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発達障害の子育てを「辛い、苦しい」と感じたら【大変だけど、不幸じゃない。発達障害の豊かな世界 第3回】

  • 2017.2.15
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・【第1回】発達障害の子育てに「療育」よりも大切なこと
・【第2回】発達障害の子どもが、充実した人生を送るために必要なこと
のつづきです。

© takke_mei - Fotolia.com

「発達障害」をもっと理解するために必要なことを、『療育なんかいらない!』の著者であり、独自の理論で放課後デイサービスを展開する「アイム」の佐藤典雅さんにインタビュー。

今回は、発達障害の子育てをする親の「心の持ち方」についてお話を伺った。

佐藤典雅(さとう・のりまさ)さん
川崎市で発達障害の子どもをサポートする放課後デイサービス「アインシュタイン放課後」「エジソン放課後」を運営している、(株)アイムの代表。自身の自閉症の息子さんの療育のために、息子さんが4歳の時に渡米して、ロサンゼルスで9年間過ごす。前職は、ヤフー・ジャパンのマーケティング、東京ガールズコレクションとキットソンのプロデューサーという異色の経歴の持ち主。福祉という範囲を超えた目線で、自身の息子さんの成長を見守りながら、発達障害児が社会で幸せに生きるための道を広げる挑戦をしている。著書:『療育なんかいらない!』(佐藤典雅・著/小学館 ¥1,296 (税込)

※放課後デイサービス(= 放課後デイ):6~18歳までの障害のある子どもが放課後や学校休業日に利用できる、就学時向けの福祉サービスのこと。

■「大変」と「不幸」はイコールではない

―― 芸能人の告白やメディアの影響などで、発達障害はだいぶ世間に認知されてきました。でも、まだまだ発達障害への社会の受け皿や理解は少ないと感じています。また、子どもに手がかかる分、親が心のゆとりを失ってしまったり、子育てにおける精神的な負担も多いように思います。日々多くの発達障害児を持つ親御さんと接している佐藤さんは、どのように感じていますか?

佐藤典雅さん(以下、佐藤さん):まず、初めに言っておきたいことがあります。「子育ての本質とは、子どもに障害があってもなくても変わらない」というのが、僕の結論です。

放課後デイの仕事をはじめてから、発達障害児を持つたくさんの親子を面談しましたが、面談中、「子育てが辛い、苦しい」と言って泣き崩れるお母さんも珍しくありませんでしたよ。

―― やはりお母さんの負担は大きいと?

佐藤さん: でも、僕は、苦しいか苦しくないかというのは、その人の受け止め方の問題だと思っている。親が「発達障害の子育ては辛い、苦しい」と思った瞬間、それは本当に辛いことになってしまうんです。

もちろん、事実として、発達障害の子育てで大変なことはあります。ただ、それを不幸だと捉えるかどうかは、親の受け止め方次第だと思うのです。

―― 確かに、同じ障害を持つお母さんでも、軽く受け流せる人と重く受け止める人がいますものね。

佐藤さん: 大変と不幸は、決してイコールではない。だって、オリンピックの選手だって、自分の練習が大変だからって自分が不幸だとは思わないでしょう?

あと、これは、僕がいつも言っていることなんだけど、不幸な子どもなんていないんですよ。でも、周りがいつも「この子は不幸だ」って言い続けたら、子どもも親も本当に不幸になってしまう。だって、もし、あなたが自分の親から「あなたはかわいそうな子だ、不幸な子だ」って言われ続けたら、「ちょっといい加減にしてよ!」と怒りたくなるでしょう(笑)?

取材中、眠い子は寝ていたし、ボール遊びをしたい子は廊下スペースを使ってボール遊びをしていたし、カラオケをしたい子は思いっきり大声で歌っていた。

―― 確かに(笑)。それに、自分のせいで親が悲しむなんて、そんなの辛すぎますよね……。

佐藤さん: 僕は「不幸だ、辛い」と言っている親ほど、発達障害に対する差別や偏見があると思っている。だって、親に発達障害に対する偏見がなかったら、「あ~、そうなんだ」で終わる話でしょう?

でも、「発達障害は不幸だ、かわいそうだ」と悲観して泣き暮らすってことは、それだけ発達障害であることが悲しいと思っているということ。実は、親自身が発達障害を差別している可能性が高いんですよ。

―― これはずいぶん痛いところをつかれました(苦笑)。というのも、以前、私は周囲に対して「子どもの障害に偏見を持ってほしくない」と強く思っていた時期がありました。でも、そこにこだわっている自分こそが、何より、わが子のことを受け入れていなかった、ということだったのでしょうね……。

佐藤さん: 親が社会的通念や常識で、「受験勉強をして、いい学校に入って、いい企業に入る」という、こうあるべきだという考えに縛られてしまっていると、そのルートから外れた瞬間に、子どもにも親にも、双方にストレスがかかってしまんです。

でも、本来は、これが苦手でもあれは得意、というのがあればいいはず。例えば、うちの顧問で新田明臣さんというキックボクシングの元世界チャンピオンがいるんだけど、彼はいまだに割り算ができません。でも、キックボクシングのチャンピオンになれたら、割り算なんてどうでもいいじゃないですか?

―― おっしゃる通り。でも、なかなか佐藤さんのように強くはなれません(泣)

佐藤さん: もちろん、落ち込んで泣いて過ごす時期があってもいい。落ち込むのは自然な現象ですし、物事を消化するためには必要な過程です。でも、「1年以内に終わらせよう!」とか、短期間に蹴りをつけることが大事。思いっきり泣いた後に、「とりあえずわかりました。では、次はどうしたらよいだろうか?」って、しっかり取り組めばいいんです。

■笑い飛ばすって、すごく重要

―― ところで、著書の中では、がっちゃん(息子さんの名前)のエピソードをユーモアたっぷりに描いていましたね。

佐藤さん: 僕は、笑い飛ばせるということが、すごく重要だと思っているんです。うちの子だってすごく大変だけど、もう全部お笑いネタにしちゃってる(笑)。

例えば、ロサンゼルスで過ごしていた7歳の頃なんか、がっちゃんが部屋の真ん中でウンチすることにハマった時期もあって(笑)。最近だって、こっそりビニール袋にウンチして勝手にどっかに捨ててくるワザを覚えちゃったり。だから、僕はどこかに捨てられたわが子のウンチを探しにいかなくちゃならないわけ(笑)。すっごく大変ですよ!

―― 著書では漫画でとても面白く描いていましたよね(笑)。でも、これと同じことが起こったら、ものすごく深刻に受け止めちゃう親だって多いと思うのです。でも、佐藤さんは「それって、おもしろくない?」と笑い飛ばしている。まさに先ほどのお話の、「親の受け止め次第で全然違ってくる」ということなんですね。

佐藤さん: うちにはたくさんの親が面談にくるんだけど、だいたいみんな「学校でこんなことがあって……」と泣きながら話すの。だから、僕はそこで「はい! ストップ!」と大声で声をかけます(笑)。

そして、「お母さん、それって本当に悩むべきことでしたっけ?」と言うと、だいたい「え?」とビックリして止まるんですよ。たとえ笑いにできなくても、意識して悩みにストップをかけることはできるんじゃないかな?

■問題をごちゃ混ぜにしない。目の前にある課題を客観的に適正評価しよう

―― でも、泣いてしまうお母さんの気持ち、よくわかります。私もいまだに、わが子が突飛な行動をすると、周囲の目が気になってしまうことがあります。

佐藤さん: でも、それって「周りに迷惑をかけているかもしれない」「周りに申し訳ない」と、お母さんが過剰に周囲に遠慮してしまっているだけなんじゃないかな? もし、実際に面と向って子どものことで悪口言ってくるような人がいたら、そんな人権に侵害してくるような低レベルな奴は放っておけばいいんですよ!

―― お母さんはもっと堂々とするべきだ、と?

佐藤さん: うちに通っているお母さんには、「わが子のためには親として死ぬ覚悟がある」と豪語する人も多いのですが、そのわりには、隣のお母さんの顔色を気にして謝ったり、学校の先生の顔色を見て傷ついたりしている。それって、どんだけの覚悟なの? 本当に覚悟があるなら、たとえ世間になんと言われようと、「うちの子はこうだ!」って通す強さを持たないと!

―― 周囲や世間はともかく、身内の理解はどうでしょう? よく「旦那が理解してくれない」なんて声も聞きますが?

佐藤さん: これは、子どもの問題ではなく夫婦の問題。障害児の子育ては、健常児の子育てより、より夫婦で一緒に取り組まなければならない問題が起きやすいので、どんな家庭でも起こりうるトラブルが早く顕在化しやすいという面があります。

今までは「この人、なんとなく窮屈だな」って思うくらいで、スルーしていたかもしれない。でも、子どもの障害によって夫婦で向き合うべきことが増えて、問題が浮かびあがってしまったわけ。新しく問題が増えたわけではなく、もともとあった夫婦問題が表面化しただけのことです。

―― そうすると「子どもの問題どうするの?」という話ではなく、「夫婦関係どうするの?」という話になってきますね。

佐藤さん: 事実として、発達障害の子育てで大変なことはあります。ただ、それを取り巻く環境、例えば、自分とどう向き合うかとか、旦那とどう向き合うかとか、義理両親とどう向き合うかとか、学校の先生とどう向き合うかとか、問題にしなくてもいいことも問題にしてしまっている方が多いと思う。

表面に出てくる問題と問題の原因をごちゃ混ぜにしてはいけない。だから、僕はいつも、うちに通っている親には言っています。「今、目の前にある課題を客観的に適正評価しましょう」と。

今回、佐藤さんのお話を通して、改めて「笑い飛ばすことの強さ」に気づかされた。「笑いにするなんて不謹慎だ」と感じられる方もいるかもしれない。

でも、そうできるのは、何より、佐藤さんご自身が息子さんと放課後デイに通う子どもたちの障害をまるごと受け止めて、受容しているからこそ。笑い飛ばせる強さや、たとえ誰に何と言われようとも負けない強さを、佐藤さんのお話を通して、ほんの少しだけもらえた気がした。

次回、最終回は「発達障害の子育てを楽しくするコツ」について伺います。

取材・文・撮影/まちとこ出版社


(まちとこ出版社)

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