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ストライカー 【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第3話】

  • 2014.12.9
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鮎子とは就職してから1年の付き合いになるが、気がとっても合う。

プライベートでスパに行ったり女子会で遊んだり、自分が作った歌を一番先に披露するのも鮎子だ。恋の話では多いに盛り上がるいわゆる女子友。

鮎子には事故で左足が不自由になった弟、慎吾がいた。2歳年下だ。サッカー選手に憧れてサッカー三昧の日々だった。サッカーがうまく、かっこいいということで慎吾ファンクラブができたほどだ。グランドを走り回る慎吾はりりしく、女の子達の視線の到着点には常に慎吾がいた。

しかしある日、神様が何を思ったか慎吾を突き放した。慎吾はバイクの接触事故に巻き込まれて左膝を痛め、サッカーができなくなってしまった。3年前のことだった。事故の後から慎吾は人とあまり話さなくなった。リハビリをしたが元のように歩けない。左足を引きずってしまう。膝が思うように上がらない。

もちろんサッカーも辞めてしまった。笑顔すら消えた。サッカー仲間とも交流を絶って、一緒に遊びに出かける友達がいなくなった。大学は中退して今は自由が丘のコミックカフェでバイトをしている。「大学まで辞めなくても」と親にいさめられたが、サッカー部の連中と会いたくないという理由で貫きとおした。

脚を引きずりながら歩くのを見られたくないのか、バイト先と自宅の往復以外は出かけない。人が変わったようにおとなしくなった。人付き合いをしなくなり暗い性格になった慎吾に家族は気をつかい続けていた。そんなふうにひっそり暮らしていた慎吾が桃香にだけは心を開いた。

鮎子の家に遊びに行った時のことだ。家族で一緒にケーキを食べた。桃香が自由が丘のスイーツフォレストで買ってきたかわいらしいフルーツケーキ。洋梨と杏のコンポがジュレに包まれてのっかているおいしそうなケーキだった。ケーキを口に運びながら桃香は無口な慎吾にいろいろ話しかけてみた。

サッカーはいつ初めたのかとか、もうしないのかと、家族の間ではタブーな話題から切り出した。下を向いてむっつりしていた慎吾に畳み掛けるように話し続けた。鮎子も母親もハラハラしながら慎吾を見ていた。

桃香は気にもしないというように、バイト先が自由が丘なんて最高だとうらやましがり、コミックは何冊くらいあるのか、自分は恋愛コミックしか読んだことがないとか、歌手になる夢を持ってるとか一方的に話しまくった。すると、ケーキを食べ終えた慎吾が少しだけ笑顔を浮かべて意外な言葉を口にした。

「桃香さんが好きそうな恋愛コミックあるから、一度お店に来てください。自由が丘が好きなんでしょ。ありがと、このケーキすごく旨い。」

(続く)

(二松まゆみ)

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