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「私も一応、オンナ…」|12星座連載小説#54~射手座6話~

  • 2017.4.10
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「私も一応、オンナ…」|12星座連載小説#54~射手座6話~

12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。
文・脇田尚揮【12星座 女たちの人生】第54話 ~射手座-6~

『まさかホストだったとはね……』
昨日、純からもらったメールを見返していた。あれから何度かやり取りをし、また飲もうという流れになっている。
『まぁ、お酒の飲ませ方といい、盛り上げ方といい“素人”じゃないとは思っていた。あの感じ……やっぱ、そうだったのね』
もちろんクリスにお礼メールもしたけど、何だろう……純の方が気になる。
私ってやっぱ、気が多いのかなぁ……。
帰国して2日間遊び通しだったから、今日は働かなくちゃね。
あれから二度寝をし、もう翌朝9時。二日酔いも消え、仕事もバッチリできるコンディションだ。
『そろそろ起きようかな!っと』
ベッドから勢いよく起き上がり、軽く食事をし、シャワーを浴びる。今日は大事な仕事があるから、少しカタめでいこうかしら。
タイトなパンツスーツに身を包む。
高級品を販売する上で、私自身もそれなりの“高級感”を持っていなければならない。
駆け出しの頃、宝石商の先輩にアドバイスしてもらったっけ。
「二流のジュエラーは宝石を売ろうとするけど、一流のジュエラーは自分を売ろうとするんだよ」って。
―――懐かしい言葉を思い出しながら、キャリーケースを引いて銀座に向かう。

卸先の宝石店「グロリア」は、銀座に店舗を構えてもう数十年が経つらしい。
本来は、私みたいな若手が卸せるような店じゃないんだろうけど……、昨年、名古屋で開かれた展示会で、店長の堺さんが、私の審美眼を買ってくれたのよね。
そこから少しずつコンタクトを取るようになり、今に至る。あれは超ラッキーだったわ。
――百貨店の中に入り、3階奥のフロアへ。
高級そうなお店が並んでるわね……。さすが銀座、格が違うわ。
……でも、私が扱ってる宝石だって負けてない! 堂々といきましょ、堂々と。
『こんにちは~!』
「あらぁ、戸部さん、お待ちしておりましたのよ」
“やり手”なオーラを醸し出す、ふくよかな女性が、高い声でニコニコ駆け寄ってくる。
彼女が店長の堺さん。
普段はすごく穏やかな方なんだけど、宝石を見るときの眼光の鋭さはまるで“鷹”のそれ。
彼女に、良い加減なものは通用しない。
『お世話になっております。今回はイスラエルから買い付けたダイヤモンドがあるんですよ~』
今回は“鉄板”のダイヤがあるからね、安心、安心。
「まぁ! 戸部さんのダイヤモンド! あちら、とても人気ですのよ~。嬉しいわ~」
ゲッツ!(心の中でガッツポーズ!)
「どうぞ、こちらへいらして」
奥の部屋に通される。ここからが勝負よ……!
世界中から集まったバイヤーと競い合い、プライスカードも鑑別書もない中で、自分の眼だけを頼りに宝石の価値を見極めてきた。
……自信はあるわ。
手袋をはめて、すぐにキャリーケースから数点ダイヤを取り出す。
『ほとんどルースですが、原石もいくつか仕入れております』
堺さんの表情が変わり、眼が光る。じっくりと舐め回すようにルーペでチェックが入る。
沈黙の時間だ。
「……相変わらずいい仕事するわね。良いでしょう。こちら、卸して下さいな」
上手くいった。嬉しさのあまり飛び上がりそう。でも、ここは抑えて抑えて……。
『有難うございます! では、こちら数点とこちら数点、それに……』
――交渉は大成功! 想定の1.5倍の値をつけてもらってホクホク!
堺さんにお礼をし、「グロリア」を後にする。

『あ~緊張した~』
交渉ゴトはあまり得意じゃないから、いつもドキドキしちゃう。でも、自分が仕入れた宝石を認めてもらえるのは、本当に嬉しいわ。
マネーもガッポリだしね!
近々、純のホストクラブに遊びに行こうかなぁ。
……と、いかんいかん、今日はもう1件あるんだった。
軽くランチを済ませ、式場「サンクチュアリ」までタクシーで向かう。
あそこの式場はすごく綺麗で素敵なんだけど、高台にあるから交通の便がイマイチなのよね。バスの本数も限られてるし……。
入口につくと、豪華なフロアが迎えてくれる。さすがに大手だけあって、装飾なんかも凝ってるわね。
さてと、もうひと仕事しようかしらね!
受付で用件を告げること数分、丸顔でベビーフェイスの女性が現れた。
『初めまして。ウェディングプランナーの瀬名と申します。本日はご足労頂き有難うございます』
「初めまして! ジュエラーの戸部と申します。どうぞよろしくお願いします」
『あちらでお話しましょうか』
瀬名さんの後をついていく。
ブライダルの仕事……かぁ。私には縁のない仕事だけど、ちょっと興味はあるのよね~。
いずれ私も結婚するのかしらね……いやいやいや、まだ想像できないわ。
クリスは良い人だけど、結婚って感じじゃないし、まだ遊びたい気持ちもあるし……。う~ん、でも……。
不思議だ。結婚式場に来ただけで、こんなにも結婚のことを意識しちゃう。
私も一応、“オンナ”なんだなぁ……。
『ではこちらで少しお待ち下さい』
不思議な感覚のまま、本日2件目の打ち合わせが始まった。
射手座 第2章 終

【今回の主役】
戸部淳子 射手座28歳 ジュエリー卸業
ヨーロッパ圏でのホームステイなど、学生の頃から海外経験が豊富で、英語がそこそこ堪能。国外から宝石を買い付けて、ブティックやウェデイング業界に卸している。若さの割に目利きであると評されるところも。イタリア人の彼氏・クリスがいるが、性に奔放で何かとトラブルが起こりやすい。

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