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女性なら誰だってほしい、友だち以上恋人未満の「男ともだち」|人気小説『男ともだち』が映画化へ

  • 2026.10.30

女性なら誰だってほしい、友だち以上恋人未満の「男ともだち」|人気小説『男ともだち』が映画化へ

2014年に刊行された小説『男ともだち』が映画化され、11月6日から公開される。直木賞候補にもなった『男ともだち』は、今も根強い人気のロングセラー傑作小説だ。原作者の千早茜さんは、『しろがねの葉』で2023年に直木賞を受賞した小説家。著者作品初の映像化となる今回、小説に込めた思いや映画の見どころを伺った。

Profile

千早茜さん 作家

ちはや・あかね●1979年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2008年、第21回小説すばる新人賞を受賞。『魚神』(「魚」から改題)でデビュー。09年、同作にて第37回泉鏡花文学賞、13年『あとかた』で第20回島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で第6回渡辺淳一文学賞、23年『しろがねの葉』で第168回直木賞を受賞。ほかの小説に『正しい女たち』『神様の暇つぶし』『西洋菓子店プティ・フール』『ガーデン』『ひきなみ』『赤い月の香り』『マリエ』『雷と走る』『燻る骨の香り』など、エッセイに『わるい食べ物』シリーズ、共著に『犬も食わない』(共著者・尾崎世界観)、『胃が合うふたり』(共著者・新井見枝香)、『眠れない夜のために』『しろとくろの偏愛』(共著者・西淑)などがある。

「男ともだち」は実在しうるのか?

「男ともだち」、それは友だち以上、恋人未満のあいまいで特別な存在。いつ恋人になってもおかしくない危うさを秘めつつ、その微妙なバランスをあえて保つことに快感がある。

映画『男ともだち』は、京都在住のイラストレーター・神名と、その「男ともだち」ハセオの物語だ。

ハセオは神名の大学時代の先輩。なぜかずっと気にかけてくれて、卒業後、離れ離れになっても遠くから見守ってくれている。会うといつも「おまえ」呼ばわり。口調はぶっきらぼうで、遠慮なくからかったりなじったりするけれど、その根底に愛情がにじむ。

そして、一見、仕事も恋愛も順調そうに見えるが、実は行き詰まりを覚えて立ち尽くす神名を、的確かつあたたかな言葉で勇気づける。そんな「男ともだち」と共に過ごした京都、富山、広島の「3つの夜」が、葛藤する神名をクリエイターとしての自立へと導いていく。

原作は直木賞作家・千早茜さんの『男ともだち』。14年の刊行当初から話題となり、現在も幅広い層の女性から支持される長編小説だ。

「この小説が直木賞候補になり、話題になったときに、ハセオという存在が非現実的だという意見がわりとあったんです。『女性の理想』、『少女漫画の都合のいい存在』みたいに言われたりもしていたので、実写化してハセオがめちゃくちゃ嘘っぽくなったらどうしようと心配でした。映画化の情報が流れたときもSNSでは『誰がハセオをやるのか』で持ち切りで、神名のことにはほとんど触れられていなかった。神名という人物像はリアルなんですけど、ハセオは現実にいなそうな、もしかしたら神名の幻想かもしれないくらいのイメージでしたね、小説では。実際に生身の人間が演じられるのかと案じていましたけど、生身のハセオでした(笑)。改めて役者さんってすごいなと思いました」と千早さん。

大学の映画サークルで出会って12年になるふたりが恋人同士だったことは、一瞬たりともない。神名には惰性で同棲を続ける恋人と、不毛な逢瀬を重ねる、妻子ある医者の浮気相手がいる。ハセオは富山で製薬会社のMRとして働き、恋愛は自由奔放。そんなふたりが危うい瞬間を経ながらもずっと男女の関係にならないことが、あいまいだけれど確かなつながりを生み、甘く、苦く、せつない感情が醸成される。

「男ともだち」はズルい存在?

千早さん自身には、「男ともだち」がいるのだろうか?

「学生時代に仲のいい男ともだちはいましたが、恋愛になるかもしれないという危うさはなかったですね。でも社会人になった後は、女性の人生のほうが入り組んでくるので、今は断然、女友だちのほうが多いです。美容や出産、更年期、仕事、家事との両立など話題が多岐に渡ってくるので、男ともだちとは話が合わなくなってくるんです」

そもそもは男女の友情の話ではなく、「お仕事小説を」という依頼だった。

「担当編集者が若い女性だったので、社会人になりたてで仕事をバリバリがんばろうとしているときに、恋人ってたまに邪魔だよねという率直な女子トークから始まって、お仕事小説がこういう形になったんです。私自身、この作品を書いた13年前は小説家としてデビューして3、4年くらいの、仕事をすごくがんばっている時期でした」

では、自分がバリバリ仕事したいときにどんな存在が支えになるのか?

「神名は29歳。女性って30代前半で、まわりから結婚はどうするの? 何歳で出産するの? など圧がかかって、早い段階で人生を決めていかないといけないじゃないですか。恋人がいれば、結婚や先の可能性を無意識のうちにもうっすら考えちゃう。でも、男ともだちなら先の約束をしているわけではないので、小説にも書いたように今だけのズルい関係でいられる。そういう人がいれば支えになるかなって。自分の人生を全部自分で決めていく中で、ちょっとした息抜きというか、オアシスみたいな存在になるのではないかと」

「男ともだち」との形のないあいまいな関係性。

「こういう関係性を書こうと思ったのは、私自身の状況も関係していたと思います」

千早さんは、この作品を書く直前に結婚をしている。

「当時、30代前半だった私は、結婚とは契約という形にはまることだという意識がありました。もともと生真面目だし、初めての結婚だったので。だから、こういうあいまいな関係を文章で、物語として残しておきたいという気持ちがあったのだと思います」

その後、離婚し、数年前に2度目の結婚をした千早さん。

「今は、結婚というものをもっと自由なものとしてとらえています。要は気の持ちようですね(笑)」

試写を観て、涙したワケ

今回、自著初の映像化となる。自分の書いた小説が映像になるというのはどういう心持ちなのだろう?

「私は小説でしかできないことをやろうと思って書いているので、映画自体はとても好きなんですけど、正直、映画化には不安がありました。自分の好きな作品が映画化されるときもどちらかというとネガティブな気持ちになるので、そういう気持ちを自分の読者にも与えたくないと思ってしまうんです。でも今回、試写を観て、物語の核をつかんでくださっていると感じました」

試写を観て、千早さんは泣いた。

「ストーリーの結構早めの段階で、神名とハセオが電車の中で7年ぶりに偶然会うシーンがあるんです。それまでずっとかたい顔だった神名が、ハセオの顔を見て、すごく嬉しそうな安心した表情をするんです。その瞬間、『あぁ、神名がいる。神名がハセオに会えた』と心が震え、涙があふれました。説明がなくても、そこが神名にとって本当にやすらげる場所だということが一瞬で伝わってきたんです。私の書いた神名はちゃんと映画の中で生きている、と感じました」

『男ともだち』は、ふたりだけの世界を書きたかった小説だという。

「神名とハセオがかわした会話は、本当はもっとたくさんあるんです。ふたりの会話をたくさん書いてそれを切り取って小説に入れているので、使っていない会話や時間が私の頭の中にまだまだあるんです。それを、監督はちゃんとつかんでくれたと思いました。小説には電車の中でばったり会うシーンはないんですが、監督がこのシーンで、そういう見えない時間を表現してくれた、と胸が熱くなりました」

映画化してよかったと思えたもうひとつの理由が、「絵の美しさ」だった。撮影は京都、福井、広島で行われた。3つの街の空気感や、神名とハセオそれぞれの部屋のインテリアが、ふたりの感情とないまぜになって、言葉を超えた雰囲気を醸し出す。

「映画としての画が美しいこと、そして、大好きな画家の田中千智さんが、神名の描く絵を制作してくださったのがうれしかったです。映画内で使われる絵にリアリティと説得力がなかったら、厳しいなと思っていたので」

神名は、絵を描くことを生業にしている。千早さんの中で、「絵を描く人」は特別な存在だという。

「誰に依頼されなくても描くというのが本当の表現だと思うので、ファインアート(純粋芸術)への強いあこがれがあります。私の小説は依頼があって書いて世の中に出すのでファインアートではないし、言葉にしている時点ですでに違う。イラストレーターをしながら個展をやっている友達がまわりに結構いて、そういう人たちにとって本当に描きたい絵と依頼されて描く絵の間に葛藤はないのかとか、そういうことを考えたくて神名の職業を選びました」

実は京都で大学生活を送っていた頃、千早さんも絵を描き、小さなギャラリーで個展を開いたこともあるという。

「美大に行っていたわけではなく、ただ趣味で描いていました。その絵に文章をつけていたら、『文章のパネルだけもらっていいですか?』と言う人が多くて、『あ、自分は絵じゃないんだな』と悟ったんです(笑)」

いつもどこかで見ていてくれる人がいたら

「ファインアート」があるなら「ファインラブ」はあるのだろうか?

「私は結構シビアなので、金銭的に自立ができていない時期は自分の恋愛感情に慎重になったほうがいい気はします。経済的にひとり立ちしていない人が『好き』という気持ちを金銭に変換してしまうと、物理的にその相手なしには生きていけなくなる。好きな人に養ってもらわないと生きていけないという現状が恋心に変換されるのは、ちょっと避けたいですよね」

今は仕事を持ち、経済的に自立できる女性がふえた。しかし、結婚と仕事の両立がむずかしい時代には、経済力のある男性と結婚することが女性の幸せとされた。それは、結婚と愛情がイコールではないということだ。

「仕事があれば、ひとりで生きていける気がします。私自身は、精神的にはひとりでも大丈夫なタイプです」

では、純粋な「愛情」とは?

そんな漠然とした問いへ、「見ててやること」と核心を突く答えを返したのはハセオ。「何も考えんと、好きなところまで走ってけ。誰もおらんくても……見ててやるわ」と、神名に言葉をかける。その言葉は、クライアントワークに忙殺される日常から離れ、自分と向き合い、魂の作品を制作しようとする神名の背中をそっと押す。

人はひとりで奮闘し、孤独と焦燥、不安にさいなまれるときも、どこかで誰かが見ていてくれると思えば、また力が湧いてくる。

ハセオみたいな「男ともだち」がいたらいいな、と女性ならきっと誰もが思う。現実にはいなさそうだけど、どこかにいるかもしれない。自分に嘘をつくことなく、一生懸命やっていたら、そういう人が現れるかもしれない、そんな気持ちになれる映画だ。

【Information】映画『男ともだち』

京都で暮らすイラストレーター神名(松岡茉優)は、仕事もプライベートも順調に見えるが、30歳を目前に描きたいものを見失い、惰性や不毛な恋愛に逃げる日々を送っている。昔から自分勝手で人間関係に不器用なのは自覚している神名だが、出会った頃からなぜか自分のことを深く理解してくれる“男ともだち”ハセオ(成田 凌)からの思いがけない電話をきっかけに、7年ぶりに再会。あの頃も今も変わらない温度で接してくれるハセオと京都、富山、広島で過ごす。甘く、苦く、せつない“3つの夜”が神名の人生を大きく動かしていく。

出演:松岡茉優、成田 凌、井上祐貴、中島 歩、咲妃みゆ、三浦貴大、辻 凪子、中山求一郎、比喩根(chilldspot)、余 貴美子、池端慎之介
原作:千早茜『男ともだち』(文春文庫)
監督:三島有紀子
脚本:澤井香織 音楽:安川午朗
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:カズモ
公式サイト:https://happinet-phantom.com/otokotomodachi/
公式X(旧Twitter)・公式Instagram:@o_tomodachifilm

撮影/神ノ川智早 ヘア&メイク/金岡沙梨奈 取材・文/依田邦代

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