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小リスのBGM【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第5話】

  • 2014.12.23
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週末、桃香は鮎子と一緒に自由が丘にいた。

木枯らしが首筋を撫で、キュっと首をすくめたくなる。そろそろ冬の足音が聴こえる。

「かわいい帽子買って帰ろうか。おそろにしようよ。白いファーがたっぷりついたのどうかな。あったかいよ。うさぎになろうよ。二人で」

とガールズトークがはずむ。

買い物のあとは、慎吾のバイト先のコミックカフェ見学の約束だった。店に入ると慎吾は黙々と接客仕事をこなしていた。必要最小限のことしか話さないがまじめに取り組んでいる様子だ。客がコミックを探していると、一緒に棚を見回して一生懸命探している。狭い通路を行ったり来たり動き回っている。左脚が動きにくい事は、知っていなければわからない程度だ。

1時間だけふたりはオープンスペースで恋愛コミックを読みながら慎吾のバイト終了時間まで待った。コミックに出てくる瞳キラキラの恋する乙女に我が身を重ねて。作品のシーンに合わせたBGMが自然に桃香の頭の中を流れる。音楽にたずさわっていると音がないコミックでもまるで映画のように感動が広がる。

嬉しいシーンには小リスがどんぐりを持って弾むようなメロディ。悲しいシーンでは心を締め付けるマイナーなバラード。桃香は夢中でページをめくる。いつか自分もこんな恋をするのだろうという予感がした。慎吾のバイト終了後、桃香は自由が丘ツウのところを見せたくてふたりを誘った。

「パンケーキ専門店あるの。そりゃもう、こってりクリームやフルーツが乗ったすっごいパンケーキ! 食べようよ、3人違う種類頼めば3つの幸せじゃん!」

鮎子はバイト先にしか行かない慎吾にいろいろな所へ出かけて行って欲しかったが、この3年間は誘う事すら躊躇していた。桃香の誘いがきっかけで慎吾が外へ出ればいいと思った。

「行く! 慎ちゃんも行こう」

と慎吾の腕を引っ張った。慎吾は少し下を向いて考えたが

「ねえちゃん、おごってくれる?」

と小さな声で答えた。

「もっちろん、高給取りのOLですから。ゴチするわ」

と鮎子はうれしそうだった。

客層は女性100%のキラキラした店内。バニラの甘い香りが鼻先をつつく。3人はでかいパンケーキにキャアキャア言いながらさっき読んでいたコミックの話に花が咲いた。慎吾は休憩時間に女性向けのコミックも目を通しているので、ストーリーがだいたいわかる。

漫画家の名前や過去作品までスラスラ言う慎吾に

「慎ちゃん、それってオタクっていう領域よね」

と鮎子が突っ込みを入れる。桃香はやりとりを楽しく傍観する。

(続く)

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【恋愛小説『自由が丘恋物語 〜winter version〜』は、毎週火曜日配信】

(二松まゆみ)

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