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常に自分をアップデートしながら歩んできた20年間。新井洋行さんの制作モチベーションはどこから。 【夢眠ねむの絵本作家に会いたい!・11】

  • 2026.11.4
常に自分をアップデートしながら歩んできた20年間。新井洋行さんの制作モチベーションはどこから。 【夢眠ねむの絵本作家に会いたい!・11】の画像1

SNSで傷ついてしまったら

夢眠ねむ(以下夢眠) 本誌のインタビューでは『かいじゅうたちは こうやってピンチをのりきった』『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』のお話をうかがいましたが、この中に出てくる怪獣たちのキャラクターデザイン、すごく大変な量ですよね。

新井洋行(以下新井) ああ、ありがとうございます。でも僕、元々セガで働いていた頃はキャラデザインをしていたので、お得意ではあるんですけど。

夢眠 それでも、いろんな気持ちのひとつひとつを怪獣の形にするって、すごいことだと思います。

新井 そのシリーズ第3弾が、今夏に発売になった『かいじゅうスプルはこうやってげんきをとりもどした』で、SNSで感じる落ち込みや、劣等感に関するお話です。みんなが自分の絵をほめてくれていたのに、SNSが流行って、飽きられちゃったスプルくん。SNSに初めて触れた子どもが、自尊心や自己肯定感を失ってしまい、そこから立ち直っていくにはどうするか、っていう。

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(左から)『かいじゅうたちは こうやってピンチをのりきった』、『かいじゅうポポリは こうやって いかりをのりきった』、『かいじゅうスプルはこうやってげんきをとりもどした』
新井洋行/作 パイ インターナショナル 各1760円

夢眠 私たちの時代は世間の評価や他者との比較って、あったと言っても「○○さんちの息子はすごい」ぐらいだったじゃないですか。でもSNSが普通に日常にある今だと、見る人の規模が何万人もだったりする。

新井 いや、もうね。デザイナーとか絵描きの立場からすると、ピクシブやインスタとかで世界中のうまい人たちの絵を見せられた上で、自分の絵を発表しようと思うかどうか。

夢眠 「誰かの絵柄に似てるんじゃないか?」とかの心配も、余計にありますもんね。

新井 うん。絵が描けて、まわりから「うまいじゃん」みたいに言われる中でも、「自分ってなんだろう?」とか「大事なことってなんだろう?」って改めて考えてみる。そんなことを描いてみました。

今の若者の姿を描きたい

夢眠 子どもが落ち込んでいると、親から何を言っても響かないときって、あるじゃないですか。それをちゃんと自分自身で問えるというのが、いいですよね。本って、自問自答に近いから。

新井 確かにそうですね。登場するキャラクターに感情移入して考えること、ありますよね。「人とくらべて自分は……」って、難しい問題で。「そんな比較なんて、しなくていいよ」って言ったとしても、それじゃ成長にならないし。最終的には、「なりたい自分の理想像」っていうのを掲げて、そこに向かっていくことに集中すればいいと思うんですけど。でもどうしてもね。今の自分とほかの人と、くらべちゃいますよね。

夢眠 そうですよねえ。結構こういう、本当の教科書みたいな本、必要だと思います。

新井 人生の教科書、みたいな。

夢眠 そう。子どもたちにはやっぱり、健やかであってほしいと思いますよね。新井さんのお子さんは、もう大きくなられて?

新井 うちは22歳と20歳の姉妹です。

夢眠 めっちゃスーパー大きかった(笑)。

新井 子育ても大分ね、記憶の彼方になっていて。記憶をたどりながら絵本を作ってるんですけど。

夢眠 娘さんたちを育てる中で伝えていたこととかも、絵本には入ってるんですか。

新井 そうね、自分が伝えたっていうよりも、娘や娘の友だちともよく遊ぶので、その世代の子たちが今抱えている問題、生きづらかったり困っていたり、みんなに見える傾向とか。あとここ数年、美大でも教えているんですが、その子たちから感じる印象というか。今の若い子たちがこういうことで困っているとか、こういうことが楽しいとか、そういうのを絵本に描いていきたいんですよね。「美大生なのに、なんでこんなに自分を表現するのが苦手なんだろう?」とか。

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自分で戦う楽しさを覚えてほしい

夢眠 私も一瞬だけ、美大で教えてたときがあるんですが、「みんな、なんか謙虚じゃない?」って思いました。「俺が一番TUEEE(つえええ)」みたいな人が美大に来るかと思ったら。

新井 僕が美大生のときは、まだ昭和の匂いが残ってて、「俺が俺が」って目立とうとする人たちもいて。劣等感を抱えつつも、沸々としている人もいたんですけど。今の子って、みんなそこそこできるのに、「見られるのは嫌」「表現するのが嫌だ」とか。

夢眠 「え、美大に何しに来たの?」と思いますよね。

新井 本当に。「覚悟決めなよ」って思うんですけど。しかもみんな、そこそこ能力あって。やっぱりSNSでうまい作品を見過ぎて、「自分なんて」とか、「どうせ自分よりうまい人は、いっぱいいるから……」みたいな感じになってるのかな。自分を信じて、自分で戦う楽しさを覚えない限りは、前に進めないですよね。

夢眠 「じゃあ別に、絵なんか描かなくていいじゃん」って思うけど、本人たちは描きたいんですもんね。

新井 そう。描くのはいいけど、「どうしたいか」ですよね。

夢眠 そうそう、「どうしたいか」が見えないんですよね。私も自分が美大に入学したときに、「人を幸せにしたい!」みたいな気持ちだったけど、ほかの人たちは「webデザイナーとかになれたら、いいかなあ」って感じで。ガーンって(笑)。なんか自分がすごい寒い存在に感じて、悲しかった。あんまり熱い人っていないんだ、と思って。

新井 うん。「なに熱くなってんの?」って感じですよね。

夢眠 そうそうそう。「”東京”って感じ」って思いました(笑)。でもそんな中でもね、自分の「かっこいい」を追求してくれる子が生まれてくれたらいいんですけど。うちらの時代と今の子たちでは、ちょっと悩みの種類が違うのかな。

夢はインディーズのアーティスト

夢眠 新井さんは今年で絵本作家生活20周年で、これまでの著作はおそらく250冊を超えているとうかがって、驚いたんですが。さらに絵本制作以外の時間も、美大で教えていたり、絵本作家仲間で定期的にフットサルもされていますよね。それ以外は? アトリエにスケボーがありますが、スケボーもされている?

新井 スケボーは最近はやってないんですけど、僕、去年からソフビを作ってて。完成までに1、2年かかるので、最近はそこにすごい時間を使ってます。工場さんとのやりとりとか、あとイベントで手売りしたりとか。

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インディーズのアーティストっていうことをやりたくて。50歳を超えたぐらいから「人生のやり残し、取りこぼしをなくしていきたい」っていう思いがあって。その最後のピースがソフビとか、アートみたいなことだったりするんですね。それと合わせて、SNSの発信も頑張ってみたりとか。
絵本作家をずっとやっていて、実はちょっとマンネリ化もしていたんですけど、ソフビやインディーズアートとかをやってみると、「あ、やっぱり自分は絵本づくりが一番好きだ」って、そこを再確認できたのもよかったというか。
僕は元々大学でも、プロダクトデザイン専攻で。だから本も「自分の表現として作る」というよりは、人によっては違和感がある表現かもしれないけど、プロダクトデザインに近いんです。
特に絵本って普通の本と違って、親子で体験するものだと思っているから、プロダクト感が強いというか。子どもたちには、大人のような「本」っていう概念もないから、言ってみれば紙の束じゃないですか、絵が描いてある。
だからあんまり世界観とか作家性とかこだわらずに、「新しい絵本を生み出す」っていうスタンスで、いろんなものを作っていきたいなって思ってるんですよね。

夢眠 伝えたいことに一番効果的なアプローチをしている、って感じですよね。

新井 うん、そうだと思います。1冊1冊ね。

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夢眠ねむ
ゆめみねむ/2019年、下北沢に予約制の書店「夢眠書店」をオープン。U-NEXT kids「ねむるま えほん」の企画監修・選書を担当。著書に『本の本』(新潮社)『夢眠書店の絵本棚』(ソウ・スウィート・パブリッシング)など。一児の母。

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新井洋行さん
あらいひろゆき/1974年東京都生まれ。2007年に絵本作家デビュー、今年20周年を迎えた。東京造形大学非常勤教員。白泉社からの絵本に『えさがしりとり』(中垣ゆたかとの共著)、『おばけダンス』(おむすびひろば/文)など。2人の娘の父。

X:@araihiroyuki
Instagram:@hiroyukiarai

撮影/山田薫 ヘアメイク/光野ひとみ 編集協力/原陽子

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