異常検査表”(以下“石原表”)の存在があります。採用制限のある職種で今でも使われている“石原表”は、戦前・戦中の日本で、「兵隊として役に立たないうえ仲間にも危険を及ぼす色覚異常者を、徴兵検査や学童検診でもれなく発見し、区別しておく」ことを目的として生まれた、鋭敏すぎる検査方法なのです。

その“石原表”を戦後も学校保健の現場や一般社会にそのまま持ち込んでしまったため、諸外国に比べて色覚異常者に対するバリアが多すぎる社会になってしまったということが考えられます。現在ではなくなりましたが、1982年の時点では医学部入学の際に半数以上の大学で色覚異常者の入学に関し何らかの制限をしていました。また現在でも、学業の履修の上で、あるいは卒業後の就職の上で支障があるとしてその入学を制限している学部・学科をもつ大学が、いくつか存在します。このように、色覚異常を理由に入れない大学がある国も、世界中で日本だけです』(60代男性/都内眼科医院院長・眼科医師)

●バリアは少しずつ改善されてきたが、人命と仕事の特性を理由とするバリアは未だに多い

『そのような歴史を持つわが国ですが、東海地方のある高名な女性眼科医の先生や、自らが色覚異常を持つ多くの医師や各界の先輩方、保護者や支援者の方々の努力により、バリアは一歩ずつ改善されてきました。厚生労働省は、色覚異常者であっても日常生活や学校生活に全く問題がないことから、2003年に学童検診から色覚検査を除外しましたし、雇用者が雇用時に色覚異常を理由とした採用制限をしないよう指導してきています。

しかし、そうはいっても、“人の命と安全を扱う仕事”であることを理由に採用を制限している職業は、いまだに数多く存在します。ご相談者さまが調べられたような職業の他にも、“ふぐ調理師”や“オートレースの選手”・“審判員”などがそうです。自衛官(航空・航空以外ともに)も、なれません。ですが、自衛官の場合はさすがに仕方のない面はあり(有事の際におけるリスクが高すぎるなど)、それよりも問題なのは、アパレル業や印刷業などの採用の現場で、仕事の特性を理由に実質的なバリアが残っていることです』(前出・眼科医師)

●眼科で判別困難な色を特定してから目標を定め、バリアを設けない進学・就職先を考える

『息子さんの場合は、すでに眼科で緑感覚の異常と診断されていますので、今後の対策は立てやすいかと考えます。将来の目標を定めるためにも、色の識別に関して、お子さんにもし、「おかしいな」と思う点があれば、早いうちに眼科にいって検査を受けましょう。

具体例を挙げるなら、医師の仕事は全く問題ありません。これまでも理科の実験で道具を取り違えたことなどないように、2型の色覚異常でメスを取り違える心配などありません。患者さんの顔色がよくないな、ということも普通にわかります。眼科医だって、できます。色覚検査を行うときだけ同僚に手伝ってもらえばいいだけのことです。そういう医者がいることで色覚異常をもつ人たちはどれほど勇気づけられることでしょう。医学の分野においては、先人たちの努力の甲斐あってわが国でも今はバリアがなくなりました。法学の分野などはもともとバリアがありません』(前出・眼科医師)

よりポジティブに将来の職業について考えるのであれば、音楽関係の仕事は適職といえますし、人間とは違う色の見え方をしている動物の生態が正常色覚者よりも理解できる可能性から、獣医師や生態学の研究者なども適職といえるかもしれません。人に対する心遣いができるので、アナウンサーやキャスターのような仕事も向くかと思われます。

余談になりますが、ゴッホやモネ、ピカソ、ターナー、ドガ、ロートレック、ルノアールといった天才的な画家たちが色覚異常であったことは、今では多くの眼科医師らの研究によって明らかになっています。彼らの作品をみていると、たしかに正常色覚者ではできない色使いの素晴らしさなのかな、と思います。

このこと一つ取ってみても、美術的要素を伴う仕事だからといって色覚異常者に入り口でバリアを張ってしまうということが、どれほど意味のないことであるかがわかります。

【参考リンク】

・先天色覚異常 | 日本眼科学会(http://www.nichigan.or.jp/public/disease/hoka_senten.jsp)

(ライタープロフィール)

鈴木かつよし(エッセイスト)/慶大在学中の1982年に雑誌『朝日ジャーナル』に書き下ろした、エッセイ『卒業』でデビュー。政府系政策銀行勤務、医療福祉大学職員、健康食品販売会社経営を経て、2011年頃よりエッセイ執筆を活動の中心に据える。WHO憲章によれば、「健康」は単に病気が存在しないことではなく、完全な肉体的・精神的・社会的福祉の状態であると定義されています。そういった「真に健康な」状態をいかにして保ちながら働き、生活していくかを自身の人生経験を踏まえながらお話ししてまいります。2014年1月『親父へ』で、「つたえたい心の手紙」エッセイ賞受賞。

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