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酒井若菜、40代で決意した「自分ファーストな生き方」――13年ぶりの写真集『ぴこぴこ。』がもたらした解放

  • 2026.10.25
酒井若菜 クランクイン! 写真:高野広美 width=
酒井若菜 クランクイン! 写真:高野広美

芸能生活30周年という大きな節目に、酒井若菜が13年ぶりとなる写真集『ぴこぴこ。』(講談社)を上梓した。そこに刻まれているのは、かつてのトップグラビアアイドルとしての自負でも、成熟した女優としての重厚なメッセージでもない。自然体で自由な、ありのままの自身の姿だ。しかし、その飾らない「気ままさ」が、酒井の現状のマインドと見事に重なっている。

【写真】酒井若菜、美しさあふれるショットの数々 写真集『ぴこぴこ。』より(4枚)

■意味からの逃走――「ぴこぴこ。」という名の静寂


2013年の『I LOVE YOU』(ワニブックス)以来、13年という空白を経て企画された最新写真集。最初に出版社からオファーをもらったとき、酒井は「元々グラビアをやっていたので、露出度の高い“ザ・グラビア写真集”か“女優っぽい写真集”のどちらを求められているのかを確認することから始めました」と振り返る。

特に今回は芸能生活30周年という節目。大きな区切りは物語としての完結性を強要しがちだが、出版社側から提示されたのは「ノーコンセプト」というものだった。

「節目という言葉にはどうしても意味を持たせてしまいがちですが、打ち合わせの段階から、編集部の方は『作品自体に意味を持たせなくてもいいのでは?』と言ってくださいました。ただ湿度の高い大人の情緒ではなく、もっとカラッとした抜けの良さを大切にするということ。それと情緒的なロードムービー風ではなく、写真が一枚一枚ただそこに置かれているような構成にしたいというお話を聞き、それはいいなと直感しました。ストーリーもメッセージも持たない軽やかさこそが、今の私に相応しいと思ったのです」。

だからこそ、タイトルからもすべての「意味」を剥ぎ取ることにした。

「打ち合わせの際、意味を持たないオノマトペや擬音、例えば『ぴこぴこ』的な……と、本当になんとなく口にしたんです。そして、そのまま決まりました。とにかく変に重さのあるものにはしたくなかった。極力軽く、ただそこにあるような存在を目指した結果のタイトルでした」。

■40年目の目覚め――「若菜ちゃん」という他者への慈しみ


こうしたコンセプトは、酒井が40歳のときに大きく変えた人生のコンセプトと合致した。誰かのために生き、誰かを輝かせる。周囲の空気を読み自らを抑圧する癖。激動の芸能界であれプライベートであれ、酒井は「完璧な助演」として自らの声を消し続けてきたが、その歩みにストップをかけ、40歳という年齢で方向転換をした。

「それまでは人のために生きてきた人生でしたが、もう一度マインドを整え、自分の人生の主人公をちゃんと自分にしようと決めました。そこから人との接し方やコミュニティのあり方まで、すべてを刷新したのです。これまでの40年は前半戦、これからは後半戦。そう考えたとき、ようやく自分をメインに据えて生きることが許されるのではないか、という思いに至りました。もしこれが30歳の時だったら、まだ助けなければならない人がいると考え、自分を大切に生きるなんて到底できなかった。少なくとも私にとっては、40年という歳月がどうしても必要だったのです」。

他者には献身を捧げながら、自分自身の心は置き去りにされていた。その悲痛なまでの気づきが、酒井を新たな生き方へと駆り立てた。

「40歳のころ、ふと自分が可哀想だなと感じました。誰かのためにこれほど尽くせるのに、自分自身のためには何一つしてあげていなかった。ある時に『若菜ちゃん』という一人の人間として、自分を他人のように客観的に眺めたとき、あまりにも大切にされていない事実に気づいたんです。だから、これからの後半戦は、『若菜ちゃん』という人を何よりも大事にしてあげようと決めました。そのとき、自分という存在が突然、鮮やかに浮き上がってきた感覚がありました」。

■誠実さと不完全さの調和――「抜き」がもたらす新境地


プロの現場でも、酒井は常に主演を立て「私は大丈夫です」と言い切ることで自らを律してきた。だが、自らの本音を口にし始めたとき、表現者としての彼女はさらなる高みへと足を踏み入れた。

「かつての私は、『私は嫌だ』『こうしたい』という希望を閉じ込めてきました。でも、その40年間で積み重ねた癖を自覚したうえで、ようやくそれを言葉に出せるようになったんです。飲み込めるわけがないことを飲み込んできた前半40年。少しずつ飲み込めないことは吐き出してもいいんだと自分に教えていくうちに『若菜ちゃん』という人が喜んでいるのを感じました」。

仕事に対して常に誠実であろうとする姿勢は、もはや細胞レベルで刻まれた習性だ。だからこそ、酒井はあえて意識的に力を抜くことを試みた。そこには自分自身への強い信頼があったからだ。

「これまでは20ページの長台詞を長回しで一気に撮るような集中力を必要とする緊張感のある現場が好きだったし、得意でもありましたが、今回の写真集には、そうした集中力や緊張感とは無縁だからこその面白さがありました。撮影では手応えがないまま終わったような感覚さえありましたが、それこそが私の求めていた『抜け』。集中力ではない場所から何かを出すフェーズにようやく入れた気がしています」。

■30周年の先に見える景色――ハプニングの魔法を超えて


酒井の演技を評して、人はよく「ハプニング芝居」と呼ぶ。画面上で見せる無防備な笑顔や涙は演じているのではなく「ハプニングとして起きたもの」という評価。しかし、その正体は、酒井が長年培ってきた「誠実さ」という名の技術と、自らを解放することへの静かな決意だった。

「私のお芝居を観てくださった方から “本当に笑ってしまった”“思わず泣いてしまった”などと言っていただけることが多いのですが、実は、ハプニングで笑ったり泣いたりしたことは一度もありません。すべて演技です。ただ、ハプニングに見えるということは、演技に固さがないということ、つまり『抜け』が見ている方に届いているわけです。もしそうならば、これほど嬉しいことはありません。これからはさらに考えずとも体だけで動いていけるような境地に辿り着きたい。今回の写真集は、そんな私の新しい挑戦を象徴するものとなりました」。

意味を持たない「ぴこぴこ。」という言葉。そのどこか軽やかで心地よい響きは、肩の力を抜きつつ誠実に表現と向き合おうとする今の酒井の姿と重なって聞こえる。

「これからの10年、20年。自分の感性を尊重しながら歩んでいった先に、どのような景色が待っているのか。クオリティを保持しながらも力を抜く面白さを、あらゆる表現の場面で楽しんでいきたいと思っています」。

30周年の記念碑は、重たい石碑ではなく、空へと舞い上がる風船のように軽く自由だ。酒井若菜の第2章は、今、この軽やかな響きと共に鮮やかに幕を開けた。「誠実」ながらも「抜け」を楽しみ、何にも縛られない自由な感性で佇む――。そんな酒井の魅力が存分に詰まった写真集と共に羽ばたき始める。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)

酒井若菜の最新写真集『ぴこぴこ。』は、講談社より発売中。

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