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うつわディクショナリー#01田坂香代子さんの春色

  • 2017.1.30
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春を告げるパステルカラーの磁器

寒さ深まる毎日の中でほっと心和むお茶の時間を、春を待ちわびるようなやさしいパステルカラーで包んでくれるポットやカップ。作るのは、愛媛県で作陶する田坂香代子さんだ。

子どもの頃、夢中で集めたガラス細工が原点。
漆や陶器、磁器、ガラスなど、何かとうつわのことが気にかかってしまう子どもだったという田坂香代子さん。いま思うと、それぞれの素材感、手のひらに包んだ時の触り心地に強くひかれていたのではないかと振り返る。とりわけ好きだったのはガラスで、吹きガラスの職人が熱々のガラス玉に息を吹き込む“瞬間”に憧れた。ガラスのかたまりが、一瞬でふんわりとしたフォルムに変わる。「とろりとしてやわらかそう」。手のひらに包んだ時の感触を想像するのが楽しかった。その頃から小さなガラス細工をコツコツ集めてきたけれど、田坂さんがそこに見ていたのは、ガラス特有の冷たさではなく色や形が生み出すあたたかさだ。

 会社員を経て、陶芸家へ。
その後も、手触りのあるものへの興味は尽きず陶芸教室に通ったこともある。大学卒業後は、広告の制作会社に就職したが、チームで仕事をしていく中で、手でものを作り、一から十まで最後まで自分で責任をもってできる仕事をしてみたいと考えるように。「もう1回、陶芸したいな」。5年後、田坂さんは、岐阜県多治見市にある陶芸の学校、陶磁器意匠研究所にいた。仕事を辞め、陶芸家になる決心をしたのだ。遅めの方向転換だったけれど、だからこそ、作りたいものは分かっていたという。「陶芸は、硬くて冷たいものだけれど、見ているだけでやわらかさを感じ思わず触れたくなるようなものを作りたい」。選んだのは、磁器だった。「磁器の土って、陶器の土よりも触り心地がやさしいんです。ろくろを回していても、手にとろりと絡まって本当に気持ちがいいんですよ」と話しながらその手触りを思い出して、思わず笑顔になる田坂さん。土のやさしさを作品に表現したいと考えているのがよくわかる。 地元、愛媛県で磁器をつくる。
「小さい頃から食卓には必ず、砥部焼が二つ、三つ並んでいました。磁器の産地である地元に戻って、うつわ作りができているのは嬉しいですね」。砥部の磁器土を使いつつ、砥部焼とは異なるアプローチで生まれるポットやカップ、お皿や花器には、パステルカラーの美しいグラデーション。野に咲く花の可憐なピンクやさまざまな色が入り混じる夕空など、自然の中で心動かされる瞬間をうつわに写しとりたいと、釉薬の研究をいくつも重ねている。種類の異なる釉薬を掛け分けることで、とろりとした景色が生まれたり、淡く静かな色の濃淡が描けることも。作品ができあがった時に感じる「綺麗な色が出てよかった」という喜び。田坂さんは、その“瞬間”の感動をうつわに込めて、私たちの手に届けてくれる。 

 うつわディクショナリーのうつわ用語【磁器】磁器は、主な原料に陶石を粉砕した石粉を使い1300度程度の高温で焼いた焼物。粘土を用いた陶器とは異なり、焼き締まってガラス化しているため吸水性はほとんどないので料理によるシミがついたりすることもなく、陶器より取り扱いが簡単といわれる。

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