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モテるけど…「本当の恋」はまだ知らない|12星座連載小説#95~天秤座8話~

  • 2017.6.12
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モテるけど…「本当の恋」はまだ知らない|12星座連載小説#95~天秤座8話~

12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。
文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第95話 ~天秤座-8~

職場での評価が一変した。薫さんのアドバイスひとつで。
正直、これまで職場で“期待される”なんてことはなかった。だから、仕事に対してこだわりや熱意を持つことはなく、ただ惰性で続けてきた。
でも、昨日からなんだか仕事が楽しいと思えるようになった……かも。
お店のサイト構築をしながら、そんなことを考える。
今日は生憎の雨ということで、お客様も少ない。それを良いことに、私はPCと睨めっこだ。昨夜、薫さんから届いたLINEを見ながら、キーボードを叩く。
少しずつだけど、サイトを綺麗にしていくのは楽しい。
あっという間に時間が過ぎていく……。
「佐々木さん、そろそろお昼休憩に入ったら? そんなにずっと作業していたら疲れちゃうわよ」
来栖さんが声を掛けてくれる。
『ありがとうございます。あともう少ししたら休憩頂きます』
薫さんからの「今シーズンの売れ筋ブランドの商品を、一番目につく位置に出してみて下さい」というアドバイス通りに、商品をピックアップし並べる。
近くのコンビニでサンドイッチと珈琲を買って、少しの時間休憩に入る。
『ふぅ……』

これまで私は、男の人を“尊敬する”という経験がなかった。ただ、自分にとって都合の良い、“アクセサリー”のように考えていたかもしれない。
今振り返ると、私も男性にとって都合の良い女に過ぎなかったのかも。
一緒に食事をしたりデートをしたりしても、チヤホヤしてもらえるのはきっと今だけ。それは分かってる。
手元の珈琲を眺める。
『温かい……』
これまで私は、なんてムダな時間を過ごしてきたんだろう。
男たちからチヤホヤされることに、満足し自惚れていた20代前半。20代後半になってからは、経済力がある男を見つけて結婚するために奔走してきた。
恋しているようで、全くしてこなかったなぁ……。
昔、“ある本”を読んだことがある。詳細は覚えていないのだけど、たしか……孫と二人暮らしの漁師のおじいさんの話。ある日、おじいさんが病気になってしまったのよね。
そのとき、珈琲を飲みながらおじいさんが孫にこう言った。
「釣った魚をくれる人より、魚の釣り方を教えてくれる人の方が優しいんだよ――」
当時は、この言葉の意味があまり分からなかった。釣った魚を貰える方が、楽チンでいいじゃんって思っていた。
……でも、今なら分かる。
人に魚を釣ってもらい、与えてもらうことが当然になっていたら、釣ってくれる人がいなくなってしまった時、どうすることもできないのだ。
“釣り方を教えてくれる人の方が優しい”というのは、そういうことだったんだろう。
おじいさんは、孫に魚の釣り方を教えて……それからしばらくして亡くなった。孫はその後、村一番の立派な漁師になったのよね。技術や知識というは、血肉となって人を支え続けるのよね。
―――そして、自信を与えてくれる。
それはとても“優しい”こと。そんな優しさを、私は薫さんに感じているのかもしれないわね……。
カップの中に残っていた珈琲を飲み干し、また職場に戻る。
それから夕方まで、時々売り場に立ちつつも、サイト構築に取り組んだ。
「佐々木さん、私にできることがあったら言ってね……じゃあ、また明日」
鈴森さんが、伏し目がちに話かけてくれた。
『はい、その時はよろしくお願いします。お気をつけて』
もうそんな時間か……、私もそろそろ帰らなくちゃ。でも、あともう少し。
自宅でも仕事ができるように、パスワードをメモし、帰り支度に取り掛かった。
『それじゃあ主任、私はこれで失礼します』
「ありがとうね、佐々木さん。帰りは気をつけてね」
来栖さんに挨拶をして、店を出る。外に出ると、朝降っていた雨は上がっていた。

―――帰宅してすぐに、マイPCを立ち上げる。これまで、仕事を家に持ち込んだことなんて一度もなかった。こうして自宅残業をするなんて、何だか不思議な感じ。
パスワードを入力して、サイトの管理者ページに入ると……。
『あれっ?』
ページがちゃんと表示されていない。
『おかしいな……』
ネット接続に問題はなさそうだ。でも、何度更新してもページが表示されない……。
そこからPCを触ること10分。何も変化なし。
『ヤバ……』
どうしようかと考えた結果、私は薫さんに電話で聞いてみることにした。
少し、緊張する。LINEの通話ボタンを押す指が、少し震えている。
思い切って……、
『えいっ!』
別に……ちょっと分からないことを聞くだけだもの。
――コール音が数回鳴った後、
「はい、四谷です」
薫さんの声だ……!
『あ、あの……佐々木です。サイトのことでちょっと分からないことがあって……』
「どうされたんですか!?」
『サイトが表示されなくなってしまったんです』
「え、それは大変ですね。分かりました。ちょっと待って下さいね…」
スマホの向こうで、カタカタとキーボードを打つ音が聞こえる。
「本当だ……ページが表示されていませんね」
『薫さん、どうしたら良いでしょうか?』
「分かりました。少し待っていて下さい。……ふむ、今から私がそちらへ向かいます!」
『あ……』
この人、なんて頼り甲斐があるんだろう。
―――私の心臓のドキドキは、ピークに達していた。

【今回の主役】
佐々木恭子 天秤座27歳 アパレル店員
センスがよく整った容姿の女性。男に困ったことがなく、広く浅く男性と付き合う、いわゆる“リア充”である。将来の夢は玉の輿に乗ることで、毎週タワーマンションで催される会員制パーティー『ロイヤル・ヴェイル』に参加している。仕事仲間からは陰口を叩かれているようである。

(C) Paulik / Shutterstock
(C) GaudiLab / Shutterstock

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