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私が一番幸せを感じる瞬間|12星座連載小説#100~魚座7話~

  • 2017.6.19
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私が一番幸せを感じる瞬間|12星座連載小説#100~魚座7話~

12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。
文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第100話 ~魚座-7~

「話聞いてくれてありがとね……まぁ、ちょっとした愚痴よ」
麗蘭先生はそう言って、席を立った。
『先生……』
“お辞めにならないで”と言おうとしたけど、言葉に詰まってしまった。
占い師というのは資格のいらない職業。無資格ゆえに、経験と実力だけがモノを言う。そんな世界で生き抜いてきた先生の決めたことだ……誰が止められるだろう。
「先生」
『はい……』
「占い師というのは因果な商売なのよ。でも、先生は他の占い師とは何かが違う。これからも頑張ってね」
麗蘭先生は、寂しそう手を振り去っていった。
考えさせられる。
麗蘭先生ほどの人が、自ら“占い業”を退くのだ―――
占い師は、今、日本に5万人いると言われている。でも、その実態は“ピンキリ”だ。昨日まで主婦だったのに、今日から占い師なんて人もいる。その一方で、麗蘭先生のように実績を積んできたベテラン占い師も。
資格がいらないから誰でも名乗れるんだ。“占い師のあり方”って一体……
そんなことを考えながら、家路につく―――
家には、長男の長輝がひとり。夫のてっちゃんは、娘の夢叶のお迎えで、まだ帰っていないようだ。
今日は久々に、私が家事をしようかな。
長輝はというと、お気に入りのアニメ番組に夢中で、『ただいま』というと「おかえり」とぶっきらぼうな返事が返ってきた。
何かに夢中になっているときは、いつもこう。一体誰に似たのかしら。
夕食の準備を始める。冷蔵庫の中にあるもので、ちゃちゃっと作ってしまおう。
占いと料理はよく似ている。相手から提供された限られた情報をもとに、その人に合った鑑定をする。
占い師は“人生のシェフ”ね。
でも、“美味しい”かどうかはわからない……っと。フフフッ。

フライパンをひっくり返す。中のチャーハンがクルンと宙に舞う。
私はこのまま占い師という仕事を、ずっと続けていくことができるのだろうか……。
霊感があるわけでもないし、超能力を持っているわけでもない。言ってしまえば、星占いに少し詳しくて、タロットカードを扱える“普通の主婦”なのよ。だんだんと不安になってきた。
占い師は、自分の人生をみることはできない―――
“占い師あるある”を思い出した。不便なものね。
占い以外で、人の役立てるような何かを身に着けたい。そんなことを思った。
「ただいま~」
玄関がカチャ開くと同時に、元気な声が聞こえてきた。夢叶とてっちゃんのご帰宅だ。
『おかえり』
朝、幼稚園に行く時はグズっていたのに、随分とご機嫌ね。いつものことだけど。
「あ! 今日はママのチャーハンだぁ!」
『あ、ちょっとちょっと、まずは手洗いとうがいをしていらっしゃい』
「はぁい」
プーっという顔で洗面所へ向かう娘。
入れ替わりに、てっちゃんが台所に入ってくる。両手には買い物袋を下げていた。
「お、今日は早かったんだね」
ほら、と言って買ってきた食材を見せてくれる。本当にいつも助かるわ。
「何か手伝えること、ある?」
『ん、大丈夫。ゆっくりしてて』
たまには家事くらいちゃんとしなくっちゃ―――
長輝がテレビを見終える頃には、麻婆茄子とチャーハン、餃子が完成していた。
「わぁ、すごいねママ。美味しそう」
長輝が、今にもつまみ食いしそうな勢いで、お皿を覗き込む。
『待って、みんなが揃ってからね』
数分後、お風呂から上がった夢叶とパパが到着。
家族全員揃って「いただきます」の時間だ。私が一番幸せを感じる瞬間だ。

「今日はどうだった?」
てっちゃんが、夢叶に餃子を取り分けながら聞いてくる。
『うん、仕事は至って普通だったよ。少しディープなお悩みもあったけど』
「そっか、人の悩みを聞くって大変だよなぁ。職場に心理職のヤツがいてさ、そいつも愚痴をこぼしていたよ。人の悩みばかり聞いていると疲れるって。最近じゃカウンセラーがカウンセリングにかかるなんてこともあるらしいよ」
―――てっちゃんの何気ない言葉の中に、“何か”が見えた気がした。
『ねぇ、それもう少し詳しく聞かせて?』
「ん? ほら公務員でも心理職っていうのがあるんだよ。カウンセラーとか」
『カウンセラーか。……ねぇ、それって誰でもなれるものなの?』
「いや公務員になるには年齢制限があるよ。ただ、民間資格なら、勉強すれば誰でも取れるんじゃない? ……まぁ、臨床心理士とかは厳しいだろうけど」
『なるほどね……』
てっちゃんは博識だ。私の質問にいつも的確に答えてくれる。
「どうしたんだよ、突然?」
『ねぇ、もしも私が通信講座でカウンセラーの資格を取りたいって言ったら、てっちゃんは許してくれる?』
可愛く尋ねてみた。我が家は今日も平和だ。

【今回の主役】
和辻花子(フレイア華) 魚座33歳 占い師
既婚者であり、夫に和辻哲夫、子供に和辻長輝(9歳)と和辻夢叶(5歳)がいる。家庭と仕事の兼ね合いで悩みつつも、占い師としてそこそこの人気を得ている。しかし、あるお客の鑑定をきっかけに、占いの限界を感じて心理カウンセラーの資格を取ろうと考える。

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