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子育てをするとクイズに正解できる【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第18話】

  • 2017.3.28
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普通クイズというと、子どもの遊びみたいな呑気なものをイメージするけれど、例えばテレビ番組「アタック25」に出てくる人たちのように、「何でそんなこと知ってるの!?」とぎょっとするレベルの知識を競い合う「競技クイズ」なる世界があるらしい。先日ひょんなことから、そんな競技クイズを体験できるイベントに誘ってもらい、行ってきた。

会場には、テレビでよく見る早押しボタンや、正解の音、不正解の音などさまざまな効果音が出せる専用マシンまで用意されていて、かなり本格的。そんな中、いざ回答者席に座ってみると、あたかもテレビの中に入った気分で俄然テンションが上がる。「よーし、バンバン答えてやるぞー!」と意気込んでみるものの、いざ問題が読まれ始めると、当然ながらこれがなかなかに難しい。

早押しクイズなので、問題の読み上げが最後まで終わらないうちに、誰よりも早くボタンを押し、正解を答えなくてはいけないが、まずその答えがわからない。EXILEのメンバーの名前、去年ノーベル賞をとった人の名前、全然分からない。そして答えが分かったとしても、(本当に合ってるかな……)と一瞬のためらいが、ボタンを押すまでの間にタイムラグを生じさせ、そうこうしている間に他の人が答えてしまうのだ。

せっかく来たのだからなんとか一問くらいは答えたい。このまま見せ場なく終わるのは悔しい……! じわじわと焦り始めた矢先、私にもようやく念願のチャンスタイムが到来した。

「正式名、流行性耳下腺炎と呼ばれる……」
ピンポーンッ!!!!!!
満を持して私の早押しボタンが火を吹いた。手元のランプが赤々と点滅するのを確認し、自信満々に回答。
「おたふく風邪!」
「……正解っ」

よかった、お飾りじゃなかった、私の早押しボタン。ほっと胸をなでおろすと、正解者の証、うまい棒コーンポタージュ味が私のもとに届けられた(その日はそういうルールだったのだ)。

ここから、急に楽しくなってきた。一度火を噴いたマグナムの勢いは止まらない……というわけにはいかなくても、その後も何度か正解を繰り出した。

「パッケージから切り取ってポイントを集めると……」
「ベルマーク!」
「……正解!」

「不活性と活性の二種類があり……」
「ワクチン!」
「……正解!」

競技クイズ、なかなかダイレクトに自尊心を満たしてくれる。私も結構いけるな、と悦に浸りながら、ふとあることに気がついた。

流行性耳下腺炎がおたふく風邪であることは母子手帳や予防接種の問診票に書いてあるのを見て知った。ベルマークの存在は多くの人が知っているだろうが、私は数年前にPTAのベルマーク委員(児童の集めたベルマークの点数を地道に集計する係り)をやったので特に記憶が鮮明だったのだろう。ワクチンについては、毎年子どもたちと打つインフルエンザの予防接種で、活性と不活性があることを知るに至る。……つまり、私の正解は全部、子育てで身につけた知識によるものだったのだ。

一見何ということもないこの発見に「そうか、そうだったのか……!」と、私は密かに一人、感慨に打ち震えた。

というのも、私は今でこそ仕事をしているものの、つい5年ほど前までは専業主婦だった。それも、一度も就職経験のないまま家庭に入った専業主婦で、当時はそのことをかなり負い目に感じていた。

けれども今回のような場で、あらゆるジャンルの知識を雑学としてフラットに並べられると、私が子育てを通じて知ったことだって、当然ながらその経験のない誰かにとっては未知なことだったり、またもし知っていたとしても、記憶の彼方に押し込まれている、色褪せた話題だったりするわけで、つまりこれって、十分に立派な専門知識じゃないか、と思ったのだ。

もちろん、仕事を始めてから得た知識だってたくさんある。ビジネスメールの書き方、請求書の作り方、打ち合わせの作法。ついでに、エッセイを書いてお金をもらい、曲りなりにも文筆の専門家になったりもした。

けれど、じゃあ家庭の中で、子育てだけをやっていたときの私は何者でもなかったのか、何を学ぶこともなく、成長することもなかったのかといえば、そんなことはなかった。あの当時の私だって、大切な家族の暮らしのために役立つさまざまな知識や知恵を、毎日、少しずつ身につけていたはずなのだ。曲りなりにも、家族の、子育ての専門家として。

先日、ある仕事で取材させていただいた児童精神科医の先生が、こんなことを仰っていた。

「私は確かに心の専門家ですが、その子のことをよく知っているという意味では、親御さんがお子さんの専門家なんですよ」

主婦業だって、親業だって、毎日向き合っていれば、それぞれ立派な専門家。だから私たちは、自信を持っていいのだ。……何に役立つことがないような気がしたって、少なくとも初心者の集まるクイズ大会では、2、3問正解が出せる。

イラスト:片岡泉
(紫原明子)

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