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准教授の正体は王太子だった? 入手困難となっていた90年代の傑作が待望の復刊! 高野史緒『架空の王国 完全版』【書評】

  • 2026.11.7
架空の王国 完全版(中公文庫) 高野史緒 / 中央公論新社
架空の王国 完全版(中公文庫) 高野史緒 / 中央公論新社

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多感な思春期に出会った小説は、特別な輝きを帯びる。90年代に青春を過ごした私にとって、高校生のときに読んだ高野史緒氏の『架空の王国』は、西洋史や歴史小説への扉を開いてくれた、忘れられない一冊だ。1997年の刊行、2006年の復刊を経て近年は入手困難となっていた名作が、このたび『架空の王国 完全版(中公文庫)』(中央公論新社)として満を持して蘇る。

ヨーロッパの小国で大学教授の不審死に遭遇、さらには王位継承問題にも巻き込まれ…

フランス東部に位置し、スイスとドイツに隣接するヨーロッパの小国・ボーヴァル王国。西洋史を学ぶ19歳の瑠花は、首都にある王立サンルイ大学のトゥーリエ教授に師事するため、ボーヴァルに一人で渡った。しかし念願の対面当日、教授は大学図書館の聖母像の前で、謎の言葉を残して不審な死を遂げた。呆然とする瑠花を、さらなる衝撃が襲う。教授の共同研究者である准教授フランソワ・ルメイエールが、実は王太子だったことを知るのであった。

指導教員の不審死をきっかけに、瑠花は思いがけないかたちでボーヴァルの王位継承問題に巻き込まれていく。中世から現在まで王政が続くボーヴァルでは、16世紀に発見された「フィリップ・オーギュストの特許状」によって、女子や傍系の相続が認められていた。王家の血筋ではないルメイエールが王太子に選ばれたのも、この特許状が存在するからなのである。やがて瑠花は、トゥーリエ教授が入試問題に忍ばせるかたちで、特許状に関する最重要史料である古文書「ゼッカーソン文書二十八番」を自分に託していたことに気づく。誰が敵で誰が味方かもわからない中、瑠花は教授が遺した言葉の真意と、託された古文書の謎を追い始めるのだが……。

骨太な歴史要素が波瀾万丈のエンターテインメントに昇華。古文書をめぐる謎解きがドラマチックに展開

史実をもとに、いかに作者独自の要素を織り込むか——それこそが歴史小説の醍醐味と言えるだろう。歴史ミステリーの名作と名高い『架空の王国』では、西洋史に造詣の深い高野氏による、緻密かつ壮大な物語世界が展開する。ボーヴァル王国や古文書をめぐるリアリティにあふれる描写は本作の何よりの魅力で、近世から現代に至るヨーロッパの歴史と、その時代を生きた人々の姿が鮮やかに浮かび上がる。

とりわけ素晴らしいのが、虚実の絶妙なバランスだ。フランスの歴史学の一派であるアナール派の知見を取り入れつつ、独自のキャラクターや史料を登場させることで、古文書をめぐる謎解きやボーヴァル王国が抱える秘密がドラマチックに展開する。一見難しく思える歴史的要素も、瑠花やトゥーリエといった魅力的な登場人物を通して語られることで、楽しく読み進めることができるだろう。

作中には英国貴族やスパイも登場し、王位継承をめぐる陰謀や華やかなラブロマンスが繰り広げられる。骨太な歴史要素を波瀾万丈のエンターテインメントへと昇華させる手腕が見事で、ドラマチックな物語は改稿を経てさらに輝きを増した。最初の1ページを開くと、古書の匂いが立ち込める書庫の風景が鮮やかに立ち上がる。知への憧れや世界への好奇心を呼び覚ましてくれるこの物語が、時を超えて再び読者のもとへ届くことを心から祝福したい。

文=嵯峨景子

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