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上野で「バベルの塔」にワープ気分#19

  • 2017.5.29
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東京都美術館で開催中の「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展」。ピーテル・ブリューゲル1世の「バベルの塔」を中心に、ヒエロニムス・ボスの絵画など16世紀ネーデルランドの至宝が集まっています。

展示の序盤は、当時の時代背景を伝える16世紀ネーデルランドの彫刻や宗教的な作品から始まります。ありがちな宗教画と思いきや、磔(はりつけ)にされたイエス・キリストが腰に巻いている布の形態が妙にエロかったり、オリンポスの神々が全裸で祝宴を開いていて一瞬ハプニングバーのようだったり、油断できない攻めのセンスの萌芽が……。

そんなネーデルランドで開花した才能が、奇才と呼ばれるヒエロニムス・ボス。敬虔なカトリックで、神の戒めや人間の罪と罰をテーマに、綿密で現実を超越した絵画を描いています。作品数は多くないのですが、そんな中で貴重な、日本初公開の絵画が2点展示。「放浪者(行商人)」は当時として革新的だった、名もなき一般人を描いています。円形の絵なのがまず珍しいですが、鏡を表していて、見た人が自分の姿が写っているように錯覚させる効果があるという説が。それにしては描かれている男性はすすけてうだつの上がらない風体でちょっと感情移入したくないです。後方には荒廃した売春宿が。あえてこういう下流の題材を祭壇画として描くのがスノッブだったのでしょうか。淡い茶色のグラデーションで統一されていて色彩センスがさすがです。もう一点の「聖クリストフォロス」という作品は、巨人が幼きキリストを背負って川を渡っているシーンを描いています。このキリストが、だんだん鉛のように重くなってくるというエピソードがあり、こなきじじいの伝説と共通しているのが不思議です。絵をよく見ると、木の上に洗濯物が干してあったり、熊が吊るされていたり、シュールな世界観が。ちなみにこの「聖クリストフォロス」を見ると、その日は不慮の事故に遭わない、という霊験がささやかれているそうです。交通安全祈願代わりに展示を見にくるのもおすすめです。

ネーデルランドでは「ボス画風」がブームになりますが、彼の死後に生まれたポスト・ボス的作家がピーテル・ブリューゲル1世です。ブリューゲルは今回の展示でメインの「バベルの塔」の作者ですが、それ以前にも圧巻な作品の数々が。人間の欲望について、当時流行していたことわざを絵にしたシリーズがおもしろいです。「お金が争いを生む」という真理を描いた「金銭の戦い」は、貯金箱や宝石箱が戦士となって戦っている作品。「大きな魚は小さな魚を食う」は文字通り、権力者に飲み込まれてしまう様子を魚で表現しています。聖アントニウスの誘惑」は、モンスターたちが聖人の気を引こうとしている図。顔から手が生えていたり、注ぎ口から排泄する瓶の妖怪など、化け物の姿に見入ってしまいます。「七つの大罪」シリーズの「大食」は、人間としての理性を失い、怪物や動物と会食するシーン。こうして見ると、モノクロの版画のタッチが戒め感みなぎっています。そして圧倒的な描写スキルが説得力を持たせています。最後の部屋にはついに「バベルの塔」が展示。東京芸大が特殊な技術で複製した絵画や、拡大したパネルもあって、バベルに囲まれ、いつの間にかバベルの塔にまぎれこんだ気になります。わりと小ぶりの作品なのに約1400人もの人が描き込まれているという、描いた人もすごいですが数えた人もすごい傑作。聖書によると、神の領域まで届くバベルの塔を建てたことで人間は神に天誅(てんちゅう)を下され、世界の言語がバラバラになって通じなくなってしまいます。赤みがかったレンガの色や、暗い色の雲が不穏な雰囲気。天罰フラグが立っています。

言語が通じなくても、ブリューゲルの作品を見れば直感的にメッセージが伝わります。バベルの塔を繰り返し描いたのは、言葉が必要ない画家の強みをアピールするためだったのかもしれません……。
「イマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展
16世紀ネーデルラントの至宝―ボスを超えて―
期間:~2017年7月2日 (日)
時間:9:30〜17:30(※4月29日(土)~6月30日(金) の金曜日は20:00まで開館 ・入館は閉館の30分前まで)
休館:月曜日
場所:東京都美術館 企画展示室
東京都台東区上野公園8-36

※2017年7月18日(火)~ 10月15日(日)大阪会場・国立国際美術館

http://babel2017.jp/

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