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難しすぎるから観たくなる、『ムーンライト』。

  • 2017.4.11

こんにちは、編集KIMです。

米国アカデミー賞作品賞受賞作『ムーンライト』、ご覧になりましたか?
2月末のあの授賞式でのハプニング、そこからの大胆な上映館増大作戦など、話題がいっぱいですから、すでに観に行った方も多いですよね、きっと。

KIMも3月上旬に試写で観ました。率直な感想を言うと、
「とても難しかった」
難しい……とは。KIMが観た一般試写で、ゲストトーカーにブルボンヌさんが登場しました。彼女が言った「行間を読むような映画」というのがその難しさの理由です。登場人物たちの感情の意味などがストレートに描かれるというよりも、イメージのはざまにまぶされるように仕込まれていて、それを読み解くのが難しい。ハートよりも、実はむしろ、脳を使うタイプの映画だなあ、と感じました。

©2016 A24 Distribution, LLC

このメインビジュアルのアートワークにも、「行間」が含まれています。この映画が3部構成であることや、主人公のシャロンの複雑で隠していかねばならない感情などがスタイリッシュに表れています。

ブルボンヌさん。トークショーはやはりLGBTのことになりましたが、ブルボンヌさん分析は鋭く、言葉がとてもおもしろかった。今度フィガロでも何か書いていただいたりコメント取材したいな、と思いました。

フロリダに麻薬の世界に身を置かざるを得ない黒人社会の物語。いま日本に生活している多くの人たちからは、遠い遠い環境です。その実情を理解したり、共感を持ったりすることが、まずとても難しい。でも、バリー・ジェンキンス監督は、悲惨な生活をリアルに見せる手法は取らず、あくまでも美しい映像の中に包み、そして説明しすぎない。この作品が描いている状況は特殊なものなので、もしもきちんとその内実を伝えようとしていたら、リアルに共感できる人以外は、スクリーンで描かれていることから心が離れていってしまうことでしょう。ただ、その奥にある悲惨な現実があってこそ、この作品は成立するので、そのバランスの中で映画を読み解いていくことに、とてもKIMは苦労しました。
主人公のシャロンはゲイという設定ですが、リアルなコトは何も起きません。痩せっぽちの少年は、いじめや拒絶と戦いながら、筋骨隆々にカラダを作ったり、闇の世界の箔を付けて成長していくことで、自分自身の純粋な心を奥深いところにしまいこんでしまう。でも最後の章で、ほろりと人間の脆さのようなものが表出する。ここが、特異な環境で生きる人々の枠を取っ払った、普遍的に共感できるクライマックスなのですが、演出がとても静謐なので、揺さぶられるような感情には持って行かれません。「途中で、何か大事なことを観落としているな、ワタシ」と、焦りました。そうなのです、映像演出のなかに多数の伏線が潜んでいる作品なので、どんなに淡々としていても、メッセージが雄弁。ただし、それを読みとるのにそうとう力が必要な映画なのです、『ムーンライト』は!

©2016 A24 Distribution, LLC

バリー・ジェンキンス監督は、もともと映画評論の仕事をしていました。香港映画のウォン・カーウァイ監督作品の大ファン。YouTubeでは、『ムーンライト』とウォン監督作を比べる編集動画まで登場し、一部のアジア映画ファンの間で話題になっています。

©2016 A24 Distribution, LLC

監督とアカデミー助演女優賞にノミネートされたナオミ・ハリス。

特に、『ブエノスアイレス』へ言及しているということで、「ククルクカパロマ」の楽曲を使い、車が走り抜けるシーンは、まさにそのままでしたね。むせかえるような湿度のある色彩の使い方なども、ウォン・カーウァイを思わせました。

©2016 A24 Distribution, LLC

綴られていく詩的な映像は、確かに『ムーンライト』の魅力のひとつです。黒人の肌に当たる光から生まれる繊細な色彩。1枚の写真としても、ただただ美しいです。

ところで最近、自らの監督作を発表していないウォン・カーウァイですが、4月15日から公開されるニューヨークのメトロポリタン美術館のファッション部門にフォーカスしたドキュメンタリー映画『メットガラ ドレスをまとった美術館』でもその姿が見られます。王家衛にあこがれるクリエイター多し! ですね。

『ムーンライト』
●監督・脚本/バリー・ジェンキンス
●出演/トレヴァンテ・ローズ、アンドレ・ホーランド、ジャネール・モネイ、マハーシャラ・アリ、ナオミ・ハリス
●2016年、アメリカ映画
●111分
●配給/ファントム・フィルム
●全国にて公開中
moonlight-movie.jp

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