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うつわディクショナリー#04 余宮さん、うつわに景色を描く

  • 2017.3.29
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うつわの中にさまざまな景色を描きたい

余宮隆さんは「しのぎ(鎬)文」とよばれる縞模様の入ったうつわで知られる陶芸家。多くの人が愛してやまない“余宮さんのしのぎ”。その美しさの秘密は、実のところ形へのこだわりにあるようです。

—余宮隆さんといえばやはり、しのぎ文のうつわです。どのように作るのかちょっとだけ教えてもらえますか?余宮:うつわの形に引いた粘土の側面に輪っか状のヘラをあてて上下させ、土を掻きとっていくんです。そうすることで、縞の境目に山のてっぺんのような稜線ができる。これをしのぎ文といいます。しのぎを入れるか、入れないかで、土の選び方も釉薬の準備の仕方も変わってきます。だから最初のイメージ、とくに形が大事ですね。僕の場合はまず作りたい形を頭に思い描き、それに合わせて土をブレンドしたら、とにかくろくろをひいてみる。実際に手を動かすと、イメージにちょうどあった大きさとか、細かいところの形状が見えてくるんです。ある程度できたら、今度は使い勝手を考える。例えばマグカップだったら、フチを少しだけくびれさせて口当たりを良くしたり、取っ手の根元を厚めにして飲物の熱さが手に伝わりにくいようにしたり。実際に使い、微調整しては、また作る。その繰り返しです。 —東洋的なしのぎ文が、マグカップやポタージュボウルなど西洋のうつわ型に使われているところが余宮さんならではだと思います。余宮:独立する前に、同じようにうつわの側面を削って縞模様を出したものを作っていたら、それを見たフランス人の友人に「こういうのを手でやる人は、ヨーロッパにはいないよ」と言われて。面白いのかもしれないと思ったんです。コーヒーとかポタージュとか献立が先に浮かんで、そのための形が生まれることが多いですね。でも、家ではもっぱら和食。出汁をとって作る料理がほとんどです。家で使っているうつわは、しのぎのないものばかりですよ。 —今回の展示会では、前期は主に新作でしのぎのないもの、後期に定番のしのぎマグやスープカップが並ぶとか。余宮:合計で1800点ほど作りました。新作のしのぎのないものは、主に登窯で焼きました。樫の木の薪をガンガン炊いて、かなり高い温度まで上げたのでテンションも上がりまくりで! 気持ちがのっているときって、やっぱり、いいのができます。うつわは使うものですけど、その中になんらかの景色を描きたいと思っているんです。しのぎの場合は、凹凸があるのでそれだけで光と影といった表情がでる。じゃあ、しのぎのないものはどうするか。シンプルなだけに焼き方に気を遣いました。土のブレンドか? 温度か? どうやって景色を描こうかと悩む。それがまた楽しいんですけどね。かなりいい仕上がりになったと思っています。 —うつわに景色を描くっていいですね。余宮さんには景色のあるうつわの記憶があるんですか?余宮:師匠の中里隆さん(唐津で「隆太窯」という名の工房を持つベテラン陶芸家)の家の食事風景ですね。弟子入りした最初の日に目の当たりにして、心の底からびっくりしました。もちろん、うつわは100パーセント中里隆作。先生の料理の盛り付けを弟子がやるんです。うつわを選ぶところからですね。ちょっと気取って花びらみたいに並べたりすると「お前、西洋人か!」とかって突っ込まれたりして(笑)。お客さんの多い工房だったので、焼き魚やお惣菜など大皿盛りが基本なんですけど、うつわが広く見えて、なおかつその真ん中で料理がパッと引き立っているような、すごく贅沢なうつわの使い方をしていました。あんなふうに伸びやかなうつわが作れたらいいなとおもっています。見込み(うつわの内側)から縁まで、伸びてるなあ〜ってかんじのもの。そして、素直なもの。これからは、シンプルなところがいいねというものも作っていきたいと思っています。 

 今日のうつわ用語【鎬文・しのぎもん】うつわの形にひいた粘土の側面などをヘラで掻き取ることで稜線のような縞模様を施し文様としたもの。由来は日本刀から。日本刀の刃と背の部分の間で稜線を高くしたところをしのぎというそう。 

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