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ああ、やっぱり好きになってしまった:よろず女子百景(10)

  • 2017.1.18

恋の直感はいつだって正しい。どんなに避けても恋におちるのは時間の問題なのだ。

■ああ、やっぱり好きになってしまった

彼はいつからそこにいたのだろう?
任されたコンサートイベントの当日準備中。音響機材の問題が見つかって「どうしよう?」と行き詰まっていたら、すっと解決してくれる男性が現れた。それが彼だった。
「こうしたらどうですかね?」おだやかなその声に振り向いて彼を見た瞬間、思い切りパッと目をそらしてしまった。もうわかったのだ、それだけで。”この感じ”はヤバい! と。そしてその直感は間違っていなかった。
会場側のスタッフらしいその彼は、その後もあれこれ対応してくれたのだけれど、何かにつけて“適度”だった。適度に力が抜けていて、適度におだやかな物腰。適度な体格で顔立ちも適度にイイ感じで・・・・・・
んぁあ!!! そう! この”適度”がヤバいのだ。絶対に好きになっちゃうんだよ、女子はこの”適度”感!!!
彼をひと目見た瞬間に感じた直感はコレだった。
クールでも熱苦しくもなく、あくまでも人肌程度なぬくもりの男性の、なんと心地良いことか。そのくせこちらがすっかりのぼせ上がった頃にはその好意も適度にかわすに違いないのだ・・・・・・ズルい!
だからもはやそれ以上、彼をまともに見ることができなかった。だって今は仕事中。「恋に落ちている場合じゃあ、ない!」のだった。
そう気を引き締め直して、それ以降、視界にすら彼を入れないようにして、仕事モードON、恋愛メーターOFF。
したハズが・・・・・・。
なんとか無事にコンサートがスタートして、客席の後ろから場内を見渡すと、彼が目に入った。ステージの脇でひっそりと演奏を見つめている彼の姿が。
嬉しそうに、楽しそうに、控えめに彼はリズムに乗って、適度に手拍子を打ち、演奏が終わるたび目立たぬ程度に惜しみない拍手を送って、微笑んでいた。
「音楽が好きなんだなぁ、この人はとっても」そう思った瞬間、OFFにしていたはずの恋のメーターが一気に振り切れた。
なんでも”適度”な人の、適度じゃない思いっきり愛しているものがわかって、私の彼への気持ちも適度ではいられなくなってしまった。
せっかく用心していたのに。まぁ、こうなることは最初からわかっていたのだけれど。(大島智衣/脚本家、エッセイ・コラムニスト)
(ハウコレ編集部)

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