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「もう怒鳴りたくない…」 【中学受験の伴走】でギリギリ 共働きの親たちに贈るプロの言葉

  • 2026.10.31
cocreco写真:アフロ

仕事と家庭を両立しながら進める中学受験の伴走は、心身ともに過酷なマラソンです。

教育ジャーナリスト・おおたとしまささんは、「中学受験は、過熱する受験報道や外野のバッシングに振り回されず、各家庭のペースを守ることが何より重要」といいます。

この記事では、話題の新刊『中学受験伴走力 親がすべきこと、知るべきこと』(講談社+α新書)を手がかりに、完走するための心得をおおたさんに語っていただきました。

おおたとしまさPROFILE

教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。リクルートから独立後、教育に関してさまざまな観点から取材を行い、著書は90冊以上。どこの組織にも属さない在野の視点で現代の教育への考察・提言を続けている。メディアへの出演や講演も多数。

80万円の夏期合宿報道で広がる波紋 過熱する中学受験批判の違和感

2026年の夏、ある学習塾が「34泊35日、総額80万円の勉強合宿」を行ったことを全国紙が報じた。

この記事がミスリードだった。この塾は、授業料がかからない公立中高一貫校対策を得意としている塾であって、こういっては申し訳ないが、いわゆる難関私立中高一貫校受験対策塾のメインプレーヤーではない。そのことが書かれていなかった。

SNS上で、「人権感覚が麻痺しているのではないか?」「そこまでしなければ合格できないのはおかしい」「高額な合宿に参加できる家庭とそうでない家庭との間で教育格差が広がる」などと、中学受験そのものに対するバッシングが巻き起こった。

いわゆる中学受験のトップ校に挑むような子どもたちが通う塾ではないのだから、この塾のこの合宿に参加しないとみんなが羨む難関私立中学に合格できないなんてことは断じてない。

むしろ過激な私立中学受験を回避するために、公立中高一貫校にターゲットを絞るご家庭がこの塾には多い。しかも、授業料無料の公立中高一貫校を狙うご家庭の多くは、わが子の教育に対して湯水のようにお金を使う富裕層ではない。

cocreco写真:takasu/イメージマート

私に言わせれば、この合宿の本質は、次のようなところにある──。

子どもの教育費を捻出するために、夫婦で必死に共働きする。そのうえでさらに子どもの受験勉強に伴走してやらなければならない。疲れている。時間がない。

なのに、子どもの成績が上がらない。やる気が感じられない。隠れてゲームをやっている。つい怒鳴ってしまう。かわいいわが子を傷つけてしまう。自己嫌悪に陥る日々……。

夏休みを前にして、夫婦で顔を見合わせる。「さあ、どうする?」。子どもが夏休みでも会社は休めない。だったら「まるっとひと夏お願いしたほうが、家族みんながハッピーじゃない?」。話がまとまる。

──いわば、夏休みのアウトソーシングである。

毎日家でコツコツ勉強した子と、この合宿に参加した子とで、学力に大きな差が開くなんてこともあり得ない。

ただし、秋以降の不安が高まる時期に「あの夏合宿をやり切ったんだ!」という思い出が自分を支えてくれることはあるだろうとは思う。塾だって、その「通過儀礼」的な意味合いこそを本質的な目的にしているはずだ。

親を追い詰める外野の声 共働き家庭が直面する切実な夏休み

つまり、かなりスポ根的な精神論の話であって、あくまでもこの塾の流儀の話であって、一般的な中学受験の過熱とは文脈を分けて考える必要がある。

中学受験が一部で過熱しているのは事実である。しかし、こういうちょっと変わった一企業の取り組みを、受験競争や学歴社会の歪みの象徴と見なすのは、はっきり言ってお門違いだ。

むしろ、放課後のみならず夏休みまでアウトソーシングしなければならない現代の子育て事情の問題だととらえるべきである。

cocreco写真:maruco/イメージマート

本当の富裕層は、海外のサマーキャンプやスタディーツアーに子どもを参加させるなど、80万円どころではないお金を使って夏休みのアウトソーシングをしている。それに対し、件の勉強合宿に通わせるご家庭はおそらくこんな家庭である──。

“私立中学に通わせるお金はない。いわんやアメリカのサマーキャンプに参加させるお金なんてあるわけない。自分で勉強を教える時間も能力もない。せめて勉強合宿だけでも行かせてあげて、無料で通える都立中学で教育を受ける機会を与えてあげたい”

そんな親御さんたちの切実な顔が私の目には浮かぶ。なのに、この合宿に参加させる親が、あたかも富裕層で、子どもの人権を無視して勉強を強いるひとたちであるかのような言説がSNSを舞うのを見て、心が痛んだ。

あの合宿に参加してはいない中学受験生の親たちも、まるで自分が責められているかのような気がして、心がざわついたのではないだろうか。

ただでさえ、仕事をしながらギリギリの精神状態で子どもの中学受験勉強に伴走しなければいけないのに、一方ではそのこと自体が、過干渉であるとか人権軽視であるとか教育虐待であるとかいわれるのだから、たまったものではない。

中学受験は良薬にも猛毒にもなる 第一志望の合否を超えた親子の絆

いやたしかに、中学受験において、過干渉や人権軽視や教育虐待まがいのことが起きていることも事実ではあるが、あくまでもそれはごく一部であって、多くの親御さんは、日々、迷いながら、悩みながら、戸惑いながら、わが子に伴走しているのである。

その、決して楽ではない親子二人三脚のマラソンの日々のなかで、それでもかけがえのない経験ができたと胸を張って中学受験を終えるご家庭はたくさんある。

意外にも中学受験経験の満足度は高い。結果が第一志望合格ではなかったとしても、である。中学受験には、単なる苦行ではない何かがあるのだ。

この感覚が、親としてあるいは受験生として中学受験を経験したことのないひとたちにはなかなか伝わらない。よほど勉強が嫌いだったのか、むりやり勉強させられたトラウマがあるのだろう。

そういうひとたちに中学受験を理解してほしいとは思わない。ただ慎んで、「外野がガチャガチャ、うるせーなー」とは申し上げたい。

仮に本人の意志に反してむりやり押し込まれたのなら、勉強合宿だろうがサマーキャンプだろうが、34泊35日だろうが3泊4日だろうが、“子どもの人権”という観点からは疑いがもたれても仕方がない。

内容や期間の問題ではないはずだ。あの勉強合宿には私も個人的には与したくないが、「長期間の勉強合宿」という「形式」だけで非難されるいわれはないと言っておかなければフェアではない。

中学受験はやり方次第で、良薬にも猛毒にもなる。

cocreco写真:takasu/イメージマート

首尾良く第一志望に合格できる子は3人に1人くらいしかいないといわれる中学受験で、心身の限界を超えてまで勉強させて何が何でも第一志望合格をつかみとらせるのが親の役割だと思っている親御さんはほとんどいない。多くの親御さんは、中学受験の猛毒の部分を解毒し、良薬の成分を最大化する方法を知りたがっている。

自分には入試問題なんて解けるわけがない前提で、子どもの成績が伸び悩んでいるときや、子どものやる気が感じられないときに、どんなかかわりをすればいいのかを知りたいだけだ。

正解がないからこそ親は悩む 『中学受験伴走力』が教えてくれる寄り添い方

その答えを求めて、中学受験塾のカリスマ講師の本や、“勝ち組”となった親の手記に、中学受験生の親たちは手を伸ばす。しかし、たった一人の視点で書かれた方法論が万人にとっての正解になるとも考えにくい。

そこでおすすめしたいのが『中学受験伴走力 親がすべきこと、知るべきこと』(講談社+α新書)である。著者は教育ジャーナリストの佐野倫子さん。ご自身の中学受験に「あのとき、12歳で本気でがんばったな」というたしかな感覚がいまでも胸に残っていると言う。

第一志望の扉は開いてはくれなかったのに、である。すでに第1子の中学受験を終え、現在第2子の中学受験に伴走中だ。もろに当事者である。

その佐野さんが、早稲田アカデミー、フォトン算数クラブ、ジーニアス、SAPIX、TOMAS、グノーブルなどの中学受験対策のトップ塾のカリスマ講師から、根掘り葉掘り具体的なアドバイスを聞き出す(冒頭の合宿の塾は含まれていない)。

各講師の話には、よく読めばズレや矛盾もある。しかしそれがこの本のいいところだ。解釈に余白ができる。

第3章では、国語、算数、理科、社会の教科ごとに、低学年、4年生、5年生、6年生と学年別に、伴走のコツを伝授してくれている。

第4章では、これまた学年別に夏休みの過ごし方を具体的に指南してくれる。個別指導塾や家庭教師の活用法も紹介されている。

第5章では、親として最もシビれる直前2ヵ月間のすごし方を扱う。ここからは、リアル保護者のインタビューに加え、佐野さんご自身の親としてのファインプレーや、やらかしエピソードもふんだんに語られる。ここまで当事者目線かつ多様な考え方が網羅されている中学受験本はなかなかない。

ただし佐野さんはくり返す。「中学受験に絶対の正解はない」。そして「おわりに」では、「たくさんの現場を取材して、大切なのは子どもの個性をよく見て、それぞれのペースで進んでいくことだと痛感しました」とも。

同感だ。結局、知れば知るほど、正解などないことがわかる。正解がないことを知るために、私たち親は正解を求めて右往左往するのだろう。その右往左往のガイドブックとして、『中学受験伴走力』をお勧めしたい。

カリスマ講師や先輩保護者のアドバイスを参考にしながら、結局のところ、自分の頭で考えて、自分の心で感じて、最後の最後はわが子を信じるしかないのだということが、この1冊を読み終えたときには腑に落ちているはずだ。

文/おおたとしまさ

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