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【連載】柴内晶子の「記憶の色」|祖父と父からの伝授のバターごはん

  • 2026.11.2

 

LOUNGE |【連載】柴内晶子の「記憶の色」

まだ伴侶動物という考え方が日本で一般的に使われるようになる以前より、人生を彩り豊かにしてくれる存在として動物たちと接してきた筆者。赤坂動物病院の院長として、1人の人間として、幼少から今に至る優しい色彩のエッセイです。

Text & Photograph by SHIBANAI Akiko

食卓は「実験室」だった

父はすでに40年近く前に他界している。大変食道楽で、しかも実験好きだった。自身でファインケミカルの会社を持ち、幾つかの国内外の特許も持っていた。いわゆる発明のような事もしていた。それは家での料理にも発揮された。

私は幼少期から朝からとんかつ、カレー、沢山の目玉焼き、モーニングステーキなどが並ぶ朝食をよく経験した。父の実験好きは色々なものを混ぜ合わせて美味しくするという方向に発展しており、当時はまだ飲むと舌の色が着色で変わる清涼飲料などもあり、父は炭酸清涼飲料と色々なものを混ぜて試していた。色々な実験飲料の中で私はファンタグレープに牛乳を混ぜて飲むのがお気に入りだった。しかし、早めに飲まないと徐々に分離してもろもろとした塊ができはじめ、飲み物自体の滑らかさが失われて美味しくなくなる事に気づいてからはカルピスを牛乳で割るというスタイルに移っていった。

他にも納豆とツナに青じそにネギをまな板で叩いてご飯に載せて食べたり、海苔で巻いて海苔巻きにしたりもしていた。ツナは時にマグロのお刺身になった。また、父はフランス料理が大好きで、母によると当時は資生堂パーラーに会社関連で御縁のあった紳士の田中さんという方と毎日のように通っていたそうだ。資生堂パーラーカードというのがあり、その1番と2番を田中さんと父が持っていたらしいから、あながち誇大表現でもなさそうだ。

そして自身でも様々なものを混ぜ合わせてジューサーミキサーでソースにしてお肉やお魚に自作ソースをかけては「美味しいだろう?食べてみなさい」と母にも私にも、うちに出入りしていた外祖母にも勧めて、反応や感想を聞くのが大好きだった。

そのような中で私は父から禁断の食べ物を教わってしまう。暖かいご飯にバターを載せてそこにお醤油をすこし加えて好きな味に調整していただくのだ。そう、バターご飯。月並みだがそれは至福の味だった。海苔で巻くこともあったし、いくらが投入されることもあった。暖かい湯気の立つ半透明に光るご飯にバターが完全に溶けきる直前の、あの一番魅力的な過程で発揮される最高の風味を余さず自分の物に出来る喜びといったら。小学校低学年の子どもに教えるには罪深い組み合わせだ。

特に「いくら」が入ると本当に止められなくなる。当初は父が開業し母が受け継いだ動物病院の隣には緑寿司さんがあった。そこのカウンターで私はさびぬきカッパ巻きとピンクのでんぷ巻きを頂くのが定番で、生魚を中々食べられなかったため,他に食べられるネタがいくらの軍艦だった。おそらく小学校に入る前から私はいくらのことを「めめ、めめ」と言って愛でていた。あたりまえのように思っていたが、数十年経って振り返ってみるといくらのことを「めめ」って・・すごくシュールな表現ではないか?確かに眼球そのものに似ているが。

それはさておき、父から教わったのは禁断のバターご飯であるが,父の父である内祖父から教わったと父が言っていたのが牛乳ご飯である。これは今も私の周囲で日常的に食す人を見たことがあまりない。暖かいご飯に冷たい牛乳をかけていただく、私はこの食べ方もこよなく愛している。(今も)北海道の一部などで食べられることがあるらしいが祖父は北海道出身ではない。

内祖母は大分県、外祖母は岐阜県の人で本家は岩手県なのでどこからきた習慣なのか今も不明である。(内祖父のルーツは東北で、あるとき石川啄木の日記にほんの一瞬登場していたのを発見して大変驚いた)このこと(牛乳ご飯のこと)は今までほぼ明かしてこなかった。一部気持ち悪がられる気配を色濃く感じていたためだ。おそらく好き嫌いが分かれる。だがあの温度差とテクスシャーに牛乳好きにはたまらないミルクの芳香はご飯によく合う。フランス料理には「リオレ」(牛乳粥)があるように食材としてはぴったりのはずだと思う。未体験の方は一度試してみてください。

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柴内晶子(しばない・あきこ)

赤坂動物病院院長。日本大学農獣医学部卒業後、日本獣医畜産大学臨床病理学研究室などを経て、2016年に同院院長に就任。父、母に続く3代目院長として、伴侶動物医療と「人と動物の絆(Human Animal Bond)」を軸にした診療を推進している。内科全般、一般外科、再生医療を専門とし、農林水産省獣医事審議会元委員、日本大学生物資源科学部獣医学科非常勤講師なども歴任。高齢者と動物の共生支援やアニマルセラピー活動など、獣医療を通じた社会貢献にも力を注ぎ、「人と動物が幸せに暮らせる社会づくり」を生涯のテーマに掲げている。

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