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31歳女「恋してしまったみたい…」|12星座連載小説#92~獅子座8話~

  • 2017.6.7
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31歳女「恋してしまったみたい…」|12星座連載小説#92~獅子座8話~

12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。
文・脇田尚揮

【12星座 女たちの人生】第92話 ~獅子座-8~

カーテンの隙間から光が差し、私の顔を照らす。
朝だ。
んんと、今何時だ?
……あぁ、まだあと15分横になれる。今日も仕事。
昨夜はあのまま寝てしまったようだ。頭痛とかはないけれど、少し身体が怠い。結構飲んだしね。
はぁ……。うーむ。ふぅ。
昨日パーティーで知り合った、「木村秀一」のことがどうしても気になる。
連絡先も知らない男。でも、また会いたい男……。

スマホを手に取り、ダメ元で“弁護士 木村秀一”で検索してみる。
……あ、出てきた!
第2東京弁護士会所属。事業再生、M&A、企業法務、商事取引、倒産、民事紛争、民事保全が専門。
横浜の「アヴァンス法律事務所」に勤めているんだ。ふーん。
って、あーもう! アタシなにしてんだろ。これじゃあ、まるで“ストーカー”じゃん。こんなのアタシらしくない。
朝の支度を終え、「アリアンロッド」に出勤。
まずは、いつも通り掃除。
……床をモップで磨きながらも、木村秀一のことが頭から離れない。
なんだこれ。これじゃあまるで、“恋する女子高生”じゃない。この黒木真利子が恋だなんて。何だか笑える。
「おはよ~」
尾田ちゃんだ。今日は早いわね。
『おはよ! 早いね!』
「真利子こそ、朝早くから精が出るわね……って、あなた、どうしたの!?」
『え? 何が?』
「ストッキング。思いっきり“伝線”してるわよ」
『え……おおっ。本当だ!』
左足のふくらはぎから膝上まで、ザックリと穴が空いていた。
「しかも、ジャケットの裏。ベッタリ埃がついてるわよ」
あちゃ~。
昨日着たボディコンをジャケットの上に放り投げたのが悪かったか……。アクリル入ってたからなぁ。黒いジャケットに埃が大量に付着してしまった。
『こんなんで出勤してたんだ、アタシ……』
「ここはやっておくから、裏で綺麗にしてきたら?」
『ごめん、そうさせてもらうわ』
バックヤードでストッキングを履き替え、ジャケットの埃をローラーでコロコロ取っていく。
―――今日はなんだかボケーッとしてるわね。
その後も、普段なら絶対しないような発注ミスや、商品のディスプレイミスを繰り返しダメダメだった。
玲衣から指摘されたときは、流石に焦ったわ。

お昼休みが終わる頃、尾田ちゃんが私の肩をちょいちょいとつつき話し掛けてきた。
「ちょっと真利子、あなた今日どうしたのよ? 昨日、何かあったの?」
文句を言うという感じではなく、本当に心配してくれている様子だ。
『いやぁ。特に何も……』
「嘘おっしゃい! いつも完璧な真利子がストッキング伝線させて出社なんて、ここ6年間で初めて見たわよ。どうしちゃったのよ」
『うーむ』
「ん?」
『……た、みたい』
「え?」
『だから、……ぃしたみたい』
「え? 聞こえないんだけど」
『恋したみたいなんだってば!』
「えええっ!」
尾田の眼鏡が、ズルリとずれ落ちる。
「ちょっと、あなた。それホントなの?」
コクリと頷く。
「今日、終わったら少し飲むわよ」
私の耳元で、コソッと囁く尾田。
『うん……』
悪いことをして、叱られた子供のような私。
「それじゃあ、午後は気合入れてやるのよ!」
バンと私の背中を叩いて、彼女は売り場に駆けていった。心なしか、ウキウキしているように見える。
なんで……だ?
―――夕方5時。意外な人が訪ねてきた。
「あ、社長。社長にお客様がお見えですよ」
美夕が声を掛けてくれた。
『はい! 少々お待ちください』
私を直に指名とは、どなたかしら。
お店の前にいたのは……女子学生、とその母親と思しき女性。
「あっ!」
女子学生が声を上げる。
「あのっ、先日はありがとうございました!」
ん? 誰だっけ……
あ! 思い出した。電車の中で、痴漢に遭っていた子だ。
『あぁ! あの時の』
「良かった。覚えていて下さってて。内田菜摘です。あの時は本当に怖くって……、助けて下さり助かりました!」
「その節は、娘がお世話になりまして。お礼がしたいと言って聞かないもので、こうして伺わせて頂いた次第です……。こちら皆さんでお召し上がり下さい」
綺麗で品のある母親が、菓子折りを差し出してきた。
『あ~いえいえ、とんでもありません! 私は何も……』
「いえ、娘がどうしてもと……。受け取ってやってください」
『そうですか。それでは、遠慮なく。でも、私がここで働いているとよく分かりましたね』
「えぇ……娘は、すっかり黒木社長のファンでして」
「もう、ママ! それは言わないって約束じゃない!」
菜摘ちゃんが、恥ずかしそうに母親の服の袖を引っ張る。
「中目黒の駅で娘が助けて頂いた際に、こちらのお店の手提げ袋を持っていらっしゃったと聞いて……突然、失礼して申し訳ありません」
なるほど、あの状況でよく見ていたわね。
「ねぇママ、お店の商品見ても良い?」
「ちょっと、あなたにはまだ早いわよ」
『あ、いえ、ティーン向けの商品もございますので、ご覧になって下さい』
「本当ですか!? ありがとうございます」
菜摘ちゃんが嬉しそうに店内を見始めた。あのとき、男に怯えていた女の子とは別人のようだ。
―――この出会いが、後に私の運命を大きく変えることになるなんて、その時は知るよしもなかった。

【今回の主役】
黒木真利子 獅子座31歳 経営者
女性向け下着ブランド『アリアンロッド』の経営者。プライドが高く、自分の力で今の会社を立ち上げ軌道に乗せたことに誇りを持っている。しかし、恋愛はあまり得意でなく、強気な性格ゆえに男性との関わり方について悩んでいる。顧問税理士の茂木篤史は心を許せる存在。

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